60 魔王の本性
※血に弱い方は読み飛ばしてください。
深夜2時 街は完全に寝静まり野犬の遠吠えがどこから聞こえる。それに反応するように色んなところで遠吠えの連鎖が起きる。
「フィスリア!! ッ!」
布団をバッ! と持ち上げダニエルが飛び起きた。首筋には冷や汗がダラダラとまるで滝のように流れている。
息が荒れ、呼吸が乱れる。
「はぁ、はぁ、はぁ……夢か」
安堵のため息をついたダニエルは湿って気持ち悪い汗を拭くため、布団から起き上がりタンスを開きタオルを取り出し顔を埋めた。
ここ最近見ることがなかった夢。
魔王城でフィスリアが隠れていたゴブリン兵に射抜かれた瞬間が何度も脳内でフラッシュバックをする。
初めの頃は頻繁にその夢を見てベットを飛び起きることがあったがここ最近は、ダニエルの心の奥底に封じ込めたせいで、その夢を見る事は無かったが、今日その夢を久しぶりに見た。
だが飛び起きたダニエルは夢の中のフィスリアの顔も声も何も思い出せなかった。
もうダニエルはフィスリアの声も顔も忘れてしまった。
心を落ち着かせゆっくりとタオルを置くといつも聞こえてくるオグワの大きなイビキが今日は何一つ聴こえない。
いつもならそんなこと気にも留めないが、何故か今日は何かに突き動かされたように気になって仕方がない。
オグワの部屋のドアを起こさないようにゆっくりと開く。
「おーい、オグワ?」
声をかけるが誰も返事をしない。
珍しく静かに寝てるだけならいいけど……。
ダニエルは足音を立てないようにゆっくりと部屋に入るがどうしても床が軋み、キィーと言う薄気味悪い音が響く。
部屋の角っこに置かれたベッド。布団は足で蹴り落としたのか床に落ちている。
だが布団の上にオグワの姿がない。
その代わりに逃走防止用の魔道具である腕輪嵌められた左腕だけが放置されていた。
「っ! お、オグワ………」
ダニエルの顔が青ざめるのがよくわかる。
その左腕の切り口からは血が一切流れてない。真っ白い敷布団は白いままだ。
腰を抜かしかけたダニエルは壁に寄りかかり転倒を免れ。急いで起き上がり自分の部屋に向かう。
タンスをひっくり返して寝巻き姿から着替え、自分の命とも呼べる勇者の剣を取り上げ、ちゃんと服を着ないままアパートを飛び出した。
ダニエルが目指す先は一つしかない。
『王城』だ。
頼む! オグワ。そこにいないでくれ、俺の勘違いであってくれ、また寝ぼけて歩き回っているだけであってくれ!
心の中で自身の間違いか早とちりである事を祈るながら全速力で王城に向かう。
ダニエルのアパートから王城まで約30分息が乱れることもすら考慮せずただひたすらにダニエルは走り続ける。いつものランニングペースよりも倍ぐらいに早く駆け抜ける。
その後ろを唸り声を上げた野犬が群れて追いかけてくるが気にしない。今のトップスピードであれば野犬の群れを引き剥がせる。
実際、野犬の群れよりも早く駆け抜け、野犬の群れは追いかけるのをやめた。
王城の外周を囲む水堀が見えて来た。すでに王城内の灯りは数ヶ所を残し消されている。
この王城には表立って設置されている入り口は正門の一つしかない。ダニエルはそこに向かって一目散に走る。
月明かりに照らされた正門が薄っすらと確認できる。普段なら4人近く立っている門番の姿がない。
乱れた呼吸を整えて、ダニエルが顔を上げると地面に水だまりーー否。血溜まりができている。
目を見開いたまま頭部だけとなった兵士の遺体。
胴体は見当たらない。勿論手足も。
自分の予想が最悪の形で的中したダニエルはその遺体に『ごめん』と一言だけ呟くと、呼吸が荒いまま奥へ向かう。
今。オグワが居るとすれば玉座の間しかあり得ない。ダニエルは、自らの勘を信じて城の中を突き進む。スピードを維持するため減速することなく壁にぶつかりながら、無理やり角を曲がり直線を突っ走り抜け、玉座の間に繋がる通路に出る。
「ここもか!!」
城の衛兵が何十人と惨殺されている。
首を切り落とされた者。
痛ぶるためだろうか両脚を斬られ呻き声を上げる者。
激痛が走る抉られた目を抑えながら『ぁぁああ!あ!ぁぁああ!』と叫び声を上げ暗黒の暗闇の中のたのたうち回り仲間の遺体に躓く若い騎士。
騎士としての使命を果たそうと、懸命に動き回る首から下だけの肉体は唐突に倒れた。時間の限界だったのだろう。
四肢を落とされ魔王の戯れか、止血だけはされ、命だけは助けられた兵士は激痛に耐えきれなかったのか、自らの首を落ちていた剣で傷つけて命を絶っている。
この惨状見て心が壊れた笑い声が遺体の山のどこかから響く、その声は一つや二つではない。
百舌鳥の早贄のように天井のジャンデリアに胸を突き刺され『うぅ、うぅ』と呻き声をあげている衛兵。天井からポタポタと血が滴り落ちる。
懸命に応戦した騎士だろうか、何故か、傷一つついてない状態で死んでいる。
左側に居た兵士はまだ息があるのか、胸に突き刺さった槍を抜こうと、必死に足掻いているがもう槍を抜く力も残ってない。
割れた床には騎士の首が生えるーー否。生き埋めにされたのだ。仲間が次々に殺されていく惨状から目を背くこともできず直視した騎士は「ヒィヒヒィ!! ヒィヒィはいいィィィイイイイ!」と壊れれた笑い声を漏らす。
四肢の損傷も身体にも傷を負っていない騎士が宙をぷかぶかと浮かぶ、ダニエルは声をかけるが反応はない。
足元に『ベチャ』という感触を覚え、下を見るとーーーーーーーーーーが放置されて思わず後退りした。
ダニエルは魔法によって宙に浮かぶ騎士を見つけた。床に落ちていたそれが彼の物であった事はまず間違いない。
早くも腐敗し始めた臓物の臭いで思わずダニエルは顔を歪め
『ごめんなさい……』
と呟き、後ろの何十人と言うと騎士達にーー
『僕が魔王と友達にさえならなければ……』
ーー絶対に許してくれないとわかっていながら謝り先を急ぐような駆け出す。
ま、待って……くれ……
まだ息があった兵士が助けを求めるが無視する他なかった。
立ち止まり、振り返ったら罪の意識に押し潰されると分かっていたからだ。
玉座の間に続く無駄に豪華な宝飾が施された扉はへし折られるように破壊され砕け散っている。
その扉を恐る恐るくぐると月光に照らされた見覚えのあるシルエットが見えた。
そのシルエットはダニエルに背中を向け何かを掴んでいる。
「ダニエルか、少し待っていてくれ」
言い終わる前にゴキッと何かが折れる音が聞こえ、そのシルエットは掴んでいた何かを窓の外に放り投げる。
刹那、カラン、コロンと金属が転がる甲高い音が玉座の間にほんの僅かの時間響き渡る。
「……オグワ!」
ダニエルの拳に力が入る、今にでも飛びかかろうと動き出す直前、視界に床に倒れた人の姿が見えた。
「アイリーン!!」
急ブレーキをかけたダニエルはアイリーンに近づこうとするが、魔法で発生した透明な板のような物に四方八方を塞がれ身動きが取れなくなる。




