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魔王と勇者は案外仲が良い  作者: 雄太
勇者と魔王
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7 魔王慈悲

 

 東洋の服、浴衣の採寸を終え仲睦まじく店から出てきた2人は今日の宿である勇者の自宅へ向かっていた。

 その道中、魔王オグワは唐突に話を切り出した。


「ダニエル、我も収穫祭というものに参加したい」

「はぁ? 参加? 観光じゃなくてか?」


 突然の告白にダニエルは自分の耳を疑ったのか、思わずほっぺたをペチッと往復ビンタのように叩いた。そうしてやっとこれは現実だと認めて天を仰いだ。


「あぁそうだ参加したい」


 オグワはダニエルとは対照的に生き生きとした表情ですらすら言葉が出てくる。

 これが現実だと理解したダニエルだが頭の片隅ではいまだに夢であってくれと願っているがこれは夢ではないことをダニエルが一番わかっていた。それでも細い一本の糸さえ掴もうと足掻く。


「祭りを見て回るんじゃなくか?」

「そう言ってる」

「お前も出店(でみせ)出したいと」


 僅かな希望さえ打ち砕かれたダニエルは頭を抱えた。魔王に食品関係の出店をやらせたら何が出てくるか……魔族料理か、美味そうな感じはしないな。


「そう言うことだ」 

「なんの出店だ?」

「射的なんてどうだ?」


 ウキウキワクワク語るオグマをよそにダニエルの頭の中は『どうすんだよこれ』で埋め尽くされ始めてきた。どうやってオグワを違う餌で釣るか考えるがこの状態のオグワを止めれる餌もなく、ここは現実路線で抵抗をすると決定した。


「銃はどうやって持ってくる? まさか軍隊の武器庫に侵入して盗んでくるのか?」

「我が作るのだよ、我は魔王そんなもん簡単に作れる」


 魔王ならなんでもありだ、ダニエルが改めて魔王オグワの恐ろしさを認識した。

 ダニエルが勇者が見せてはいけないような顔をして難しく考え込んでいると、心配になったオグワがウルウルとしたチワワのような瞳で見つめてきた。


「ダメか?」


 ここで拒否したら、何言い出してくるか……暴れられるのも厄介だな、参加させるしかないか。オグワの澄んだ目で見つめられたダニエルは責任を丸投げすることにした。


「わかったよ。陛下は多分怒るだろうな……」


 瞼を閉じ、髪を掻き上げると怒鳴る国王の顔が目に浮かんだ。その直後、オグワは唐突に「そうだ」と発した。


「力でねじ伏せてしまえば良いのではないか?」


 どうせそんなことだろうと半ば予期していたダニエルだがオグワが発した一言はダニエルの想像の上を行くものであった。無意識のうちに大きなため息が漏れた。


「オグワ、あれでも一応国王陛下だ。力でどうこうできる存在じゃない。そもそも力でねじ伏せてどうする? 俺たちが死罪ってことになるぞ」

「我が城では毎日のように我を殺そうとする若輩者で溢れかえってた、その全てを我は跳ね除けたが、そもそも我は貴様の勇者の剣でしか死なないのだ。忘れたか?」

「はいはい、オグワの自慢はどうでもいいから」


 ぶつぶつ小言を言っているオグワの背中を押しながら歩き出した。


 ダニエルの背中には面倒なことになったと大量に書かれていた。


 翌日


「なぜ我をこんな山奥へ連れてきた? また、ここに来るとは」


 聞き捨てならない事をオグワは言ったが今のダニエルの耳には届いていなかった。ダニエルは勇者の袋に容量が一杯になるまで色々と詰め込み、詰め込みきれなかったテーブルを背中に背負っていた。


 民家一つすらない山奥、人間は勿論野生生物の生存も難しいほど酸素が薄い高原。ここは標高が高いせいか野生動物も少ない、ここで生息できる生物と言えば酸素の薄い高原に適応出来た種に限られるだろう。


 その中に魔王と勇者が含まれているのか検討の余地が残されているが現に2人はこの酸素が薄い高原でもピンピン生きている。


 大量の荷物を下ろしオグワに問いかけた。


「お前が昨日言っていた出店の銃の確認だ」


 お前が忘れてどうすると口を酸っぱくして怒鳴りつけたい気分になったがどうにかして飲み込んだ。ここで怒ってもこの魔王反省することもしないし自分が原因だと考えることもしない。怒ったって無駄なのだ。



