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魔王と勇者は案外仲が良い  作者: 雄太
王城への登城
52/61

52 串焼きの価値は時に命よりも高い

 

 ギーブスの隠れ屋から出た2人は街中をうろちょろしながら帰えろうとしていると後ろから2人、尾行がいる事にオグワは気づいた。尾行自体は別にうまくもない、それどころかバレても問題無しという感じがするほど下手な尾行だ。


 もしかしたら尾行がいる事に気づかせたいという意図があるのかもしれない。手っ取り早く言えば変なことをしたらいつでも捕まえられると暗に言っているような気もするが、それは少し発想が飛躍しすぎのような……だが頭の片隅に置いておいても損はないだろう。


 尾行に気づいたのはオグワだけではなくダニエルも気がついていたようだ。

 右手には串焼きの串が2本入った袋を握り締め、左手には食べかけの串焼きが握られ、それを食べながら、オグワは聞いた。


「しつこい奴らだな。さて、どうするダニエル?」


 左ほっぺを肉でリスのように膨らませたオグワはまるで初めての遠足に行く前日の子供のようなノリで聞いてくる。


 だか言っている意味は子供のものではない。

 尾行を殺すか殺さないか、それとも適当に撒くかと言う意味である。

 別に殺すのは簡単だが殺したところで解決はしない。新たな尾行を送り込まれるだけだ。


「なんで俺に丸投げすんだよ、少しは自分の頭を使え、使わないと溶けるぞ」

「本当か? 本当に溶けるのか? ありえない、よな……」


 真面目にに返答するのが嫌になったダニエルは適当に答えた。それを真に受け取ったのかオグワの目が見開かれ驚愕の様子で慌てふためく。


 急いで頭を押さえたオグワは頭が溶けると言う得体の知れない恐怖心からか声が震えている。

 頭を押さえたところで内部から溶けたら無駄だと思うがオグワはそんな事一切気にしない。

 コイツは迷信だろうとなんだろうと信じるタイプだ。


「なら試してみたらどうだ?」

「試してみよう……ってなると思うか?」

「お前ならやるんじゃないか」


 ダニエルにとってはいつもの掛け合いだかその発言にオグワはカチンときた。


「我もそこまで馬鹿ではない。それでだ、どうする? 殺すか?」


 このイライラをダニエルではなく尾行に向けよう言う発言にため息が漏れた。


「発想が100か0だな、もうちょっとお前の頭から良い発想は出てこないのか?」

「我は海よりも深い思考を持つのだ。その我の発想にケチを付けるのか?」


 海よりも深い、ね〜。そこらへんの浅瀬より浅いと思うけど、それどころか干上がった川だと思う。


「あぁ付ける」

「酷い、我ちょっぴり悲しいぞ、心が痛い」


 ダニエルが晒した本心にあぁ! 痛いと叫びながら心臓を押さえつけ、膝から崩れ落ち膝達になり、迷惑な叫び声を響かさる。


「うるさい、尾行も驚いて隠れてちゃったじゃんどうすんだよ」

「ならよかった観光再開と行こう」


 いつも間にか立ち上がったオグワは膝についた砂をバタバタを叩き落として、ダニエルの腕を掴み「さぁ行こう!」と歩き出そうとするがなぜが身体が動かない。

 うう! うう! と気合を入れ引っ張るがテコでも動かない。


「どうしたのだ? まさか尾行に何かされたのか?」


 そう言い慌てた様子でペタペタとダニエルの体を触りまくり確かめるが何も異常はない。ついでに懐にちょいと手を突っ込んでみたが何もない。


「ふぅ、安心した」


 何が安心したのか、そして何を確認したのかわからないがダニエルの無事を確かめたオグワは額に汗などついていないが一仕事終えた後のように額を拭う。


「……触るな」


 顔を上げたオグワの前には笑みと睨みが両立し不思議な顔をしたダニエルが居た。


「安心しろ我が見たところ貴様の体に異常はない」


 そう断言した瞬間、オグワの腹部に強烈な痛みが走り「ふぇ?」という間抜けな声を漏らしながらバタッと音を上げベチャっと地面に倒れた。


「痛い……何故、われ、が……」

「人の体をペタペタを触りまくって喜ぶ奴がいるか?」


 地面に倒れながらも袋の中に残っていた串焼きが出ないように押さえつけながら倒れ込んだ。

 そこまでして串焼きを守りたいのだろうか、

