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第4章-3:科学的な奇跡 Chase your dreams

 校舎は夜の帳に包まれ、芙文の足音が孤独なリズムを刻む。彼女の影が、月明かりに照らされたガラス張りの壁から射し込む光と闇の狭間で揺れている。

 彼女は理化を探していた。理化はいつも強いけれど、今回は違った。芙文は友だちの弱さを感じ取り、心配していた。影が地面に落ちるよりも早く、彼女は自分の影を追い抜き、踏みつけるようにして走り続けた。


「理化っち! どこにいるの?」

 芙文が呼びかける。


 裏庭に差し掛かると、芙文はほっと一息ついた。

 ここは理化と芙文がよくランチを共にする、特別な場所だ。木々の間に設置されたランタンが、庭園を縫うようにして伸びる石畳の小道を仄かに照らしている。


 そして、そこには理化の姿があった。理化は泉の(くろ)に座り、じっと水面を見つめている。彼女の顔は月明かりに照らされ、その表情は読み取れない。


 芙文はそっと近づき、声をかけた。

「理化っち、大丈夫?」

 理化の隣に静かに腰を下ろす。彼女の反応を窺うように、少し怯えるようにしながら。

「あたしの言葉が傷つけたならごめんなさい。失敗を笑ったわけじゃないの。君が頑張っていること、あたしは知ってる」


 理化は黙っていた。

 芙文が遠慮がちに横から覗くと、理化の目に涙が光っているのが見えた。それは、哀しみか、それとも許しの涙か。


 芙文が量りかねて、誤解を解きたいと心の中で言葉を練り直していると、理化は返事の代わりに、もたれかかるように芙文の肩に頭を乗せた。

 風が二人の間を通り過ぎ、木々を揺らしている。心の距離が縮まっていくのを感じ、芙文の強張った体から、力が徐々に抜けていった。葉の擦れる音と泉のせせらぎが、まるで時間がゆっくりと流れているかのような感覚を与えてくれる。

 しばらくの間、二人は言葉を交わすことなく、互いの存在を感じ取るように、ただ黙って座っていた。


「……私には、兄がいるんです」

 やがて、理化がぼそりと言った。そして、ぽつりぽつりと昔話を始める。


***


 幼い頃の理化は、大好きな兄といつも一緒だった。二人とも好奇心旺盛で、探検に出かけたり、宝探しと称して珍しいものを探して歩いたり、常に絆創膏(ばんそうこう)を貼っているような子どもだった。


