48 クッキーには気をつけろ
「なぁ、このクッキー不味い」
時をほぼ同じくしてダニエル達も国王と同じようなクッキーを食べていた、いや、オグワだけだ。
そのオグワはクッキーをガリガリ言わせながら食べでいたが途中から、顔色が悪くなって吐き出した。
「そりゃ、毒入ってるからな」
「毒だと!? 我のクッキーに毒を入れたのか貴様!!!!」
元気そうに叫んでいるが顔色がかなり悪い。相当堪えているのだろう。
「なぜ俺になる? 目の前で見てただろ、被害妄想が激しいんだよお前は」
「貴様以外誰が毒を入れれる?」
「そのクッキー誰が持ってきた?」
オグワの目がメラメラと燃え上がり、拳が握られポキポキと軽い音を鳴らす。
そんな威嚇行為ダニエルには効かない。
ダニエルほどの熟練者になると動きを見れば本気かどうかがわかるとか……。
「……あのメイドいい度胸だな、我のクッキーに毒を入れた事、後悔させてやろう」
そう叫ぶと足に力を込め立ち上がろうとしたがオグワは立ち上がれーーなかった。
立ちあがろうとしたオグワの腕は何者かの手によって掴まれ引きずり戻された。
ダニエルが止めなければ本当にさっきのメイドを八つ裂きにし殺しそうな鋭い眼光でダニエルを睨みつけた。
「何をするのだ? 我のクッキーに毒を入れたメイドなど生かしておく必要あるまい」
『正当防衛だ!!』とどこで覚えていた変わらない言葉を使う。
せめて意味を知ってから使ってくれ。
「どうせお前毒じゃ死なないだろ」
「それとこれは別問題なのだ。いくら我が毒で死なないからと言って苦しみを感じなわけではないのだ。現に今も冷や汗に、動悸、吐き気が湧き上がってる」
「何だ、大丈夫そうじゃん」
「どこがだ? そう言うなら貴様も食べてみろ」
半分ほど減ったクッキーの山から2、3枚掴み上げダニエルの口に押し込もうとする。
「やめろ」
「はい」
ダニエルの本気の『やめろ』を喰らったオグワはまるで森の中でクマと遭遇した人間のようにおとなしく引き下がる。
「これ、美味しいよ食べてみる?」
どうにかして食べさせたいオグワは少し声音を上げて話しかける。
「要らない。美味しいなら自分で食べてろ」
冷たくあしわられた魔王はクッキーへの興味が失せた。
「それはそうと我をいつまで待たせるのだ? この国は客人を待たせるのが文化なのか? 我は海より心が広いからな、それが文化だと言うならば郷に入れば郷に従えだ。多少は従おう」
何やら上から目線で物を言っているが一応客人扱いということになる。上から目線もあながち間違っていない。
「なぁ、言葉の意味知ってるか?」
「知らん」
即答された回答にダニエルは思わず天井を見上げた。
せめてもうちょっと言葉の意味を知ろうよ……。
オグワのバカな発言に頭を悩ますダニエルだが解決策ないなことに気づき、改善を諦めた。
「知らないで使ってるのか……」
「語呂が良いから使ってるだけだ」
さほど語呂がいいと言うわけでもないような気もするがオグワはそれが気に入ったのか郷に入れば郷に従えだと連呼する。
「はいはいわかったよ」
どうせ魔王だ語呂の意味すら知らないかもと自分に思い聞かせる。
「であればこの国は客人に毒入りクッキーを出すのが文化なのか。もしこれで死ぬならこの国では生きていけないと………クククッ、あはは! 愉快ではないか」
「ばら撒くなよ」
オグワのやりそうな事に先に釘を打ち行動を止めた。釘を刺された魔王は拗ねたような表情を浮かべる。
「それがこの国の文化であろう?」
「この王室だけだ。国全体じゃない」
「まぁよい、この報いはからなず受けてもらうだけだ」
「殺しはするなよ」
ここ最近ダニエルの思考が物騒な方へ歪んでいる。本人はさほど気づいていないが、ここ最近、魔王を嗜める役から、まだまともな方へ魔王の行動を誘導するような言動が多くなっている。
「珍しいな、我を止めないのか?」
「目には目を歯には歯を」
「何だそれ?」
「……目を潰されたら目を潰し返してやれ、歯を折られたら歯を折り返してやれ、毒を入れられたなら毒を入れ返せって話だ」
かんこんかんこん 魔王の頭の中で鐘が鳴り、ピカん!っと電気が点灯した。
