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魔王と勇者は案外仲が良い  作者: 雄太
王城への登城
53/61

53 人魔族

 

 ダニエルに串焼きを買わせ満足したオグワはルンルンに鼻歌を歌っている。

 口には串焼きの串を咥えこのまま転んだら喉に突き刺さり死ぬと思うがもうダニエルは注意することをやめた。

 どうせこの程度じゃ死なないし、たまには痛い目に遭ってもらわないと。


 ダニエルがそんなことを考えていると目の前でオグワが地面の段差につま先を引っ掛け前方に身体が倒れる。


「えっ……」


 迫り来る地面、動かない身体、体を捻り受け身を取ろうとするがうまくいかない。

 地面はもうすぐそこ、思わずダニエルに視線を向けたオグワが転んだ事に気づき、動き始めるがどう足掻こうと間に合わない。


 ダニエルが手を伸ばす。だか僅かに服を掠めただけで掴めなかった。


「オグワ……」


 全てがスロー再生のようにゆっくり進む。

 あぁ、死ぬ前は世界がゆっくり進むと聞いたことがあったが、まさにこれがそう言う事……なのだな。


 死ぬ前に一目ダニエルを見ておこうと視線を向けるとこれで自分の手を汚さずに済んだと言いたげな笑みを浮かべたダニエルが居た。



「貴様!」


 その声が聞こえると同時にオグワは地面に激突し、口に咥えられていた串が喉を突き破り首から出てきた。

 いくら魔王と言えど首の血管や脊髄を損傷しては蘇れるはずがない。

 ダニエルは溢れてきた笑みを無理やり押し込めオグワの上半身を優しく持ち上げた。


「……ごぶゅ、だ、た、ダニ、エル」


 ダニエルに抱えられダニエルの腕の中で口から血を流し、最後の力を振り絞り何かを伝えようともがく。


「オグワ! しっかりしろ! 死ぬな!」

「貴様、よくも、我を見捨てたな………」


 その直後、喉に突き刺さっていた串がひとりでに動き出し口からモゾモゾと出て喉の傷が勝手に修復された。

 首の神経も傷ついてるはず……なのに。なんだコイツの生命力? マジで不死かよおかしいんじゃねぇか?