 ある日、理化は朝の光に包まれながら目が覚めた。今日は何か特別なことが起こりそうな、そんな気がした。

 兄の部屋へと足を運ぶと、彼はすでに起きていて、理化を待っていた。


「お兄ちゃん、今日はどこに行くの?」

 理化が尋ねると、兄は人差し指を唇に当て、神秘的な笑みを浮かべて答える。

「秘密の場所だよ。その秘密は、二人だけの内緒だぞ」


 二人は手を取り合い家を出た。朝の空気は清々しく、鳥のさえずりが耳に心地よく響いた。

「どこに向かってるの?」

 道中理化が訊いても、

「着いてからのお楽しみさ」

 と兄は得意げに鼻を鳴らし、教えてくれなかった。

 獣道を越え、山に登り、険しい道のりから、幼い理化にもいつもより遠い場所に行くのだと分かった。未知の冒険に、彼女の胸は高鳴った。


 そうして辿り着いたのは、誰もが見逃してしまいそうな狭い洞窟の入り口だった。

「すごい! お兄ちゃん、こんな場所どうやって見つけたの!?」

 理化は弾んだ声で尋ねた。

「ふふん、こないだちょっと散歩してたときにな。でも、まだおれも中に入ってはないんだ。理化と来ようと思ってさ」


 ライトを手に、二人は探索を開始する。

 洞窟の入り口をくぐるとひんやりとした空気が肌に触れ、外の世界とは全く別の世界が広がっていた。

 足元には小石や砂が敷き詰められ、壁面には長い年月をかけて形成された鍾乳石や石筍(せきじゅん)が見えている。


 洞窟の奥深くで、理化は奇妙な形をした石を発見した。

「お兄ちゃん……この石、なんだろう?」

 理化は小さな声で、興奮を抑えながら兄を呼んだ。

「これは……化石かもしれない」兄はまじまじと石を見つめ、息を呑んで言った。「理化、これは大発見だ。この石を大切にしよう」


 理化は大きく頷き、二人は大発見に心を躍らせながら、化石を大切に抱えて家に帰った。

 家に着くと、二人はすぐに化石を洗い、もっと詳しく調べることにした。石の表面を丁寧に拭きながら、理化は兄と一緒に新しい冒険が始まる予感に心を弾ませていた。


 しかし、その翌日――理化が朝日に起こされると、何かが違っていた。

 兄の部屋のドアを開けると、冷たい空気が彼女を迎えた。

 兄の部屋は空で、いつものような朝の挨拶もない。


「お兄ちゃん、どこにいるの?」

 家中を探し回ってみても、兄の姿は見当たらない。そして、昨日持ち帰ったはずの化石も無くなっていた。

 彼女の心臓は早鐘のように打ち始め、頭の中で様々な疑心が渦巻いた。


「もしかして、化石を独り占めしようとする気なんじゃ……」

 という不信感すら抱いたが、兄がそんなことするはずないとすぐにその疑念を打ち消した。

 理化は嫌な予感を覚えながらも、兄が普段のように冒険に出かけていると信じたかった。彼女は窓の外を見つめ、兄がいつものように笑顔で帰ってくることを願った。


 しかし、帰宅時間になっても兄は帰ってこず、両親は捜索願を出した。

 理化は不安と恐怖で胸が騒いだ。兄の部屋に入り、彼のベッドに座ると涙がこぼれた。兄の笑顔や優しい声が頭の中で繰り返し再生され、彼が無事であることを祈り続けた。


 三日後、ついに兄は見つかった。彼は意識不明の重体だった。

 理化は悲しみで押しつぶされそうになった。兄が何を経験したのか、彼女には想像もつかなかった。

 彼の顔は青白く、呼吸は浅く、まるで別人のようだった。


 すぐに緊急手術が施され、理化は病室で彼が目を覚ますのを待った。兄がゆっくりと目を開けたとき、涙が溢れた。


「お兄ちゃん!」

 理化は喜びで声を上げたが、兄の目には以前のような輝きがなく、彼は言葉を発することができなかった。

「お兄ちゃん、大丈夫? 何があったの?」

 しかしその問いかけに、兄はかすかに表情を動かすだけだった。

 彼は頭部外傷により、失語症になっていたのだ。そう医師から説明を受け、理化は悲しみと無力感でいっぱいになった。


