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再編成

───

生憎の曇り空の中、撤退命令により遊月山学園に帰投した俺達は、その校庭兼演習場に並べれた戦死者の数に唖然としていた。

戦場に出ているのは、何もABのパイロットだけではない。持ち前の大火力や重装甲、火器搭載量を誇る戦車や戦闘機、攻撃ヘリは前線ではまだ健在だ。だから学生ばかりが前線に出ているという訳でもないが、それにしても戦死者が多い。

学生とはいえ遊月山学園の生徒は軍人でもある。ある程度の戦死者が出るのは当たり前であり、皆慣れているが、今回は流石にそうもいかないらしい。

校庭に並んだABパイロットや学生以外の正規兵の無惨な死骸。

鹿児島最西端に位置する遊月山学園は高等部、中等部合わせて千二百名弱、各学年一クラス四十人が五クラスの大規模な学校だ。並べられた遺体はABパイロットだけでも八十人弱。しかも今回はこちら側が敗走したのもあり、美月を含め回収しきれなかったものもあるだろう。

市街中心部の戦闘では、民間人、一般兵合わせての犠牲者は三百人を超えたとの情報もあった。

どうやら戦局はお世辞にもいいとはいえない状況らしい。今でも学園に隣接する空軍基地からは戦闘機がスクランブル発進し続けている。

校舎の三階に位置する俺や菜月のクラスの一年D組も戦死が十三名、現在は自習時間となっている。今回の作戦で出撃した一年生はD、E組のみだか、他のクラスの生徒もかなり動揺している様子だ。

クラスの担任である笹山先生は「とりあえず、少しの間部屋で休んでなさい」と言っていたが、大人しく休めそうにもなかったので俺は菜月とABの格納庫に来ていた。

普段は所狭しと並べれているはずの格納庫には所々に空きが見て取れる。帰還したAB修理や点検のために走り回る整備クルーの生徒や正規の軍人達もやはりその顔は皆暗い。

するとそんな俺の背後から声が掛かった。

「おいおい、散々なもんだなぁ、ここまで大損害食って帰ってくるなんてよぉ」

そう言っていたのは、入り口の横に座っていた男子生徒、名を『蒼崎 輝』彼が言うように今回の作戦で遊月山から出撃したABパイロットは全部で百六十人。しかもその半数が戦死したのだ。当然、損害は大きいと言えるだろう。

「蒼崎……お前はなんでそんなに平気そうなんだよ……人がこんなに死んでるんだぞ……」

俺はどこか冷たくそう言ったが、蒼崎は全く気にしていない様子で答えた。

「知るか、死んだ奴は運と腕前が無かっただけのことだ……なぁ菜月、お前の姉貴もだ。俺達B組が出てたらあの程度の作戦損害ゼロで完遂してたさ」

遊月山は入学試験の結果に沿ってA組から実力順に並んでいる。つまりA組やB組は試験の好成績だった連中や中等部からの精鋭揃いという訳だ。実戦経験も豊富であり三ヶ月前の沖縄撤退戦でも一年生であるにも関わらず最前線で奮闘し、多くの民間人を避難させていた。

今朝の作戦は本来大規模な戦闘は予想されていなかったのでA、B、C組出は撃していなかったことも大きな敗因であろう。

「お前ぇ!姉さんを、私の姉さんは私を守って死んだ!あんなに強かったのに、あんなに優しかったのに、それなのに…姉さんは…姉さんはぁ!」

菜月が蒼崎の胸倉を掴み叫ぶ声に格納庫中の視線が集まり、なんだなんだと数人が寄って来る。

しかし彼は動じるどころかその態度は逆に彼女を煽っていた。

「はッ!そんなに姉貴が大事ならてめぇが姉貴の代わりに死ねば良かったんじゃねぇか?その方が実力もお前より圧倒的に上だったろうしよっぽどそっちのが有益だろうよ」

蒼崎は菜月の手を振り払うと、彼女を真っ直ぐに睨みつけた。奴も美月と菜月がどれほど仲が良かったのかは知っているはずだ。ここまで言われては流石に俺も黙ってはいられなかった。

「てめぇ……言わせておけば……」

俺が奴に掴みかかろうとしたその時、格納庫のスピーカーから校内放送を知らせるチャイムが鳴り響いた。

『連絡します。今朝出撃した中等部の三年B組、高等部の一年D、E組、二年E組の生徒は至急ブリーフィングルームへ集まって下さい。繰り返します。今朝出撃した……』

一年D組と言うことは俺達も集合だ。水を差された蒼崎は「チッ」と舌打ちして視線を逸らし、菜月は蒼崎に一発殴りかかろうと拳を握り締めていたが、俺は一息つくと彼女の肩を優しく掴みなだめた。

「行こう菜月……美月の為にも、今は冷静になろう。そいつは放っておけ」

「……うん……」

何事かはわからないが、このまま言い合っていても事態は好転しない。なにはともあれ俺達は急ぎブリーフィングルームへと向かい歩き出した。



ブリーフィングルームは先程帰還したばかりの学生で溢れていて、皆顔には疲れが滲んているが、中等部、高等部合わせて四クラスも召集されているというのにやけに人数が少ない。つまり俺達二年D組の損害はこれでも軽微なものだったという訳だ。

「悠くーん、菜月ちゃーん」

不意に名前を呼ばれ声のした方を向くと、そこにはいつも通りに手を振りながら歩み寄って来る朝霧 結の姿が見えた。

「結!お前無事だったか……怪我はないか?」

俺は思わず駆け寄ると彼女の肩を掴み、その身を案じた。すると彼女は一瞬きょとんとした後で頬を赤らめると。

「ふふーん♪大丈夫だよー?心配してくれてありがとー」

そんな可愛らしい笑顔を返してきた。

周りを見ると他の生徒達も別のクラスの生徒と無事を確認し合っているようだ。互いに軽口を叩き合う姿もあり、まだ作戦から半日も経っていないというのに皆気を取り直しつつあるようだ。

