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魔王と勇者は案外仲が良い  作者: 雄太
勇者と魔王
8/61

8 収穫祭前日

 

「オグワ、この話は終わりにしよう」


 これ以上問い詰めてもストレスが増えるだけと判断したダニエルは無理やり話を打ち切った。


「でだここにきた本題覚えているか?」

「貴様が答えてくれないのではないか」  


 そんな簡単に許してくれるわけもなくオグワはむすっとした表情でまた話を蒸し返す。


「我は何回も優しく問いかけていたと言うのに貴様は我のことを無視して我を人喰いの魔族扱いしていたではないか我はそのことを忘れないぞ」


 ダニエルは無駄に物覚えのいいオグワを無視して話し出した。若干可哀想な気もしない事もないがここで下手に出ても全く何の意味も持たない。


「わかりました、今日来た目的は昨日、オグワお前が出店出したいとと言っただろ」

「あぁ、そうだ射的という店をやりたい」


 オグワは射的という意味を理解していないのか楽観的に言い切った。

 一概に射的の店をやりたいと言っても色々準備が大変なのである。


 まず景品を選ばなければならない。

 子供向けの獲りやすくて値段の安いお菓子、

 上の段には大きくて獲りにくくて底をボンドで貼り付けられるような景品を探してこなければならない、なお、全部貼り付けたらバレるので何個か貼らないでおく。ここで質の悪いものを多く入れてしまったらいくらお祭りと言えど客が逃げてしまう。

 いかにして利益と還元のバランスを取るのかが最重要である。


「射的がなにかわかっているのか?」

「わかっているとも、我が城に攻め込んできた勇者を銃で撃つということだろ」


 これで会っているだろう! とドヤ顔で言っているが全く違う。それは射撃ではなく射殺だ。

 殺してどうする、ダニエルの口元までその言葉が溢れてきそうになったがどうにか飲み込んだ。この魔王に怒鳴っても自分は関係ないとばかりに話を聞かないのは目に見えている。怒るだけ無駄なのだ。

 怒る時は不利益を被らせる方法を取るしかない。簡単に言えばおやつ抜きとか。


「なぜ俺をモチーフにした。言いたい事はあながち間違ってないが題材が間違ってる。射的は人を殺すものではない」

「同じようなものだろ」


 オグワに取ったら景品を狙うのも人を狙うのもさほど変わらない事なのかもしれないが、その両者には隔絶たる差が存在している。


「まぁいいやめた。オグワそこに置いた銃、撃ってみろ」


 ダニエルは先ほどオグワが何もないところから作り出したライフル銃を試射するように言った。

 にっこりと見ているこっちが不安になりそうな笑みを浮かべたオグワはその銃を魔法か何かで引き寄せ引き金に指を構えダニエルの頭に標準を合わせる。


「なぜ俺を狙う?」

「なんでも良いのであろう?」


 オグワとの口喧嘩は体力の無駄遣いだと判断してダニエルはオグワの後ろに回り込んだ。


「あの遠〜くの山を狙え」

「遠すぎではないか?」

「いいから狙え」


 よかろう、我の本気を見せてやろうではないか、山一つが吹っ飛んでも何も文句はないだろう。ダメだとは言われてないしな。


 などと頭の中でほざきながら適当な山に狙いを付け引き金を引いた瞬間、音もなく放たれた弾丸が目の前の山の中腹辺りに直径50メートルはありそうな円形の穴を作った。


 開いた口が塞がらないとはこういう時のことを言うのだとダニエルは思った。現に目の前の山に穴が開き、その先の山にも同じような穴が開いている。


「……お、オグワそれを人間相手撃ったらどうなる?」

「さぁ? 試したことがないからわからんが骨の一片血液の一滴残らないだろうな……痛った! 何をするダニエル」


 何も悪びれる様子もなく言い放ったオグワの頭に勇者のチョップが直撃した。


「お前それを射的で使う気か?」


 その目は一切のハイライトを失っていた。

 最初は呑気にケラケラと笑っていたオグワだったがダニエルの本気の怒りの表情に徐々にその笑顔は枯れたものに変化した。


「まさか、これ使うわけないだろ、死人が出る。我だって死人が出てしまっては困るからな、本番はもっと威力を抑えたものを用意する、だから心配するな。祭り当日は死人が出ないと約束する」