 理化は病院の白い壁を見つめながら、深い思索に耽っていた。

 兄の静かな寝息が、静寂を破る唯一の音だった。

 彼女の心は決意で固まっていた――自分が真実を突き止めるのだと。


「お兄ちゃん、私、強くなるからね」

 そっと兄の手を握り、病室を後にした。


 事件の鍵を握るのは、やはり無くなったあの化石だ――そう思った理化は、来る日も来る日も図書館で、地域の歴史や地質などに関する書籍を読み漁った。

 図書館の静かな空間で、彼女は一心不乱にページをめくり、古い文献や地図を丹念に調べた。時折、窓から差し込む陽光が彼女の肩に温かく触れ、理化の決意をさらに強めた。


 ある日、彼女はついに自分たちが発見したのと同じ化石を記した古い文献を見つけた。

 それは十億年も前の、非常に価値の高い化石だった。


 理化はその写真を手掛かりに、独自に聞き込み調査を開始した。

 毎日、彼女は地元の人々に話を聞き、手がかりを求めて歩き回った。


 そしてついに、その化石を持っているかもしれない人物がいるとの証言を得たのだ。

 それは、地元の博物館で働く学芸員だった。理化の気持ちは緊張と期待で一気に高ぶった。


 理化は警察とともに学芸員に接触し、兄について尋ねた。

 学芸員は最初はしらを切っていたが、理化の真剣な眼差しと警察の圧力に耐えきれず、ついに真実を自供した。

 彼は、理化たちが化石を持って帰る様子を目撃し、手に入れようとしたが、兄が抵抗したために争いになり、傷つけてしまったと告白した。

 彼の声は震えており、後悔と恐怖が混じっていた。「こんなことをしてしまって化石を発表しても、自分が捕まるだけだと思い、化石は家に保管してある」とも話していた。


 この犯人を前にして、理化の腹の中は怒りで煮えたぎっていた。犯人に対する憤りは収まることを知らず、彼女の体中に燃え広がっていた。しかし、その一方で、兄が命をかけて守ろうとした化石の価値を世界に知らしめることができるという喜びも、静かに感じていた。


「お兄ちゃん、私、真実を突き止めたよ」

 理化は病院で兄に嬉しそうに報告した。

 彼はまだ言葉を話せないが、理化は彼の目に輝きを見た。表情も少しずつ動かせるようになってきている。

 理化の言葉がしっかりと届いているサインだと思った。


 そうして理化は決心したのだ――いつか、兄の症状を治すために科学の研究を始めようと。

 彼女の心には、新たな目標と希望が芽生えていた。兄のために、そして自分自身のために、理化は強く生きることを誓った。


***


「それで、今の私があるんです」

 理化は静かに言った。

 彼女の声には過去の苦しみと、それを乗り越えた強さが滲んでいた。


 芙文はしばらく言葉を失っていたが、やがて口を開いた。

「理化っち、すごいね。そんな経験をして、今では天才科学者として活躍しているなんて……」

 芙文は驚きと尊敬の入り混じった目で理化を見つめる。


「だけど……いくら頭が良くなったって、まだ兄は喋れません。私、ちっとも強くなんてなれていないし、完璧にもなれないんです。こうやってすぐ熱くなって、自分自身でさえコントロールできないのに……。感情って、化学反応で表せないものなのかもしれません」

 理化が寂しそうにふっと笑った。


「完璧じゃないなんて、そんなの知ってるよっ」

 芙文が朗らかな笑顔で言った。

「理化っちはほんとに残念な美人だよねっ。すぐ怒るし強引だし、実験オタクだし、乙女ゲームオタクだし、その癖、好きなゲームのシナリオライターも分かってないしっ」


「そこまで言わなくても……」

 少し赤みの差した顔で、理化が困惑しながら答えた。


「でも、頭の回転速いし、ボケもツッコミも超一流! いつも一生懸命で、尊敬してるんだっ! かく言うあたしだって、文学者を名乗っている癖して、親友の気持ちにも気付けない残念な子だもん!」

