第3話 ようこそ『キル恋』へ!
ルプを自室に帰したあと、私は改めて今日得た情報を思い返していた。
「うーん…信じがたいけど…やっぱりこれしか正解が見つからない…」
エレステ・アレキサンダード
アレキサンダード領
ベッドから立ち上がり、窓際へ移動すると、そこに映る少女はもちろん以前の私の姿ではない。
「はあ…」
溜め息をついて窓を開けると、風に乗って薔薇の香りが部屋中に広がった。
そして、窓の外には夜なのに美しく光る薔薇の庭園が目に映る。
庭園には多くの色とりどりの薔薇が咲き乱れ、月明かりに照らされて幻想的な光景を作り出している
もう、これは間違いない。
私は、乙女ゲーム×人狼「薔薇咲くキルか恋満チル」の世界へ転生してしまったのだ。
しかも、その中での『エレステ・アレキサンダード』は、ヒロインを虐め倒し、ヒロインや攻略相手も隙あらばキルしまくる人狼で、最後は生き残ったヒロインと攻略相手に吊られる悪役令嬢!!!
私が仕事で開発していたAIに『キル恋』を学習させて攻略してみたこともあったけど、
結局エレステのせいで一度も生き延びてクリアできなかった…
そんなトラウマゲームの悪役令嬢に転生してしまうなんて…
「理不尽だー!!!!」
頭を抱えしゃがみ込んだ。
どうしてこんなゲームの世界に転生しちゃったんだー!
「もう、最悪…。
エレステは最恐の悪役令嬢だし、どんなに頑張ってもキルするか最後は吊られる運命なんだから…」
必死に状況を整理しようとしても、どうにもならない絶望感が押し寄せてくる。
その時、ふと、私はあることに気づいた。
あれ……
も、もしかして……
私さえ人狼としてキルしなければ、何も始まらないんじゃない……?
「そうしたら、人狼ゲームなんて始まらず、普通の乙女ゲームになるのでは……?」
さっきまでの絶望感が解き放たれ、急に気が軽くなる。
「いくら見た目がエレステでも、中身の私が善良な一般市民なら、きっと大丈夫でしょ!!!」
少しだけ安心すると気が抜けたせいか、一気に眠気が押し寄せてきた。
「とにかく、一回寝てリセットしよ!
朝起きたら全部元通りかもしれないし!」
両手を高く上げ背伸びをし、その勢いに任せてベッドに飛び込んだ。
ふわりとしたベッドの感触が心地よく、柔らかなリネンに包まれていると、いつの間にか深い眠りについていた。