「毒なら殺していいのか? どうしたダニエル変な物でも食べたのか? 早く吐き出すが良い、それとも貴様の紅茶には、人の精神をおかしくする毒が入っていたのか? そもそもの話、我を引き止めるのが貴様の役割だろどうした?」
本気で心配するような目でダニエルを見つめる。
それを見るなと言った感じで手で払いのける。
「いい加減な俺も疲れたんだ」
「我と共に逃避行する気になったか? もっと早く言って欲しかった、流石に王城から抜け出すのは骨が折れる」
下手したら、脚の一本、腕の一本生贄として差し出さないといけなくなる、そのぐらいで逃げ切れるなら安い物かもしれないがなとオグワは遠足前日の子供のような口調で付け加えた。
「誰がお前と逃亡生活なんて送る、1人で勝手にいけ」
「なぜ貴様は毎回梯子を外すような真似をするのだ? たまには我の手を取り、まだ見ぬ世界を求め飛び出すのもいいと思うが?」
「お前の手なんか取りたくないんだよ」
「はいはい、わかりましたよ、心の友だと思っておったのに……チラ、チラチラ」
「鬱陶しい……」
本当にか? 本当はついて行きたいのだろう、本心は隠す物じゃないぞ、我のようにいつでも曝け出す必要もないが、たまには心を裸にするのもありだぞとぶんぶん睡眠中に飛んでくる蚊のように小声で聞いてくる。叩き潰したい。
「わかった。逃避行はなしか」
「やけに物分かりがいいな? 毒の効果か?」
「あぁそうだ」
その後もしばらく、逃避行するやらしないやらと言った物凄くどうでもいい会話がつり広げられてた。
それを隣の部屋で聞く者が2人。
この部屋には扉は存在しない。窓もない。壁紙が貼られていない真っ暗な部屋。
わずかに蝋燭の灯りで見えるテーブルと二つの椅子と2人の男。
魔王達にバレないように音を一切立てず、椅子に座り微動だにしない。
魔王が通された部屋の壁は向こうからの声は筒抜け、隣からこちらからの音は通らない特殊仕様となっている。だがこれも魔王相手にどこまで効果を発揮するのか未知数、魔王のみならず勇者にもこの部屋の存在を勘付かれる可能性も存在しているが、それよりも諜報活動の方が利益を生む。
盗聴した声は魔道具へと録音され床の穴を通り階下を通り別の部屋に送られる、そこでメイドに扮した諜報部隊の隊員が洗濯物に魔道具を紛れ込ませ、ありもしない第二洗濯室へ持ち込む、そこからまた壁の中に張り巡らせあるパイプを通り外に運び出され、また誰かの手を通り、諜報部隊の本部に届けられる。
その者達の部屋にまで扉がノックされる音が響いた。
『オグワ様、ダニエル様、ご準備が出来ました、玉座の間へご案内致します』
『やっと来たか待ちくたびれたぞ』
『申し訳ございません。準備に手間取りまして』
『まぁまぁ、仕方ないよ』
『そう言うなら仕方ない、我は海より心が広いからな』
『ご配慮、ありがとうございます』
『でだ、我のクッキーに毒を入れた件、どうするつもりだ?』
『オグワ!』
『悪かった、今度は毒抜きのクッキーを食わせてくれ』
『……かしこまり、ました』
バタバタと足音が聞こえた。
盗聴していた2人は頷き、仕事は終わりと目が言った。
『あぁ、すまん、忘れ物をした、待っててくれ』
オグワが部屋に戻る。
『何をそこそこしてるんだ?』
「っ!!」
思わず若い方の男が声を漏らしそうになったが自分で口を押さえつけどうにか押し留めた。
『我の勘違いであったか』
2人の背中に冷や汗が滝のように流れる。
ここから魔王がいる部屋にまで聞こえるのではないかと言うほど心臓の音がバクバク聞こえる。
わずか数十秒、それが永遠と言えるほど長く感じられる。早く行ってくれ! 2人は心の中で叫ぶ。
この部屋には扉はないのだ。2人に逃げ場など存在しない。
『みっーつけた』
その音が録音された魔道具が諜報部隊の本部に最後の一つとして届けられた。
後日、この部屋を調べた結果、遺体も血の痕跡も、そしてこの部屋自体存在していなかった。
諜報部隊が消し去ったのか、魔王が何かをしたのか、表に出ることはもう二度とない。
「で、何忘れたんだ?」
「うん? あぁポケットに入ってた」
「馬鹿だな」
「貴様もよくあるだろ、眼鏡付けてるのに眼鏡どこだって探すやつ」
「それとこれは違うだろ……」
「似たようなもんだ」




