61 魔王と勇者は案外仲が良い
「オグワ!! 出せツ! おい!!」
その板を力任せに殴るが一向に割れる気配も傷付く気配すらない。
それを知ってか知らずかオグワはわざと階段をゆっくり降りて来た。
「アイリーン逃げろ!!!」
声を枯らしながら叫ぶが、アイリーンは意識を失っているのか、身動きひとつとらない。
その間も時間に余裕のある魔王はゆっくりと、ダニエルに見せつけるようにアイリーンに近づく。
このままでは不味い、そう直感したダニエルは剣を取り出し、剣技など関係なく、ただ闇雲に振り回すが剣は透明な何かに包まれ勢いを失う。
「チクショ! なんで壊れない!」
「我の魔法だからだ。貴様とてそう簡単には破れない」
怒りに身を任せ、全身の力を込めた拳が透明な板に亀裂を入れた。
「ほう、亀裂を入れるか……それに亀裂を入れたのは貴様で5人目だ……」
そう言うと床に倒れているアイリーンの細い首を持ち上げる、ゴホッゴホッという咳き込む声が聞こえアイリーンが意識を取り戻すと、すぐに手足をバタバタさせ拘束から逃れようとするがその手が外れる事はない。
「グッ!……魔王!」
「アイリーンは我のスパイだった」
「どういう事だ………」
明かされた真実にダニエルは目を見開く。
「しかしその裏で、反魔王派などという組織を結成し我を裏切った」
「アイリーンが………お前のスパイ? 反魔王派? 冗談だろ」
これも魔王の心理戦だ。ダニエルはそう考え頭の中で急いで思考する。
どういう事だ? 何が起きてる? アイリーンはオグワのスパイ? それに反魔王派のトップ?
だが極限状態だ。ろくな答えが出てこない。
「何か言う事はあるか? アイリーン」
そう問われたアイリーンはオグワの顔に唾を吐く。
「魔王! お前が家族をめちゃくちゃにした!!」
「あはは、あははは! 我は魔王だ貴様らは我の所有物だ」
アイリーンの手に魔力が集まり出したその時、首を絞めていた手に力を僅かに込め、アイリーンの首を砕いた。
「アイリーーーーーン!!!!」
ダニエルは拳が壊れることも厭わず透明な板を殴る蹴ると少し亀裂が拡大した。その代わり拳から血がタラタラと滴り落ちる。痛みに耐えながらその隙間に剣を差し込み、てこの原理の応用で割ろうとする。
パリッと言う音を上げ透明な板は粉々に割れ落ちる。
そしてその勢いそのままに魔王に剣を向けた。
アイリーンを投げ捨てた魔王は二歩横にぬるっと動き、ダニエルの剣を躱すが右手にあるはずの感触がないことに気づき、見ると肘から先が地面に落ち白い大理石の床が赤く染まり始めた。
「我の腕……か」
避けられたあとダニエルは身体を無理矢理捻り剣を回転させ魔王の左手腕を切り落とした。勢いそのまま体勢を崩し転倒したが魔王の慈悲だろうかオグワは攻撃してこない。
自らの左腕を取り上げると切断面に押し当てる。
数秒して手を離すと左は元通りにくっつき、グーパーで感触を確かめた。
「ふふふ、ふふふふ、我の左腕を落とされたのは久しぶりだな……」
ダニエルとの距離を一気に詰める。想定外の行動にダニエルは剣で魔王の拳を相殺するのが手一杯だ。
魔王の拳の直撃を受けた剣は下半分を残し上側は回転しながら後方へ飛んでいく。
魔王の拳から血が滴り落ちる。
「これが、痛み……か」
滴り落ちていた血はすぐに止血された。
この間にダニエルは距離を取り剣の破損具合を確かめる。
「まだ剣は半分残ってる……」
勇者の剣は下半分を残している。上手く使えばまだ人を殺傷できる程度の攻撃力は残っているがかなり魔王とのリーチを詰めないと魔王に傷を与える事すら困難だ。
リーチを詰めると言うことは魔王に近づくと言うこと。反撃を食らう可能性も十二分にある。
だが。ここで逃げては、衛兵たち、国王、アイリーン、グラジュエル、アネット……そしてフィスリア達の全てを奪うことと等しい。
今、ここでオグワを殺す覚悟を決めたダニエル。
柄を握り直したダニエルは独特の体勢の低い構えを見せる、足の力をふくらはぎに集中させ、一歩で相手の胸元に入り込む、身体が柔らかいダニエルだからでから一無二の攻め方。
魔王には一度も見せたことがない構え、これを放った時は例外なく敵を殺している。
突如、ダニエルの姿が消えた。否。一歩魔王に踏み込む。その瞬間、魔王の首がくるくるゆっくり横回転をしながら地面に落ちた。
「我は死なない」
首だけになった魔王が喋る。ぷかぷかとヘリウムが抜けかけた風船のように浮かび胴体に戻ろうとするが、刹那、何かの影が目の前を切り裂き、魔王の頭部は脳天から真っ二つに割れ地面に落ち、ゆらゆらと左右に揺れる。