 串焼きにそこまでする価値があるのだろうか、

 命よりも串焼きの方が時に価値という意味では上になるのだろうか、

 食べ物は人を変える。食べ物の恨みは怖い。


「貴様の取り巻きの女の子は喜ぶではないか」


 思ったより身近に喜ぶ変態が存在した。

 だがあれはコイツのようなやましい気持ちを持っているわけではない。そう信じたい。そうじゃないと困る。

 そもそもダニエルはそんなことはしない。


「お前の頭には異常があるようだな金返せ」


 懐には金など入れてない。この魔王は隙があれば色々と何か企んでいる、何かやられるのがわかっていて対策しない馬鹿など存在しない。大切なものはもう一枚中に着込んだ服に入れてある。


「取ってません」


 珍しく本当のことを言った魔王。


「じゃなんで懐に手突っ込んだ?」

「お、お菓子があると思って」


 殴りたくなくなるような酷い言い訳であったが、心を鬼にしてオグワを蹴り飛ばした。


 これは決していじめや暴力ではない。

 躾である。

 重要な事なのでもう一度。言う躾である。

 決していじめや暴力ではない。

 そもそも発端はオグワである。

 金は人を変えるのだ。


 痛みに耐えながらくねくねと芋虫のように体を動かし、うううぅと呻き声を上げていたオグワはある程度騒ぎ終えると騒ぎ疲れたのか何事もなかったかのように涼しい顔をして立ち上がる。


「思ったより早かったな」

「貴様の目が酷かったかからな」


 オグワの言う通りである。一連の動きを見ていたダニエルの目は文字通り芋虫を見るような目で今にも踏み潰しそうな気配であった。

 もう少しくねくねしていたら間違いなく潰していたが、しかし踏み潰してもこの芋虫は破裂し死ぬの事はないと思われる。


 もし踏み潰して破裂してベチャッと体液が自分のズボンや靴に付着するのはもっと嫌だ。掃除するのは面倒だし、もう2度と履きたくない。だから踏み潰さなかったがある種オグワは生き恥を味わったような気分であるだろう。


「恥ずかしいならやらなければいいのに」

「貴様が我のことを殴るから我は痛いと言うことを全身でアピールし我の気持ちをわかってもらおうとしているのだ……人間の心を持たぬ貴様には効果ないがな」

「そりゃ結構」


 突き放すような言い方に何故か怒りが湧いてきたオグワは手に持つ串焼きの袋を抱き抱えた。


「そんなこと言うならもうこの串焼きやらんぞ」


 まるでガキの喧嘩のようなセリフに思わず笑い声が漏れた。


「何故笑う? 要らないのか」

「大丈夫。俺はわかってるから、美味しいよなそれ、大事に食べろ」

「なんだ? まるで最後の晩餐かのように、貴様、まさか死ぬのか!? ギャッわ!」


 やはり1発殴った。


 今度は串焼きの袋を守る余裕もなく倒れ込む。

 その際、串焼きの袋が宙を舞い、ダニエルがそれをキャッチし、中身を取り出した。


「わ、我の串焼き……」


 食べたかった、とダイニングメッセージを残して力尽きた演技をしているがダニエルはそんなの無視して串焼きを頬張る。


「美味いな、なんで焼いて塩振っただけなのにこんなに美味いんだろ」


 べろりと一本完食し、もう一本取り出すとオグワの口元に運ぶ。


 匂いで目を覚ました魔王はヒラメのような速度で串焼きにかぶりつこうとするがダニエルの方が一歩早く動き串焼きを死守した。


「き、貴様! 我の串焼き!」


 その直後串焼きはダニエルの胃の中へと消えていった。


「あ、ぁぁぁあっ、あ、うぅぅぅ、あ、我の、串、焼き」


 完全に事切れた魔王は動かなくなった。


「いいか? 悪ふざけはするな、人から金を盗むな、人にされて嫌なことはするな、わかったか」

「貴様はいいのか!? 我の串焼きを食べて」

「躾だ」

「そうですか」


 魔王はフラフラっと立ち上がると全身についた砂をパタパタと手で払い落とすと一瞬の隙をつきダニエルから紙袋を奪い取りその中の脂をたっぷり含んだ空気を肺一杯に吸い込み、タバコのように匂いを味わい吐き出した。


「はぁ〜〜〜……」

「気持ちわる」

「うるさい! 貴様もいつかの気持ちがわかるようになるのだ」

「そんなもん一生分かりたくもない」


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