「あぁ、そう言えばそうだな」

「まさか本当に武器庫から盗む気だったのか?」


 ギクッという擬音が付いたと錯覚するほど肩が跳ね上がった。「やっぱりか魔王に倫理はないか……」ダニエルは疲れたように小さく呟いた。魔王の地獄耳はそんなダニエルの呟きすら聞こえていた。


「まさか、そんなわけないだろ、我も魔王だ分別はついている。魔王が盗みなど虚しいだけだろう、我は魔王だ。欲しいものがあるなら自分で手に入れる」

「その手に入れるに盗むも入っているのだろう」


 どうせそんなところだろうとダニエルはオグワの思考を先読みするとオグワは正解と言った感じ笑みを見せた。


「そうだ。我の辞書には盗むと言う言葉は登録されてない。我にとって盗むとは手に入れると言う意味だ」

「やっぱりお前盗もうとしていたのか?」

「いや、そんな気は毛頭ない。別に銃の千丁や万丁作ろうと思えば作れる」


 ただ、疲れるけどな、見せてやるとオグワが言い、指を鳴らした瞬間どこからともなくライフル銃が宙に現れて静止した。


「どうだ? すごいだろ。我が知っているものであればなんでも作れる、命すら我であれば再生できる、まぁしかし再生された命が本人であるか同じ魂を持った別人であるのか判断が分かれるから魂を再生させるのは我は好きではない」


「魔王を侮っていたな……」

「やっと気づいたか、ダニエル。我と言う魔王の真の恐ろしさに」


 オグワは両手を広げ深い笑みを浮かべ演技モードに切り替わった。演技モードに入った魔王は飄々とした態度が隠れて、いつもは見せない真面目な雰囲気を醸し出す。オグワの動きも演技じみたものに変わりその黒い笑顔をなぜか良いものと言うふうに感じてしまう。まるで詐欺師のようだ。


「今からでも遅くないぞ、我を崇めろ、我に貢ぎ物を差し出すのだ、そうすれば我の加護を与えてやろう」


 オグワの手のひらに青黒く光る玉のようなものが現れ、ダニエルに向かってぷかぷかと飛行するがダニエルに当たる直前、勇者の剣によって振り払われた。


「詐欺じゃねぇかよ、貢物ってなんだ? 生贄の間違いじゃないのか?」

「我は人間は食べん。人間は不味い、油がギトギトで食べれたものじゃない」

「食べたことあるのか……」 


 げんなりした表情を浮かべたダニエルはこれ以上掘り下げたところで無駄だと判断したのか話を切ろうとしたがその前に魔王が話を繋げた。


「何千年も昔だ、我の加護を欲しがる不思議な人間がいてな、そいつらが若い人間の女の子を我に差し出してきて『我らに加護をお与えくださいませ』とお願いしてきたのだ」

「そいつを食べたのか?」


「我は人喰いの魔族ではない。何度言えばわかる。その女には我の加護を与え解放してやった。だがその女の子を連れてきた街の奴らは1人残らず殺してやった。我は生贄は好まぬ、可哀想ではないか、生贄になるのは大体若い女だ。まぁ腐りかけの老婆やら老爺を連れてきても困るが、天罰だ、彼らは我の怒りを買ったのだ。そのぐらい当然であろう。少しのその女の子の魂を覗いてみたが一切の迷いがなかった。本当に心から我に食べられても良いと思っていたようだな」


 そう熱弁するオグワの話を一切聞き入れることはなくダニエルは古い昔話を思い出した。


「数千年前……聞いたことがあるな」


 勇者ダニエルは一つの神話を思い出した、数千年前の存在していたと言うカルト集団魔王慈悲の御伽話である。


 昔、魔王を崇める酔狂なカルト集団が存在した。

 彼は魔王を神として崇め、自分達を神、つまり魔王の部下と宣言した。魔王の部下を名乗った彼らは宣教者を名乗り他の街の住民に自分たちの教えを洗脳に近い方法で広め、一部の街や国では魔王慈悲を信仰すること自体を禁止されたと言うお話である。


 そして彼は魔王慈悲は突然歴史の表舞台から消えたとされている。


 カルト集団が消えた原因がなんとなく察しがついた勇者ダニエルはこの記憶を忘れることにした。


 彼らは歴史の表舞台から消えただけである、歴史の裏には彼らの関与を示すいくつもの物的証拠が残されている、今でも街の至る所に隠れ潜んでいると陰謀めいた噂がたびたび街を駆け巡っている。


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