プロローグ:平和な日常 Just a whim
「この世のすべての本は読み終えちゃったし……」綾本芙文は本を眺めて頬杖をつく。
「臨床心理学は行き着くところまで研究しちゃったのよねぇ……」海透心春は論文を片手に髪をくるくると回す。
「数学上の未解決問題はもうすでに全部証明してしまったし……」算旭数多は机に突っ伏しながら呟く。
「ノーベル賞は生理学・医学、化学、物理学と思いつく限りは受賞してしまいましたし……」科埜理化は実験器具を片付けながら言った。
二年A組の教室には、四人の女子高生の退屈そうな声が響いていた。
天才しか入学することのできない、私立頭脳プラチナム学園のこの教室には、例に漏れず天才しかいない。けれど、天才たちも日常に退屈していた。
「何か面白いことないかなぁ」
四人の声が重なる。
彼女たちは、天才すぎるがあまりに、普通の高校生活にはもう飽き飽きしていたのだ。
「だったら、あたしたちの頭脳を全部合わせて、何かすごいものを発明してみよっか?」
不意に。唐突に。芙文が提案した。
彼女の目は、作品の新しい題材を見つけたときのように輝いている。
そして、その光は教室全体に伝染していく。
「それは興味深い投影ね。わたしの心理学で、人の心を癒す何かができるかもしれないわ」心春は髪から手を離す。
「僕たちの知識が合わされば、素晴らしい集合体ができるかもしれないね」数多は興味を示して顔を上げる。
「エウレカ! 科学的なアプローチで、それを実現可能にしてみせます!」理化は片付けていた実験器具をまた並べ始める。
「閃光の
思いつきにて
新世界
知識の海を照らすアイデアの稲妻――それはまるで、異世界に迷い込んだ主人公を救うヒロインみたいっ!
そして、そのすべてを物語にするのがあたしの役目だねっ!」芙文がノートを開き、ペンを走らせ始めた。
それは、ただの思いつきに過ぎなかったのかもしれない。
しかし、日常に刻まれた退屈という名の鎖を解き放つのは、いつだって予期せぬ出来事の一欠片。
その些細な一言が、沈黙の海に投げ入れられた小石のように、彼女たちの心に波紋を生み、興味を掴んだのだ。
一瞬の隙を突いて、日常は非日常へと変貌を遂げる。
こうして、四人の女子高生による、『何かすごいもの』を発明するまでの、青春ストーリーが始まったのである。
この小説をイメージした、イメージソングを作ってみました。
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