 芙文が優しく手を差し伸べる。

「完璧じゃなくてもいい。あたしたちはみんな、学びながら成長していくんだから」


 理化は芙文の言葉に少し驚き、そして心が温かくなるのを感じた。

「私、ボケたことありますか?」

 理化は疑問符を浮かべつつその手を取り、心からの謝罪をする。

「芙文さん……あんな素敵な文章を書ける人が、悪意のある言葉を投げかけるはずがないのに、感情的になってすみませんでした」


 理化は、自分たちの発明が、自分にとってはもう一つの意味を持っていることを思い出した。

 感情方程式物語は、兄の感情を表すツールになるかもしれないのだ。


「兄がどんな気持ちでいるのか、もっと理解できるようになりたい。それが、今の私の目標の一つなんです」

 理化は眼鏡を外し、手の甲で涙を拭った。そして少し間を置いてから続ける。

「でも、完璧じゃなくてもいいんですよね。失敗も、成功も、すべてが物語の一部なんですから」

 理化は芙文風にそう言ってみた。眼鏡を外した彼女は、とても綺麗な目をしていた。


 芙文は思い切り伸びをして、元気よく答える。

「うんっ、あたしたちの物語はまだまだ続いてるんだからっ!」

「そうですよね。それに、世界征服の野望のためには、こんなところで立ち止まっていられません」

「やっぱり企んでるんだっ!? 世界征服っ! 目標多すぎだよっ! まるで、節約中なのに高級ブランドを買う人みたいだよっ!」

 芙文はおどけて言った。


 手を繋いだまま、二人は星空を眺める。

「芙文さん、いつもの変な俳句、詠んでください」


「星降る夜

 手と手重ねて

 夢織りし


 星が形作る夢の絆――それはまるで、時間を超えた宇宙船の帆みたいだねっ!」


「全く意味が分かりません。……ありがとう、芙文さん。あなたがいてくれて良かった」


***


「心配かけてごめんなさい、みなさん。私は自分の完璧主義に囚われすぎていました――もっと大切なことを忘れていました」

 実験室に戻るなり、理化はぺこりと頭を下げた。


 帰ってきた二人を、心春と数多が温かく迎える。

「おかえりなさい、二人とも」

 心春はいつも通りにそよ風のような声で微笑んだ。

「元通りになったみたいだね。ま、あんまり心配してなかったけどさ」

 数多は涼しげな表情で言ったが、目には安堵の色が浮かんでいた。

「それは嘘―。数多、すっごく心配してた癖に」

 心春がからかうと、数多は涼しげな顔を崩し、恥ずかしさで頬をほんのりと桜色に染めて怒っていた。


「これからは、一緒に問題を解決していきましょう」心春は理化の背中に手を添えて言う。

「Δは変化を意味するけれど――僕たちのΔは、問題をチャンスに変える力だよ」数多はこめかみに指を当てて言う。

「ふふっ、みなさんと一緒だと、本当に無敵の気分になりますよ」理化は晴れやかな笑顔で言う。

「そして、そのすべてを物語にするのがあたしの役目だねっ!」芙文がにっこりと言った。


 理化は感情方程式物語のために、科学的なアプローチを取りつつも、人間の感情の美しさを尊重することを学んだ。

 彼女の胸には、兄への愛と仲間たちへの感謝が溢れていた。

 これからも、彼女は仲間たちと共に前を向いて進んでいくのだと、強く心に誓った。


***


 理化が専攻する、翌日の科学の授業中のことだった。

 静謐(せいひつ)(たた)える実験室は、理化の集中力を反映していた。

 理化はその沈黙の中で、自らの呼吸と心臓の鼓動を聴きながら、一連の精密な器具に囲まれて作業に没頭していた。彼女の手が器具を扱う微かな音だけが、時折その静けさを破る。

 これが最後の試練だ――と理化は心の中で呟いた。彼女は、新しい化学反応を引き起こすための最終成分を加える瞬間を迎えていた。


 そのとき、実験室に、目には見えないながらも確かな変化が訪れた。

 理化は、顕微鏡のレンズを通して覗く微小な世界に見入っており、彼女の意識は、分子レベルで起こる反応に集中していた。

 突然、彼女の感覚が鋭敏になり、今までとは異なる何かを感じ取ったのだ。

 それは化学反応の微妙な変化を予感させるような、新たな直観だった。

 彼女は、化学変化に対する感受性が飛躍的に向上したことを実感し、その新しい能力に驚愕した。この直観は、単なる知識や経験を超えた、まるで分子が語りかけてくるような不思議な感覚だった。

 実験室の中で、自分だけが持つ特別な力に目覚めたことを知り、その発見に心を躍らせて、他の三人へ報告しに向かった。


「ねえ、理化ちゃん、その顔は何かを発見したの?」

「はい、なんだか、分子たちが話しかけてくるような気がするんです! まるで実験の結果を予想しているかのように」

 心春が表情を読み取ると、理化は興奮冷めやらぬ様子で答えた。


「それって、まさかの『未来予知』っていうことかしら?」

 心春は食い入るように理化を見つめた。

「いえ……そんな大層なものではなさそうです。どうやら、これが起こるのは科学限定みたいですし。『科学的直観』と言った方が近いと思います」

 理化は少し照れくさそうに笑った。


『科学的直観』。理化は自身の能力をそう名付けた。


「科学的直観って、それ、新しいコスメの名前っ?」

 芙文が冗談を言いながら、机に腰を掛けた。

 数多も会話に加わり、説明する。

「化粧品じゃなくて、理化の新しい能力のことだよ。実験の結果を予測できるんだって」


「はい。そしてこれは、結果を予測するだけにあらず……です。面白いことを見つけました。とにかく来てください」

 理化は不敵に微笑み、仲間を実験室へと誘った。


***


 理化に連れられてやって来た実験台の上には、準備万端といった様子で無数の試験管が広がっている。

 各試験管は、感情の色を表す薬品で満たされていた。


「私たちは

 挿絵(By みてみん)

