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第16話 入学準備

屋敷に向かい、ボーッと庭を歩いていると、向かい側からルプが必死に走ってくる姿が見える。


「お嬢様!!!!ど、どちらに、いらしたんですか???」


私の所に辿り着いたルプが、ハアハアと、息を切らしながら問いかける。


「ごめんね!ブライト王子と少し庭を散歩してて…」


私はレオから預かった短剣を、急いでドレスのスカートの裾に巻いて隠した。


「…そうでしたか。」


一瞬、ルプに短剣が見付かったかと思い焦ったけれど、彼女はそれについて聞いてくることはなく、私は胸を撫で下ろした。


「それより、メイヤーとお父様は大丈夫だった?」


私は飛び出したメイヤーくんの事を思い出し、ルプに訊ねた。


「はい!

メイヤー様も初めは動揺されていましたが、ロベルト様とゆっくりお話されて落ち着かれました。」


ルプは、私を安心させるように微笑みをくれる。

二人で話しながら屋敷に向かい歩いていると、急にルプが立ち止まった。


「あれ、ブライト王子の馬車がないですね。

旦那様にご挨拶もなくお帰りになることなんて、今までなかったのに…」


門の方を確認しながら、ルプが不思議そうに首を傾げる。


「あっ、何か急用とかで、急いで帰って行ったよ!!!」


私は咄嗟に取り繕った。

もしかして、私の言葉に少しは動揺したのかな?

そんな事を少し考えてみたが、あのブライト王子に限ってあり得ないと、すぐに思い直した。


屋敷に戻ると、ロベルトさんが、私の帰りを玄関で待ち構えていた。


「エレステ!!!」


ロベルトさんは、心配そうに私に駆け寄ろうとするが、このままだとスカートの裾に巻いた短剣が見付かってしまうと思い、咄嗟に声を上げる。


「待って、お父様!」


ロベルトさんの足が反射的に止まった。

呼び止めたはいいが、次の言葉が見付からず私は必死に探した。


「…ブライト王子から、お話は聞きました。

お父様がきっと守って下さるって!

だから、私は安心してます。

一息ついたら、書斎に伺いますね!」


勢い任せに話したが、ロベルトさんは、それに圧倒されているようだった。


「そ、そうか…。

もっと、動揺しているかと思ったが…。

まあ、いい…。

セント・ヴェイレア学園の入学の事もある。

落ち着いたら、ルプと書斎へ来なさい。」


そう言って、彼は書斎へと向かった。


私は自室へ戻ると、急いで短剣の隠し場所を探した。

あちこち探すも、ルプに見付からずに隠せる場所が思い浮かばない。


「お嬢様、大丈夫ですか?

そろそろ書斎に向かいませんと…。」


ルプの言葉を聞いて、私は肩を落とした。

仕方なく、彼女が時計を確認しようと私から目を離すのを確認し、私はベッドの枕の下に短剣を忍ばせた。


「わかった!ルプ、行こうか!」


私は気を取り直し、ルプと一緒に書斎へ向かった。


書斎に着くと、ロベルトさんがソファに腰かけて待っていた。


「二人とも、座りなさい。」


ロベルトさんは険しい面持ちで、私たちを彼の向かい側の席へ誘導する。

ルプも少し戸惑っていたが、申し訳なさそうに腰掛けた。


「メイヤー卿の事は知っての通りだ。

だが、来週には、セント・ヴェイレア学園の入学と、その祝の夜会がある。」


ロベルトさんは、深いため息をついてから続ける。


「エレステとメイヤーに護衛を着けたい…

。だが、アレキサンダード家から護衛の申し立てをすれば、国王陛下の判決に不服があると見なされる。

領地の民を守るためにも、それは…出来ない…。」


苦しそうに、ロベルトさんは言った。


「わかってます!」


私は、彼の苦しい立場がよく分かっている。

私だって、亜人たちの唯一の救いの場であるこの領地を絶対に守りたい。


「エレステ…」


ロベルトさんは、すがるような声で私の名前を呼ぶと何か言いたそうにしたが、その言葉を飲み、話を続けた。


「セント・ヴェイレア学園には学生寮がある。

本来、我が領地は通学出来る距離であるが、そこにエレステを預ける事にした。」


「えっ…、学生寮にですか?」


私は驚いてロベルトさんの言葉を繰り返した。


「うむ、学生寮であれば人目も多く、フェルダー卿も安易には手出し出来まい。

それに、1名世話役の従者も入寮出来るそうでな、ルプにその役目を任せたい。」


ロベルトさんは、再び切ない表情を見せる。


「寂しいが、これがお前を守る一番良い方法だと…そう判断した。」


ロベルトさんが、ソファーから身をのりだし

私の頬をそっと撫でる。


「それに、聞くところ、ブライト王子も学生寮に入るそうだ。

ルプいる事だし、お前も少しは安心が出来るだろう。」


「え…。今なんて…?」


私は動揺しながら、ソファーから立ち上がる。


「旦那様のお心遣いに感謝致します。

ルプは精一杯、お嬢様に尽くして参ります。」


ルプも、ソファーから立ち上がると深々とロベルトさんにお辞儀をする。


「急で申し訳ないが、宜しく頼んだよ、ルプ。」


ロベルトさんは安心したように、ルプに私のことを託す。


「お任せください。」


私を置いて、ロベルトさんとルプの会話がどんどん進んでいき、全く追い付いていけない。


私は落ち着こうとして、ふいに天井を見上げた。

くるくると書斎のシャンデリアが回ったように見えた瞬間。


ドタンーー


軽い目眩がして、尻餅をついてしまった。


「エレステ!!!」

「お嬢様!!!」


ロベルトさんとルプが、同時に私に駆け寄るが、私はフラフラと自力で立ち上がった。


ロベルトさんが決めた事だから、入寮は免れないだろう…


「…わかりました。ただ、少し疲れたようなので、先に自室で休みます。」


 

「お嬢様!温かいローズティをすぐお持ちします!」


ルプが心配そうに私に言ってくれたが、静かに断った。


「ありがとう。

でも、もう今日は一人で大丈夫だよ。

今後の手続きとか、大事なお話がまだあるでしょうから、続けて。」


「あっ、お嬢様…!」


ルプの声が響くなか、私は自室へ一人で向かった。


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