47 壊れた歯車は取り替えられる運命
ガイルが退出した後、会議室にはその前から流れていた重苦しい空気がさらに充満する。窓は開いており風が流れ込むがこの空気を掃き出してはくれない。
ガイルの話が本当であれば、もうすでに戦争は始まっている。だがあのガイルを信じていいのかと言う心がこの場いる者たちに植え付けられた。
ある幹部の脳裏にはこれも魔王の策略では?と言う妄想に近い考えが出てきたがそれを口に出せる雰囲気ではない。
もしそんなことを口にすれば、魔王の手先と疑われることはまず間違い無いからだ。
給仕のため室内に入ってきたメイドが思わず悲鳴を漏らす。それほどまでにこの部屋に圧が掛かっている。
だがそこはプロのメイド。思わず声が出たが平静を取り戻し仕事を終えると逃げるように素早く外に出た。
国王は出された紅茶に手を付けたがほかのものたちは全く手を付けない。今カップを持ったら震えで落としてしまうのだろう。
「考えても意味はない。ガイルが本物か精巧な偽物か、我々には判断できない。少し見ただけだがワシにはあのガイルは本物のように見えた、言動も態度も普段と変わりない。だからこそ何かあるような気もするが、この場の空気に飲まれたせいなのか分からない」
もう会議などどうでもいい様子の国王は一通り言うと「おっ、今日はクッキーか」と言い無邪気に頬張る。
「美味いな、コックの味じゃないな、メイドの誰かの手作りか?」「毒でも入っていて皆殺しにしようとでも魔王が企んでいるのかもしれん」
などわざと混乱を招くような言動に皆呆れ顔だ。
否、呆れ顔ではない。誰も冗談とは受け取れないだけだ。
「冗談でもそう言うことを言うのはやめてください」
その中で1人レイピードだけはしっかりと釘を刺す。
「皆、この座をを狙っておるのであろう」
その一言で重苦しかったこの場の空気が凍りつく。
軍部も大臣たちも次は自分の番だと口にはしなかったが狙っていた。国王がそれを知らないわけがない。裏でこそこそしているの事は諜報部隊から報告済み。この国にもう世襲の王は要らないのだ。これからは人民が自らの王を自らの手で決める時代が必ずやってくる。
そしてここに座る者は確実にこの場にいる者たちから選ばれることになる。
だがそれは人民の手で選ばれた者とは呼ばない。
国民が知っている名前といえば、国王やシシリー、レイピード、ウォルター、ガイル、表に出てくる者達ぐらいだろう、大臣達の名前までは国民は把握していない。
農村部となれば国王の名前は知っていても顔は知らないと言うことも普通だ。
何度も言っているが必然的にこの場に座るのはこの4人のうちの誰か、はたまた勇者が担ぎ上げられる可能性も捨てきれない。
そんなにこの座が欲しいのか……自らの目で見ていて気付かぬのか?
自らの側近に向ける目は冷ややかなものだ。
長年共に仕事をし信頼というもの得たと思っていたがそれは幻だったようだ。
全責任はワシが負うのだ。それが国王なのだ。
善も悪もワシ1人の肩に乗っかっている。
貴様らは勘違いをしておる、ワシを引き摺り下ろせばバラ色人生が待っているとでも思っておるのだろう、そんなわけない。ワシをここから引き摺り下ろして待っているのは茨の道だ。
貴様らにはハズレクジしか残されておらんのだ。
レイピードよ、貴様も目も曇ったようだな。政界に長く居過ぎたようだ。あの時の貴様はメラメラと燃えるような目していたが今では、油のようにギタギタだ。
もっと早く、手を打つべきだった。
すでにこの国は崩壊に向かっている。
100年経てば権力図が変わる世界、建国から300年、長く持った方だろう。
永遠に保つ国など存在せんのだ。必ず国は潰れ新たな国が興る、領土資源権力富を求め争いが起き国は衰退しまた新たな国が興る。
壊れた歯車は新しい物と取り替えられる運命なのだ。




