58 修理費は高い
その後、るんるんの笑顔で帰って来たオグワの手には淹れたてのコーヒーと大量に砂糖とミルクが乗ったカゴを抱えウキウキした表情を浮かべた。
「お前。まさかそれ全部入れる気か?」
「ああそうだ」
そう言い砂糖スティックをわざわざ全部開け一度にまとめてコーヒーに放り込んだ。
砂糖だけでもスティックが10本程、ミルクのカップは山積みにされ見えるだけでも8個は確定で乗せられている。もしそれ等を全部コーヒーに投入したらそれはコーヒーと呼んで良い品物になるのか……ダニエルの中での疑問は尽きないがオグワが楽しそうだから口は挟まないことにした。
ミルクカップを片っ端から開けテーブルの上に横一列に並べる。それはある種、芸術のように見えた。それを左から順に一個ずつコーヒーに注ぐ。
黒かったコーヒーは徐々に白混じりの茶色に変化し、もう茶色よりも白色に近い色のコーヒーが出来上がる。
そしてそれをマドラーでぐるぐる渦潮ができるほどかき混ぜ、躊躇いもなく一気に飲み切る。
「……クハァ、甘〜い」
「だろうな」
よくそれで病気にならないなダニエルが感心した様子でオグワを眺める。
一飲みでコーヒーを飲み干し、そのあり得ないほどの甘さに満足したのかカップの底に残った砂糖を舌で掬うようにして舐めまわす。
「もうそれコーヒー要らないんじゃないの? 砂糖とミルク混ぜてそのまま飲めば?」
「それはコーヒーではない」
お前が言うなよ……ダニエルの額にピキッ! とヒビが入る。
「美味しいぞ貴様も飲んでみるか?」
「要らない。遠慮しておく」
「連れないな。この美味しさがわからないとは人生無駄にしているぞ」
お前と一緒にいる方が人生無駄にしてるんだよ!。
この魔王をしばきたくなったがこいつは痛み程度では反省の色を見せない奴だ。ダニエルはグッと怒りを押し込めるがわずかに殺気に近い何かが漏れ出し、魔王のプレッシャーを浴びてやっと目覚めて起き上がった客がまた倒れ込んだ。
「あはは! 貴様も飲んでみろ」
オグワはどこからともなく出来立てコーヒーを取り出すとさっきと同じように砂糖とミルクを大量投入し怒りに耐えているダニエルの口元に運ぶ。
だがダニエルは怒りに耐えようとして目の前の光景に気づいてない。
そして口の中に想像絶する甘味を感じた時初めて目の前の魔王の存在に気づく。
「うげぁ!!! なんだこれ!! 殺す気か!?」
口に入った劇物を吐き出すために立ち上がると同時に魔王に出来立て熱々コーヒーがかかり……
「熱い!あつ!熱い!!、助けて!熱い!!ああああああぁぁぁああ!!」
と叫びながら床をコロコロ転がり冷やそうと必死に動き。そこに口から白茶色の液体を垂らしたダニエルが現れ魔王の腹を踏み潰す。
「い……たい」
タフな魔王は出来上がったパンを食べながらそう呟く。だがオグワの体は首から下までが地面に突き刺さっている。首はかろうじて動かせるか周囲をキョロキョロ見渡す。
「マスター悪い。修理費は全額払うから」
「かしこまりました」
「我が直すぞ!」
細かく分けられたパンをオグワの口に運んでいたマスターが答えた。
「あと、損害分も全部払う」
「かしこまりました」
「だから我が魔法でちょちょいのちょいと直すと言ってるもちろん無料だ。金は一切とらん」
「お前、金は取らないってどう言うことだ?」
「我に一生分のパンとコーヒーを貢ぐのだ!」
「……………」
「助けてくれ!」
「かしこまりました」
「聞かなくていいぞ」
マスターは魔王の悲痛な叫び声を無視して口元にパンを持っていくと魔王は餌付けされた鯉のようにそれをぱくぱく食べる。
「美味しいぞ」
「元気そうだな……」
「助けて! 息が出来ない! 我死ぬ! 我であろうと息ができなければ死ぬ! それでも良いのか? この店が事故物件になってしまうぞ!」
脅しにしては少し弱い。もう少しマシな嘘をつけ。
多分だがオグワは地面の中で動かせない手足をバタバタさせ必死に助けてアピールをしているのだろう。
「それは少し困りますね」
さらに騙されたマスター。
その直後魔王の頭がスパンッといい音を鳴らし叩かれた。
「何をする?」
「お前酸素なくても生きていけるだろ」
「まぁ別に……」
「そうなんですか?」
「こいつの嘘に騙されるな」
「嘘ではない本当だ!」
だが誰も魔王の言葉を信用しようとはしなかった。




