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第22話 番外編 メイヤー・アレキサンダード(下)

母上が亡くなった。


僕はこの短期間に二人の母親を失った。


母上の死は、王国監察局が徹底的な捜査を行った結果、事故死という結論に落ち着いた。


しかし、誰もがそれを納得していたわけではなかった。


招待客の中には、「人狼がやったのではないか」「亜人が人狼に戻ったのだ」など、さまざまな憶測が飛び交い、噂は絶えることがなかった。


アレキサンダード領は、他の領地に先駆けて多くの亜人を移住者として受け入れていたこともあり、この事件を機に領地の立場は危うくなった。


王国全体が亜人への不信感を募らせ、領地に対する風当たりはますます強くなっていった。


父上はその立場上、亜人を領地から追放せざるを得ない状況に追い込まれた。


しかし、父上は自身のスキルを使い、亜人たちの特徴的な「獣の瞳」を別の瞳に変化させ、新しい名前を与えることで、彼らが目立たず領地に住み続けられるようにした。


追放は表向きの措置であり、実際には亜人たちは変わらずこの地に暮らしている。


父上のその行動は、誰にも知られることなく、密かに領地を守るための策として行われていた。


母上が亡くなったその日から、姉上は僕だけでなく、父上にもほとんど口をきかなくなった。


姉上にとっての僕は、ずっとただの背景の一部に過ぎないのだろう。


それでも、僕は時折考える。

姉上は母上の死をどう感じているのか――その答えを知りたくて、姉上と話してみたいと思うことがある。


だけど、姉上は王家に嫁ぐ特別な存在だ。

僕と彼女の間には、どうしようもない立場の違いがある。


僕も姉上のように、この領地の次期領主として、もっと力をつけなくてはならない。


父上の期待に応えるためにも、母上が愛したこの土地を守るためにも。


僕は、強くならなければならない。


---


それから2年が経ち、今、僕はとても驚いている。


フェルダー卿の一件以来、姉上はまるで別人のようになった。


以前は冷たく、距離を感じる存在だったのに、今では言葉遣いこそ少し変だけれど、その話し方はどこか親しみやすさを感じさせる。


僕だけでなく、周囲の人々も戸惑っているだろう。

姉上がどうしてここまで変わったのか、その理由は誰にもわからない。


「きっと、私、王子との婚約が決まって調子にのってたんだと思う!!!」


姉上は冗談っぽくそう言っていたが、正直それだけが理由とも思えない。


それでも、僕は今、姉上との関係に満たされている。

彼女との会話がすごく楽しく感じるようになった。


そして、ふとした時に見せる姉上の満面の笑み――それは、本当に美しい。


いつか僕にも縁談の話が来る日が訪れるだろう。

その時、お相手が姉上のような素敵な笑顔を持つ方なら、どれほど幸せだろうと思う。


最近は、姉上とルプと一緒に出掛ける機会が増えている。

姉上は、どこへ行ってもあっという間に人気者になってしまう。


僕はそれが誇らしくもあり、どこか寂しい気持ちもある。


「僕だけの姉上でいてほしい。」


姉上が王国に嫁ぐその日まで、できる限り一緒に過ごして、姉上をひとり占めしたい。


そう思っていたのに……


突然、姉上がセント・ヴェイレア学園の学生寮へ入寮することが決まった。


フェルダー卿から姉上を守るためだと、頭では理解している。


けれど、心はその事実をただ受け入れることができなかった。


それでも、姉上と離れたくない……その思いが、僕の心の中で一気に強く膨らんでいく。


その感情が単なる寂しさではなく、もっと深い何かだと気付くのに、そんなに時間はかからなかった。


姉上は僕にとって特別な存在だ。

そう簡単に手放せるはずがない。


だから僕は、来年必ずセント・ヴェイレア学園に飛び級して入学しよう。

姉上に追い付いて、少しでも一緒にいたい。


もしも、叶うなら姉上とこの先もずっと一緒にいたい。


何度か僕の気持ちを伝えようとしたが、姉上には伝わっていないようだった。


だけど、僕は絶対に諦めない!


姉上を乗せた馬車が、静かに遠ざかっていく。


僕はその後ろ姿をじっと見つめながら、固く決意した。



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