「なんだ生きてるんじゃん、ゴキブリ並みの生命力だな」

「我はこの程度じゃ死なぬ!………痛い」


 無事生還し叫びだしたオグワを腕から落とした。


 その直後二人の側に駆け寄ってくる男女二人組。


「大丈夫ですか?」


 女性の方が先に駆け寄り、オグワ達に声をかける。

 二人から見ればこの人たちはまるでカップルのように見える。お揃いのシャツに腕にはペアルックの腕輪、まるで私たちはカップルです。そう主張しているように見える。


「うん、あぁ。問題ない。躓いただけだ」


 魔王を殺しかけた張本人ダニエルが答えるとその女性は安心したように息を吐いた。


「よかった、顔面から転んで心配で心配で、でも怪我がなくてよかったです」

「ごめんなさい、心配かけて」

「なぁ、早く行こうぜ」


 後ろで見物していた彼氏が他の男と喋っているのを見てイライラし始めた。


「気にしないで、あの人はいつもそうなの」

「そ、そうですか………ほらお前も起きろ、帰るぞ、すいませんでした、じゃあこれで」


 ダニエルは魔王を起こし立たせると二人に一礼して、足早にその場を去る。


「で、どうだった? 何か掴めたか?」


 チラチラと背後を確認しさっきの2人がついてきてないことを確認したダニエルがオグワにだけ聞こえるほどの声量で聞いた。


「あぁ、巧妙に隠しているが我の目は欺けない。あの2人、魔族だ」

「お前の仲間?」


 すでにダニエルは尾行についてオグワから聞いている。王政の尾行と反魔王派の二つの尾行が何故か交互についていることも。

 オグワは言っていなかったが、王政と反魔王派は手を組んでいる可能性が高い。


「いや、我の部下ではない。多分反魔王派の連中だろうな、見た感じ魔力が少なかった」


 人間、魔族問わず全ての者は魔力を持っている。

 認識としては人間の方が魔力量は比較的少なく、魔族は多いと言う程度しかない。そして先ほどから話題に上がっている人魔族は中間程度魔力量しかない。

 そして勇者パーティ、ダニエルやフィスリア、アネット、などは常人よりはるかに多い魔力を持っている。その魔力量は魔族を凌ぎ魔王と対等に渡り合えるほどだ。

 なぜ、彼らのような人間が産まれるのかその理由は未だ解明されていない謎である。


 またギルドマスターのように筋肉だけで魔族を圧倒する狂者もこの世に存在している。


 手っ取り早く言えば人間は魔力の上下幅が激しく、時に魔王を超える魔力量を持った人間が現れる。

 魔族は魔力量の幅が少なく誰でもほぼ同じ程度の魔力を保持しているが時に魔王級の魔力を持つ存在も出現する、それがオグワだ。


 人間の魔力を50とするならば30も70もいて時に200を超える化け物が生まれる。

 魔族の魔族を80とするならば大体70から90の幅に収まり、魔王のような桁違いに強さを持つ化け物も生まれる。


 だがそれも全て裏が取れているわけではない。


「ふーん、そんなことまでわかるのか?」


 ダニエルもオグワほどではないかなんとなく魔力自体は感知することができる。だがそれはそこに誰がそこにいる程度しかない。仲間と敵の判別もつかないのだ。


 だがオグワにはわかる。魔力を見るだけで敵意があるかないかまだ判別できるそうだ。そのだがそれも隠蔽可能とのこと。


「わかる。だが魔力量が絶対と言うわけではない。我のように強い魔族は魔力を隠すからな」

「その理由は?」


  魔王は勿体ぶるように間を開け。自らの熱気を上げるが出てきた答えはその熱気に水をかける物だった。


「……人間世界で食べ歩きしを易くするためだ、我も普段から人間レベルにまだ魔力量を押さえつけている。だから誰も我のことを疑わないのだ」


 思わず拳に力が入り。一歩踏みだそうとしたが嫌な予感でもしたのかオグワはそそくさと距離を取る。


「そう、結局あの2人は?」


 ダニエルが拳を下ろすと安心したオグワが元の位置に戻った。


「魔族と人間のハーフだ」

「そんなことあり得るのか?」

「あり得る。正確に言えば人魔族だ」

「人魔族ってなんだ?」


 魔族はよく聞く名前だが人魔族と言う名前はダニエルも聞いたことがない。


「………過去に人間と交配した人間に見た目が近い魔族の総称だ。呼び名の問題だ。貴様らにとってはハーフと言った方が通りがいいか? ドワーフに近い種族だ。彼らは人間世界でも器用に生きている」


 その説明を聞いてなんとなくだが理解ができた。

 つまり魔族と人間のハーフか。そう言えばドワーフも過去には人間と混じった魔族っていう話を聞いたことがあるな。そう言う意味じゃ成功例だけど人間からも魔族からも迫害された種族がいるって話も聞いたことがある、人魔族もそういう奴ら……なのか。


「魔族にも色々種類がある、動物的な見た目を持つもの、悪魔に近い角を生やすもの、羽を持ち空を飛ぶもの、我のように人間に近い見た目を持つもの、さまざまいるのだ、その中でも人魔族は混血の魔族と呼ばれ人からも魔族からも拒絶されている」


 人間にとっての人種みたいな物か肌の色、目や鼻の大きさの違い、彫りの深さ、それぞれ違いがあるということか。


「人間よりも魔力が多く、生まれた子供に角が生えないこともある、そして魔族よりも魔力が少なく魔族の世界で生きていくには苦労するのだ」


 人間世界で生きるには奇形、魔族の中で生きるにも奇形、どちらからも仲間とは思われない種族それが人魔族。

 たとえ人魔族だろうと力社会の魔族達、力があれば迫害など受けないが、中途半端な力しか持っていない人魔族達にはどうすることもできない。


「特に我が元四天王エントラスなど人間とは全く違う見た目であったろ、逆に近衛騎士団団長ガイルは人間にかなり近い見た目で人間社会に溶け込んでいる、我も人魔族の有用性には気づいているが過去の因縁はそう簡単に無くなるわけもない、だから我は人魔族の多くを諜報部隊として召し抱え役立てていると言うわけだ」

「なぁ、俺に今の情報喋って良かったのか?」


 ダニエルも一応王政から魔王が漏らした情報を流すように命令されているが必要な情報しか流していない、それに加えてこの間は紅甲竜の話など面倒ごとに繋がる話は話していない。ついでに近衛騎士団団長ガイルのことも喋っていない。今回も絶対に面倒ごとに繋がるからと話す気はないが一応問いかけてた。


「問題なかろう」


 というなんともあっさりした回答が返ってくる。

 拍子抜けした回答が返ってきて、思わず声が詰まりかけたが他の事も聞いた。


「で、今どのぐらいの数が人間世界に潜伏してるの?」

「さぁ? 優に千は超えると思うが、調べたとこはない。自分を人間だと思い込んでいる子供達、そのまま大人になった者も多くいるだろうからな。もしかしたら先祖返りでも起こす可能性はあるが……多分大丈夫だろう」


 どこから大丈夫だろうという言葉が出てきたのかわからないがオグワはいつも通り何にも考えず歩き出す。


 

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