確かに俺達もいつまでも悲しんでばかりいる訳にもいくまい。

しかし出撃した百六十名の内実にその半数が戦死ともなると、軍の規定に乗っとれば部隊は全滅ということになる。となるとこの召集は再編成…クラス替えということだろうか。

そんなこんな考えているうちにブリーフィングルームの扉が開かれ、生徒会役員数人と軍服姿の男が部屋に入って来た。

全員の視線が集まると、生徒会長が口を開いた。

「諸君、知っての通り今朝の作戦で我らは敵主力に遭遇し大損害を被った。部隊は事実上の全滅、よってこれから再編成を行う」

会長はそのまま淡々と続けた。

「しかしさらに悪い知らせだ。西アジア統一連合国が硫黄島を制圧した。このままでは東京に空襲を受ける可能性が高い」

『西アジア統一連合国』それは、大国ロシア連邦の支援を得て統一し、日本、アメリカを含むヨーロッパ諸国に宣戦布告した西アジアの国々だ。奴等はロシアの支援の下、最新鋭のシャード技術を用いた兵器で瞬く間に中国西部を制圧し、その魔の手を日本にまで伸ばしていた。

日本はその防空能力の高さと先進国に引けを取らない程のシャード技術により何とか侵攻を食い止めてはいたが、制海権を喪失し他国からの支援が受けられなくなった今、膨大なエネルギーを持つシャードコアを利用した兵器以外に頼ることが厳しくなりつつある。

資源に限りのある日本はその防空網が破られることも時間の問題になりつつあった。

「つまり我々の活動範囲を硫黄島方面まで拡大すると共に、敵に何か大きな打撃を与えるための新兵器の開発を急がねばならない。そこで諸君には新兵器の試験部隊として活躍してもらうこととなった」

要するに、前線でその新兵器とやらを実際に使ってデータを取ってこいということなのだろう。

委員長は次々に名前と所属部隊を読み上げていった。

試験部隊は二つ、硫黄島方面に進出して新兵器の実戦テストを行う第一試験隊と、引き続き遊月山学園に残り戦闘データを収集する第二試験隊だ。

部隊は八十人を二等分して四十人ずつ。俺は第一試験隊で、菜月や結も同じ部隊の所属になった。

「よぉ悠、久しぶりだなぁ〜、まさかお前と同じ隊とはな」

ふと声のした方を振り返ると、これまた顔馴染みの姿があった。

澤島 篤也、二年E組の男子生徒だ。俺と篤也は元々遊月山の中等部からの親友であり、結も同じく高等部になってクラスが分かれるまでは多くの戦場を共にしてきた戦友だ。

戦闘技術に秀でている訳では無いが、状況判断力に優れ、冷静に戦える奴なので同じ隊だと心強い。

この二部隊は一、二年生が同じ隊に編成されるということで、クラスではなく部隊ということになっているそうだが、面識の無い先輩と肩を並べて戦えるのかという問題もあるが即席の部隊なので致し方なかろう。

「再編成にあたり、第一試験隊の所属が遊月山学園から中央研究所に変更になった。作戦後急で申し訳ないが、本日中に移動して頂きたい。移動手段は手配してある。間もなく当地すると思うが…来たようだな」

生徒会長がブリーフィングルームの扉を開けると、生徒達が何やらこぞって廊下に出て空を見上げていた。

すると、『それ』はジェットエンジンよりさらに鋭い轟音と共に雲の中から全長実に七百メートルはあろう巨大な飛行戦艦が姿を現した。

通常の高校の十数倍は大きい遊月山学園の校庭の殆どを埋め尽くして地に足をつけたそれは、従来の輸送機や戦闘機とは似ても似つかない、全く見覚えの無い機体であった。

「中央研究所にてアメリカの全面協力の下極秘裏に開発されていたフライングフォートレス。最新鋭のシャード技術の粋を集めて建造された世界最大の飛行戦艦だ」

生徒会長の隣に居た軍服姿の男がリモコンを操作すると、その新型飛行戦艦とやらの資料が前方のスクリーンに表示される。

艦名『信濃』全長七百二十メートル、幅二百三十メートル。それは上から見ると矢印のような形状をしており、空母のような外見さながら膨大な兵器搭載量を誇る。

艦底部、後部には巨大な四基のスラスターと高出力シャードコアエンジンが確認できる。

その全貌は見るものに絶対的な威圧感と不安を与えた。

従来までのロケットエンジンを推力に使用した飛行戦艦とは違う、シャードの生み出す膨大なエネルギーで浮遊する要塞。

信濃の後部貨物用ハッチが開かれ、続々と物資を満載したコンテナが積み下ろしされている。今朝の戦闘で消費された武器弾薬類が大半であろうが、中には軍用の車両なども見受けられ、この艦の荷物積載量を物語っている。

生徒会長が軽く咳払いをすると、再び話を始めた。

「あの船には乗組員用の個室も完備している。中央研究所到着まで、少しの間でも休んでおいてくれたまえ」

そういうと生徒会長はスクリーンを閉じ、解散を宣言した。

しかしながら今朝の作戦の後、再編成の連絡を受けてすぐさま東京の中央研究所からこの鹿児島まで飛んできたというのだ。ゆっくり休んでいる暇もなく目的地へ到着しそうなものだが、今は一秒でも早く休みたいと思った俺は、三人と別れて寮に戻り、早速荷物をまとめることにした。

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