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新型機

◇◇◇

再編成だとか、信濃とかいう新型の戦艦だとかは今の私にはどうでもよかった。

急ぎの移動と言われたからとりあえず荷物をまとめて乗艦していたが、ブリーフィングルームでの話も殆ど頭に入ってこなかったせいか、友達にさして別れも告げずに来てしまった。しかし何より、今はそんなことを気にする余裕もないほどに私は頭がいっぱいだった。

今朝の戦闘は悲惨なものだった。敵主力に徐々にすり潰されていく味方部隊を、ただただ見てるだけでは居られないと。そして何よりいつも隣で守ってくれてる姉さんに良いところを見せたかったからと、悠や姉さんの静止も聞かずに飛び出し、私は無謀にも敵の主力に正面から切り込んでいった。

目に飛び込んで来たのは、ただ一機、黒い塗装に頭に骸骨マークの付いたABが味方十数人を次々になぎ倒していく姿、そのABはこちらを見るや否や人間のそれでは捉えきれない速度で接近してレーザーブレードを振り上げていた。

死ぬ。そう覚悟し目を瞑った刹那、ふと我に帰ると眼前には自分を庇ってまともに斬撃を喰らい地面に倒れ伏す姉さんと、必死に制圧射撃をする悠の姿だった。

完全に自業自得。いや、それ以上だそう。見栄を張ろうと勝手に飛び出し、挙げ句最愛の姉さんまで失うことになるなんて。

格納庫で蒼崎に言われたこと、経験も実力も姉さん以下。そんな私が生き残るより、姉さんが生きていた方が明らかに有益だろう。

私はこれからどうすればいいのだろうか。こんな時、姉さんなら何と言ってくれるのだろうか。私は本当に他力本願な人間だ。今だって、気付けば見知らぬ艦の中で悠を探してしまっていた。


◇◇◇

「痛っ」

艦内が広すぎて自分の部屋に行くのにもひと苦労だと艦内マップに視線を落として歩いていると、ちょうど曲がり角から来た菜月とぶつかってしまった。

ブリーフィングルームから解散した後、三人とはすぐに別れてしまったので何処へ行ったのかと思っていたが、さっさと乗艦していたようだ。

「悪ぃ、前見てなかった。大丈夫か?」

割と激しくぶつかってしまったので、怪我でもしていないかと俺は菜月に声を掛けるが、彼女は俯いたまま一切答えない。すると、彼女の目から大粒の涙が溢れ始めた。

「お、おい!まさかそんなに痛かったか!?悪かったよ…だから…な?そんなに泣くなって……」

いきなりのことだったので俺は動揺してあたふたとしてしまったが、菜月は俺の服の裾を摑むと静かに口を開いた。

「私……このままじゃ何もできないっ!姉さんみたいに強くないし、悠みたいに冷静に状況判断できる訳でもないし、結みたいに人の心を動かせるような人間じゃない!私がいなくても、蒼崎のいってた通り姉さんさえ生きていればきっと……」

菜月は今日一日、特に格納庫での一件からずっと考え込んでいる様に見えた。

俺も美月とは仲が良かったし、それ以上長い間一緒に居た最愛の姉を菜月は失ったのだ。勿論彼女の気持ちは俺も痛い程理解できるし、美月の死が自分の身勝手な行動の結果だというなら尚更負い目を感じてしまっているだろう。

しかし、この状況を作り出した根本の存在は勝手に宣戦布告して攻めて来た西アジア統一連合国や俺達を戦場に送り込んだ日本政府だ。必死に戦った菜月が責められることなどあって良いはずが無い。

何より俺は、菜月をお願いと美月に託され、俺は守り抜くと誓った。彼女の気持ちは痛いほど理解できるが、ゆっくり嘆いている暇もなさそうだ。なら俺が今彼女にしてやれることは……。

俺は彼女の肩を両手でしっかりと摑むと、こちらを向かせてそっと抱き締めてやった。

「アイツの言う事なんか真に受けるもんじゃない。それに美月は命に変えてでもお前を守りたかったんだ。その気持ち、無駄にするなよ?」

すると彼女は俺のシャツに顔を押し付け堰をすると彼女は俺のシャツに顔を押し付け堰を切ったように泣きじゃくり始めた。




どれだけの間そうしていただろうか?しばらくすると流石に疲れて来たのか腕の中の重さが増したように感じたので少し体を離し彼女の顔を見ると、泣き疲れたのかすやすやと寝息を立てていた。

今朝の後からずっと考え込んでいて疲れたのだろう。俺に寄り掛かっているとはいえ立ったまま寝るとは器用なものだが、このままここに居るのも流石にまずい。

仕方ないので俺は部屋の割り当て表を確認しながら彼女をおぶって自分の部屋に連れて行った。




これまた迷路のような艦内地図に悪戦苦闘しながら辿り着いた自室で、殆ど気絶するように爆睡してしまった俺は、部屋のドアをバシバシ叩く音で目を覚ました。

時計を見ると、時刻はどうやら午前六時。俺や菜月に限らず、急ぎでこの艦に載せられた生徒達が寝ている間に信濃は遊月山学園を出発して中央研究所に到着していたようだ。

今は中央研究所の滑走路に駐機した信濃が物資の積み下ろしを行っているらしい、遊月山からの出発の際に艦内放送が無かったのは俺達学生を気遣ってのことだろうか。

それはともかく、俺は叩かれたスライド式ドアを開くと、そこには篤也が立っていた。

「おはようさん、第一試験隊は全員艦橋に集合だってさ。他の皆は先に行ってるみたいだから俺達も行こうぜ」

後には、結と菜月もいる様だ。菜月は昨日の思い詰めた表情とは変わり、少し落ち着いた雰囲気になっていたので、一安心だ。

「悠、昨日はごめんね。色々と……でももう切り替えるから。迷惑掛けないようにするから」

そう言う菜月だが、気持ちの整理にはまだ時間が掛かるだろう。そう簡単に割り切れる話でもない。

「いいんだよ、あんまり気負い過ぎるな?」

しかし全員集合となると点呼か何がだろうか、まだ完全に覚めきっていない目を擦りつつだか、俺は了解の意を示すと部屋から出て二人に続いて艦内のエレベーターに乗りこむと、それはすぐに上昇を始めた。




