56 魔王崇拝
会計を終え、2人は外に出て来た。
このまま居たらこの魔王絶対にポロリと漏らすからだ。張本人である魔王は何故が不満顔だ。
「もう少したべたかった」
食べ物の恨みは一生の恨みとよく言われる。
まさに食べ物の恨みは怖い。
「そんなにあのパン気に入ったのか? いつでも食えるじゃないか」
「なら今から食べに行こう」
「嫌だ」
ダニエルに腕を掴まれ、ならば無理やり引きずられながら名残惜しそうにあの喫茶店を見ている。
側から見ればそれはまるでおもちゃを買って貰えなくて駄々をこねている休日の子供のように見える。
だが魔王は大人だ子供では無い。
子供なら可愛いわねで終わるかもしれないが魔王なら何あの人? と通りすがりの人たちが後ろ指を指される。現に今もそうだ。
「恥ずかしいからやめろ」
「我に羞恥心などない!」
「大声で言う事じゃねぇ……」
なんでこのクソ魔王はこんな恥ずかしいことを大声で叫べるんだ?。ほんと羞恥心のかけらもねぇな。
言葉で効かない奴には愛ある拳が必要だ。
愛情が一切こもっていない鉄のような拳で魔王の腹部が抉られ、グハッ! と言う音が聞こえると同時に魔王は腹を抑える余裕も受け身を取る余力もなく地面に倒れ込んだ。
「さて、帰るよ」
ダニエルは魔王の足を掴み、引き摺り始めた。
魔王が引きずられた道ができ、翌日新種の魔物が現れたと騒動になったが騎士団が馬車から垂れた布が原因だと実演付きで住人達に説明し騒動は沈静化した。
引き摺られている魔王はまだ起きない。引き摺れる方が楽だからか寝たふりしている。
そのせいで大人達は子供の目を抑え「見ちゃダメよ」と言いそれを抜け出した子供達は魔王を蹴り飛ばしたり、乗ってみたり、石を投げつけたり、後が怖い遊びをしている。
だが魔王は反応しない。
演技に夢中なのである。
別にここに魔王を放置して行ってもいいが放置して行ったら子供達が何を仕出かすか予想困難だ。流石にその状態では子供達が危険だ。
今は大人しいが一度怒り出したら世界が終焉の時を迎える。魔王にはそれをやってのける力がある。
だからダニエルはどんなに重くて面倒でもコイツをここに放置すると言う選択肢は最初から削られている。残されている選択肢は魔王を起こし立たせたら帰るかこのまま引きずって帰るかの2択だ。
だがこの感じでは魔王は起きないだろ仕方なくこのまま生き恥を晒してもらう為に引き摺ることにした。
「なぁ、起きてくれよ。また演技だろ本当に死んだら演技すらできなくなるぞ、そもそもこの程度で死んでもらったら困るんだけど」
何をどう困るのかよくわからないがこんな簡単に死んでもらっては困るようだ。
現在進行形で引き摺られている魔王は子供達からキックの応酬を受けているが痛いの一言すら言わずただ死んだふりを続ける。
「わかったから俺の負けでいいよ」
なんの勝負してのか知らんけど。
多少の疲れはあるもののまだ余力を残しているがこいつにこれ以上労力を割きたく無い。
「お前、それでいいのか?」
親に怒られた子供達は姿を消し道ゆく人たちは皆魔王から目を背ける。
元からマイナスだった魔王の評価が下がるに連れてダニエルの好感度も下落を始めた。
いい加減我慢の限界に達したダニエルは人目のない裏路地に魔王を連れ込む。
決してあれやこれをするためでは無いもちろん財布をスルためでもなく薬物を買うためでも無い。魔王を起こすために路地裏に入ったのだ。
だがそれは失敗だった。
人気のない路地だと思い入ったらそこはどっかの宗教の会合が行われている広場があった。
何十人もの人が集まり地面の上に跪き、豪華絢爛に装飾された祭壇の真ん中に人の背丈を優に超える肖像画が飾られている。
「あ、あれって……」
ダニエルの視線の先の肖像画には物凄い嫌悪感を抱かせる笑顔を見せていたオグワ。
『『『『魔王様万歳!!!』』』
『『『『魔王様万歳!!!』』』
『『『『魔王様万歳!!!』』』
『『『我らが使徒に永遠の幸せを!』』』
『『『我らが使徒に永遠の幸せを!』』』
『『『『魔王様万歳!!!』』』
『『『『魔王様万歳!!!』』』
『『『『魔王様万歳!!!』』』
『『『我らが使徒に永遠の幸せを!』』』
『『『我らが使徒に永遠の幸せを!』』』
『『『魔王様に永遠の栄光を』』』
『『『魔王様に永遠の栄光を』』』
『『『魔王様に永遠の栄光を』』』
『『『『魔王様万歳!!!』』』
『『『『魔王様万歳!!!』』』
『『『『魔王様万歳!!!』』』
『『『我らが使徒に永遠の幸せを!』』』
『『『我らが使徒に永遠の幸せを!』』』
「入る路地間違えた……」
ダニエルは急いでその場を後にした。一つ、ダニエルの頭から完全に忘れ去られた奴がいる。そう魔王だ。
少し歩きダニエルが「なぁオグワ」と言った時に足元にも隣にもオグワがいない事に気づいた。
ダニエルが慌てて急いでさっきの路地に入ると祭壇に肖像画の代わりにオグワが「もっと崇めよ! 我の功績を讃えよ! 我こそが魔王オグワ・デ・デサンネスであるぞ!! あはっはっ!」
と満面の笑みを浮かべまるで玉座のように寛ぐ魔王の姿があった。
「悪ふざけはよせ」
一言だけ言うと魔王の首根っこを掴み連れ帰る。
『『『我が魔王様に永遠の栄光を!!!!』』』
「我は必ず! ゲブッ!」
首根っこを掴まれていることをすっかり忘れ、ーー
帰ってくる!! とでも言いたかったのだろうだが
そのまま首根っこ握られ脳への血流が途絶え意識を失った。
ダニエルに引きずられること約10分魔王は意識を取り戻し突如「我は必ず帰ってくる!!」と叫び出した。
突然叫び出した魔王に周囲の人はどの視線が集まり、何あの人? とこそこそ言っているのが僅かに耳に入る。
「静かにしろ」
オグワの首にチョップが入り反応する間もなく首がカタッと倒れた。




