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第8話 決着と不穏な来客

私の言葉が庭に静かに響くと……


フェルダー卿の表情が一瞬凍りついたのが分かった。


彼は再び肩をすくめて笑ってみせたが、その笑いは先ほどほど軽やかではない。


「な、何をおっしゃいます、エレステ様。そんなこと…何を根拠に…」


フェルダー卿の声には、焦りが滲み始めていた。

動揺を隠しきれず、彼の視線は左右に泳いでいる。


「王国の議会は急に決まるものではなく、事前に日程が組まれていたはずです。

それを王室執事長のあなたが御存じないわけないんです。

だからこそ、今日を選んで荷物を搬入することを、偶然だとはどうしても思えないのです。」


私はゆっくりと荷馬車に向かって歩きながら続けた。


「そして、この左の車輪のナットに入った不自然な亀裂、不均等な荷の積み方…

まるで積み荷をわざと崩すように仕向ける指示書…

この全ては王国の貴重な品々を運ぶために用意されたものなのでしょうか?」


フェルダー卿は返答に窮し、唇を引き結んだまま沈黙する。

その表情には、明らかな動揺と困惑が浮かび、顔面はまるで雨に打たれたように汗でびしょびしょに濡れている。


パチパチパチパチ…


突然、拍手が響き渡り、その音に驚いて後ろを振り向くと、一番後方の馬車から、全く見覚えのない少し年上の青年がゆっくりと現れた。


「お見事な推理だな!エレステ嬢!」


彼は大きな声で声を上げ、足早に駆け寄ってきた。

その動きには抑えきれない興奮が込められており、彼の目はキラキラと輝いていた。


「いやあ、噂に聞きていた話とは違うが、ずっと素晴らしいよ!

エレステ・アレキサンダード、君は本当に興味深い人だ!」


彼は嬉しそうに私の両手を取ると、顔をぐっと近づけてきた。

彼の端正な顔立ちとパープルの瞳が、歓喜と興奮でさらに輝いている。


「おや、君も僕と同じくパープルの瞳を持っているんだね!!!」


その勢いに圧倒されながらも、私は慌てて彼の手を振りほどき、彼を睨みつけた。


「ちょ、ちょっと、やめてください!」


周囲の使用人たちは、驚きの表情を浮かべながらも、誰もが静かに見守っていた。


彼は手入れが行き届いた艶やかな長い黒髪を持ち、優雅なカットに繊細な金糸の刺繍が施されたジャケットを羽織っている。


「おっと、これは失礼!素晴らしい推理に興奮してね!」


彼は愉快そうに笑いながら、フェルダー卿の方を振り返り、その表情には満足と楽しさが溢れていた。


「これではマックスもぐうの音もでないだろうね!」


そう言うと、青年はフェルダー卿の方へ近付き彼と視線を合わせる。


「今回は、マックス!君の負けだよ!完敗!残念だったね!」


青年の顔を認めるやいなやフェルダー卿の動揺はさらに深まり、顔が真っ青になっていく。


青年は、こちらに振り返り軽く私達に一礼する。


「今回は、すまなかったね!

この騒ぎはこちらで持ち帰るよ!

マックスがしっかり詫びて素晴らしい夜会を開いてくれるはずさ!」


そう言うと彼は軽快な足取りで馬車の方へと歩き出した。


ドタン

フェルダー卿が重い音を立てて膝をつき、啜り泣きをする。


「う、う、ううう…」


周囲の使用人たちも、言葉を失い、ただ呆然とこの状況を見守っている。


すると、突然、青年が踵を返し、再び私の方に駆け寄ってきた。

そして私の耳に手を添えると耳打ちをする。


「僕はね、多分もうすぐ殺されるんだ。

もし…僕が死んだらさ…エレステ、今日みたいに狼を見つけ出して必ず吊って欲しいんだ」


彼の言葉は、あまりにも突然で、思わず息を呑む。


一瞬の出来事に抵抗もできずにいると、青年は私の耳に優しくキスを落とし、すぐにまた馬車へと歩き始めた。


彼は、まるで何事もなかったかのように馬車に乗り込み、すぐに出発の準備を始める。


そして、フェルダー卿の啜り泣きとともに、青年が去る馬車の音が静かに響いていた。


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