 これ以上に心配する約束を聞いたことがない。


「どうせこうなると思ったよ、だからお前をここに連れてきたんだ」


 そういう言いダニエルは持ってきた袋をガサガサと漁り、その中から子供向けのお菓子の箱を何点か取り出し、切り株の上に等間隔に並べた。


「オグワ、今からお前にはこの箱を壊さない程度にまで威力を抑えたコルク銃を作ってもらう。さっき言ってたな一度見たものならなんでも作れると」


 左にさ手に持ったコルク銃をオグワに投げ渡した。


「それを本物の銃のような外見をした物にして、この箱を壊さない程の威力に抑えたものを作れ、で、ちゃんと景品が倒れるようにしろ」


「まさか、我はこれを作るためにここに連れてこられたのか?」


 ダニエルはそれに答えず、地面に寝転んだ。


「おい、狡いぞ」

「お前もそれが終わったら寝ていいぞ」


 反論の余地すら残されなかったオグワは渋々銃の改造に勤しんでいた。

 これが案外楽しいのである。魔王もある種男の子なのだ。分解やら改造やらこう言うメカニックなのは心がワクワクする。


 その後2、3時間、山をも穿つ轟音が響いていたが徐々に轟音は聞こえなくなり、半日もするとおもちゃ用に威力が抑えられたコルク銃が完成した。


 完成する同時にコルク銃を放り投げダニエルの隣に寝そべった。


「終わったか?」

「終わったよ、あとはダニエル、貴様が確認してくれ」


 わかったよ、とダニエルは閉じた目で言った。

 頼むぞ、とオグワは眠りにつきながら呟いた。

 ♢ ♢ ♢


 3日ほど前から王城へ続く目抜き通りは収穫祭に向けた出店の設営や飾り付け、出店で販売する商品の制作などで街全体が浮かれていた。


 前日の夜になるとほとんど全ての工事や設営作業を終え残すは当日の細かい作業だけとなり会場の熱気は落ち着きを見せたがどこからともなく前夜祭だの言い出した大工衆が酒樽を持ち込み、目抜き通りは宴会場へ早替わりを遂げ酔いながら賑やかな笑い声と共に夜を明かしていた。


 当日の朝、時刻は午前6時を過ぎ、酔っ払いたちが眠い目をこすりながら最終仕上げのために動き始めると同時に、祭りが待ちきれなくなった大勢の子供達が各々好きな衣装に着替えて早くも、街らの雰囲気を楽しんでいた。


 まだ出店一軒すら開店していないが子供達は飾り付けられた街を走り回わり、設営作業する大工の親方に子供は邪魔だ! と怒鳴られ、蜘蛛の子を散らしたように逃げ回り、ほとぼりが覚めるとまた、まだかな? まだかな? と楽しそう喋りながら親方の影になる場所でコソコソと話している。


「今日ぐらいいいだろ」


 部下達に「どうしますか?」と聞かれた親方はそう言い、子供たちの方に振り返ると子供達はバレた! とキャキャ声を上げながら走って逃げる。


「お前ら! 壊すんじゃねぇぞ! いいな!」

「わかった!!!」


 と可愛い返事が返ってきた。


「今日は収穫祭だ。子供達の日だ。好きにさせとけ、その代わり何か壊したらちゃんと叱る。それが大人の仕事だ、神様達もそのぐらい怒りはせんさ」


 時刻は9時を過ぎた。大工達の仕事は全て終わり、「今日は終わりだ!」と撮影作業のために集まった大工全員が一斉に声を上げた、その中に色とりどりな衣装を着た子供達も混ざっていた。


「お前らは始まりだろ」


 と言う誰の声かわからないツッコミが漏れると会場が笑いに包まれた。


 その後大工衆には出店の関係者達から感謝の気持ちとして1人一杯ずつキンキンに冷えたビールが入ったジャッキが渡され集まった子供達にはビールではなくクッキーや砂糖菓子などが配られた。


「あらあら、可愛い大工さん達ね」


 出店の売り子の女性が知り合いの子ども達の頭をポンポンと撫でていた。


『おかぁさんが作ってくれた!』

「そう、それは良かった」


 お姉さんは自分の蝶を形どった髪飾りをその子の髪の毛に優しく丁寧に差した。


「いいの?」

「女の子は綺麗にしないと」

「ありがとう!」


 友達に呼ばれたその子は楽しそうに歩き出した。

 まだ収穫祭は始まらないが、すでに今年の収穫祭は楽しい思い出でいっぱいとなったことだろう。


 徐々に出店の関係者達が各々の店舗に材料や製作した装飾品を運び込み街は色づき始める。


 ここぞとばかりに新製品を売り出す服屋、安くなるどころか少し高くなった武器屋、見たこともない異国の日用品、売れなくてもいいから持ってきた奇抜な発明品、時計などの高価格帯の品物、世界各国を回っている商人が買い付けた品、骨董品など実に様々な商品がこの街に運び込まれ、フライング状態で販売され始めた。


 その中にはやはり祭りに格好つけてバレないと安易な考えで持ち込んだ違法な薬物や魔獣など危険性が高い物も紛れ込んでいる。そう言う奴らを捕まえるために国軍の兵士達が一軒一軒周り、何を売るのか質問し、問題ないと判断された店の壁には国軍の腕章に描かれている三つ葉のマークをスプレーで印刷して、その下には確認した兵士の名前が記されて安全を確保している。


 これを祭りの開催時刻正午までに終わらせなければならないのである。そのため今日だけは上官や末端の兵士関係なく忙しなく走り回っている。


 収穫祭の最中もかれらは交代制で見回りをすることになっている。収穫祭の出店の中には騎士団への勧誘や軍隊入隊案内所なども設置されて、開始の時を今か今かと待ち侘びている。



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