 挿絵(By みてみん)

 挿絵(By みてみん)

で感情の色を表すことに成功しました」

 理化はこれまでのおさらいをするように、デジタルホワイトボードに数式を書き連ねた。

「そして、試験管の分子たちが、これらはそれぞれ異なる『感情エネルギー』を持っていることを教えてくれたんです」

 理化は自信に満ちた声で説明した。


「それぞれの色が持つエネルギーをどうやって計算するの?」

 心春が興味深げに尋ねると、理化はサラサラと数式を書き加える。

「このRGBモデルを応用して、シグモイド関数を使うと、感情の色が持つエネルギーを表現できるんです。例えば、赤色の感情エネルギーは

 挿絵(By みてみん)

このように」


 心春は理化の説明に引き込まれ、さらに質問する。

「なるほど、じゃあ、緑と青の感情エネルギーも同じように?」

「そう、緑は

 挿絵(By みてみん)

青は

 挿絵(By みてみん)

と表せます。これらを合わせて、感情の色が持つエネルギーの総和、つまり感情エネルギーは

 挿絵(By みてみん)

となるんです」

 理化はデジタルホワイトボードに描かれた数式を指し示しながら、確信を込めて言い切った。


「感情の色が持つエネルギーが、物語がどう展開するかを示すってことっ?」

 芙文が目を輝かせて聞いた。

「まさにその通り。この感情エネルギーを物語のキャラクターに適用すれば、人物像をよりリアルに描写できます。さらに、感情エネルギーの変化を追跡することで、キャラクターの心理的成長や、物語の中での彼らの行動を予測できるんです」


***


 四人は、『感情エネルギーの計算と分析』という、人間の深層心理に迫るプロジェクトを開始した。


 数多は数値化された感情の色データをもとに、感情エネルギーを計算していく。

 心春は心理学的ケーススタディとの比較をしつつ、計算結果から特定の感情パターンやトリガーを探る。

 理化はデータの傾向を分析し、感情の波を可視化する。

 そして芙文はこれらの情報を統合し、感情の背後にある深層心理のメカニズムを解き明かそうとした。


 彼女たちは感情エネルギーの計算式を繰り返し検証し、分析を深めていった。

 議論は白熱し、アイデアが飛び交う。一つの仮説が立てられ、別の視点から反論がなされる。

 それらはすべて建設的で、知的な探求の一環だった。

 彼女たちの目は常に輝きを失わない。

 四人は、人間の感情の神秘に近付いているという興奮を共有していた。


 そして芙文が言った通りに、本当にわずか二週間でそのプロジェクトは完成したのである。


「このモデルはばっちり、正確に心理を捉えているわよ。色にエネルギーに、感情は無限の可能を秘めた翼ね」心春はにこやかに笑う。

「僕の数式が科学の力でより高い次元に昇華されるなんてね。世の中にはまだまだ、勉強すべきことがたくさんあるんだな」数多は未知の問題に思いを馳せる。

「だから楽しいんですよ。結果が予測できるからと言って、それは実験しなくてもいい理由にはなりません――エウレカ! 私たちは今、自らの手で、深層心理という神秘を探り当てました」理化は伸ばした手を握り締める。

「理の魔法

 化学の舟は

 心渡る


 科学の力が宿った魔法の舟――それはまるで、心の地図に輝きを加える光みたいっ!

 そして、そのすべてを物語にするのがあたしの役目だねっ!」芙文が物語のハイライトを綴った。


 こうして、理化は特異な感覚を利用し、他の人には見えない感情の微細な変化を捉えることに成功した。

 分析された深層心理は、心の奥底にある様々な感情の動きを理解する道具として、彼女たちの発明を次の次元へと押し上げた。

 理化の努力が、未来の創造の扉を開く鍵となった。

 感情方程式物語は、彼女たちの手によって新しい章を迎えたのだった。

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