「俺のせいだ……俺のせいでみんなを友達を殺すことになった」
友人を殺した罪悪感で心を蝕まれたダニエルは半分になった魔王の顔の脇に座り込む。
「なぁオグワ、もし俺とお前が敵同士じゃなかったらどうなってたと思う? 俺にはなんとなくだが、わかるんだ。絶対に俺とお前は友達になんか、なれなかったーー
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「ふん、貴様は今、どんな夢を見ているのだろうか。まぁ例外なく我を殺した夢であろうな」
オグワは薄気味悪い笑みを浮かべながら魔法で眠らされたダニエルの横にしゃがみ込むとダニエルの手から離れた勇者の剣を取り上げた。
その剣をじっくりと検分した魔王。この剣の正体に見当が付き、笑みをこぼす。
「やはり、これは我の剣か……あの時の子供が我のことを殺しにきた……あははあははは! 愉快! 実に愉快だ!。だか我は不死身だ。だからやめられないのだ!!!」
声高に叫んだ直後オグワはその昔、自身が気まぐれで選んだ子供にあげた魔王の剣でダニエルの首を切り落とした。
翌日
王城はいつも通りであった。
無数の死者を出した殺戮が起きたはずだかそんなことなかったかのように静かであった。
殺されたはずの兵士は皆生きており、ダニエルの目の前で殺された国王はピンピンしている死んでなどいない。
ダニエルの目の前で首をへし折られ確実に死んだはずのアイリーンは翌日もギルドに出勤していた。
そしてダニエルも半ば日課になった魔王との串焼きの奪い合いをしていた。
「我の串焼きだ! 返せ!」
「俺の金だ! 俺にも食べる権利がある!」
「我が買うと言わなければ貴様は買えなかったのだ! だから我のものだ!」
「お前がいなくてもーーっ! てめっ!」
少し油断したダニエルの隙をつきオグワは串ごと串焼き丸飲みした。
「我の勝ちだ!ーーっゲバビュ…………」
串焼きが胃に入ったその時オグワが消えた、
「……痛い……」
目にも止まらぬ速さで魔王の腹に渾身に一撃が捩じ込まれオグワは腹部を押さえながら地面にうずくまる。
「最初から、そんなことしなければいいのに」
うずくまる演技に夢中の魔王にダニエルの一言が突き刺さる。
「我に串焼きをくれないのがいけないのだ」
「はいはい、そうですね」
まともに相手するのが面倒になったダニエルは一つ、冷たいため息を吐き、いまだにうずくまる魔王を置いて歩き出す。
「待て! 待つのだ!」
置いて行かれては困るオグワは光速の速さで立ち上がりダニエルの隣に並んだ。
「わかった。貴様の分も買ってやる」
「自分で買うからいい」
まるで昨日の出来事が幻だったように……。
♢ ♢ ♢
雷鳴を伴い目を焼くような稲妻が走る。
昨夜から降り始めた雨は止むことなく、地面を容赦なく濡らす。
魔王は年代物のワインを注いだグラスを左手に持ち、呷ると漆黒の棺に入れられた勇者の頬を包み込むように撫でた。
頬を包み込んだ手のひらから、彼の体温を感じた。
「貴様は今、どんな夢を見ているのだろうか。まぁ例外なく我を殺した夢であろうな。夢の世界の我も同じことを言ってるのだろうな、ダニエル」
魔王が過去を思い出しているとトントンと2回扉をノックした音が響いた。
「入れ」
と言いながら立ち上がると入室してきたのは魔王の腹心の1人であるレイムズであった。抱きついて出迎えようとしたがするりと交わされた。
「何故避ける?」
「気持ち悪いからです。そんなことより、魔王様、皆揃いました。」
「わかった。今行く」
少し不機嫌になった魔王とは目を合わせず、レイムズはわずかに頭を下げると魔王を残し、部屋を後にした。
キィと言う軋みを立てながら扉が閉まったのを確認してから、魔王はダニエルの棺を自らの手で閉じた。
魔王と勇者は案外仲が良い 完
毎日コツコツ書き続けた結果、総文字数約15万字、途方もない数字ですな。チリも積もればなんとやら。
15万字。プロの作家からすればたったそれだけと言われるかもしれませんが。まぁ実際厚めの本一冊程度、ですが何も知らないど素人なので大目に見て下さい。
私なんてよちよち歩きを始めた赤子に過ぎませんから。
ここで宣伝、次は『騎士団のお仕事』を連載予定です。
全61話ご愛読ありがとうございました!
またいつか、なろうで会える日を……心待ちにしながら。これで締めさせて頂きます。