艦橋に着くと、既に他の生徒達は全員集まっているようだ。内部は外見相応に広く、所狭しと配置された機材はこの巨鳥を統括するのには申し分ないだろう。

俺達最後の四人が整列したのを見ると、中央に腰掛けていた50代程の男が口を開いた。

「遊月山学園第一試験隊の生徒諸君。昨日は色々あって挨拶が遅れたが、私がこの信濃の艦長をやっている山下だ。この度は中央研究所からの要請に応えてくれたこと、心から感謝する」

山下と名乗る艦長がそう言うと、今度はその隣で生徒一人一人の顔をまじまじと確認していた白衣姿の女が話し始めた。

「皆さんどーも。私は中央研究所の研究主任をやってる長谷川よ。新兵器のテスト、よろしくね」

その女は軽く右手を上げながら言うと、手元のタブレット端末に目を落としながら、口の動きだけで呟いた。

「全く、なによこの人選は。私はエリートのAかB組を寄越せといったのに……戦闘で運良く生き残っただけの余り物ばかりじゃない」

隠す気も無いほどあからさまに不機嫌な空気を醸し出しながら、長谷川はもう一度俺達の顔を見渡した。

どうやら俺達はあまり期待されていないらしい。これは遊月山学園からも体の良い捨て駒として送り込まれたということだろうか。

ともかくモルモットとしては丁度いいといったところなのであろう。

そんな俺達の空気を察してか、山下が話を切り出した。

「ここで硫黄島方面へ移動するための物資と、君たちが実地試験を行う兵器の積み込みをし、終わり次第硫黄島へ向かう。それまでに長谷川君から兵器の詳細を聞いておいてくれ」

山下は、「以上、期待しているよ」とだけ告げると、椅子ごとくるりと向きを変えて以降を長谷川に委ねた。

長谷川は、これまた不機嫌そうに「ついて来て」と言うと、俺達を連れて艦を降りた。



俺達が連れてこられたのは中央研究所内部、実験棟の一角だった。

多くの警備員、指紋認証や網膜認証などの厳重なセキュリティの先、少し開けた部屋に出た。監視カメラやマジックミラーと思しき壁のあるその部屋の中央には、遊月山学園には配備されていない、見慣れないABが一機。忽然と佇んでいた。

今まで俺達が乗り込んで戦っていたAB『暁型』とは違う、純白の機体を前に、長谷川は自慢気に話し始めた。

「これが試作AB『如月型』よ。見てわかる通り、従来の暁型より少し小型になってるけど一番の違いは……」

長谷川が監視カメラに向かって片腕を上げると、そのABは変形を始める。

脚部から避雷針のような物体が左右から三本ずつ飛び出し、その頂点と中間を結ぶ様に紫色の『輪』を形成する。

足先の装甲板がスライドし、地面に足をつくことができないほど細くなり、背部から追加のスラスターユニットが現れて紫の光を放ちながら起動した。

「一番の違いは、シャード技術による『飛行』が可能な点。シャードの膨大なエネルギーを活用することにより、ABの兵器積載量を減少させることなく高速での飛行を可能としたわ」

そう。ソレは確かに浮いていた。

シャードは未だ完全に研究されていない未知の魔法技術ではあるが、ここまで本格的に兵器へ転用しているのは恐らく日本と東アジア統一連合国ぐらいであろう。飛行可能なABなど、前線に出る兵器を根本から変えるほどの革新的な発明だろう。しかしながら、なぜいち早く配備されていないのか、このように極秘裏に開発され、実地試験が先送りになっているのには何か裏があるのか。

そんな俺の思考を読んだのか、長谷川は付け足した。

「でも実はね、この子、開発中止命令が出ちゃったの。なにせリミッターは掛かってるんだけど、フルバーストモードに使うシャードの術式はパイロット本人の物を使うから使用者への負荷が大き過ぎるのよね」

フルバーストモードとは、従来の暁型にも搭載されていたシステムで、シャードコアのエネルギーを著しく消費する代わりにABの機動性を飛躍的に向上させるものだ。本来大規模な戦闘の際には常時発動させるシステムな為、術式はAB本体に搭載されているが、小型化に伴い如月型では術式が小さくフルバーストのエネルギー消費に耐え切れないらしい。

シャードの術式とは、人間の生命力ともいえるものだ。もしそれを失えば、パイロットの身体は直ちに生命活動を停止するだろう。

それにリミッター付きのフルバーストモードなど、機体性能をフルに活かせないのは『欠陥』と言わざる終えない。

長谷川がこちらにタブレット端末を向けると機体スペックが表示されるが、ぱっと見ただけで暁型より遥かに高性能なのはまず間違い無い。

しかし使うと死ぬ可能性のある兵器など非人道的兵器に片足を突っ込んでいる。

「で、そんな欠陥兵器をどうしろって言うの?」

俺のすぐ後ろに立っていた結が急かす様に尋ねると、彼女は待ってましたと言わんばかりに、自信満々に告げる。

「簡単よ。第一試験隊の皆、これ使ってみてよ」

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