46 威厳の低下
「あの時、何も策を提示しなかった者が口を挟むな」
「それはわしも入っておるのか?」
「ええ、勿論」
どうせそんなところだろうと分かりきった上で言葉にした国王。
勿論入っている。何を当たり前なことをという意味を乗せた答えたレイピード。
これだけで国王の権力の低下具合が手に取るようにわかる。
国王は選択を誤った訳ではないのだ。
あの時、魔王の滞在を認めるほかなかったのだ。
認めなければ勇者というカードを失い、魔王との全面戦争を陥っていた可能性が限りなく高い。もしそうなっていたら、負けは確実だっただろう。
今頃この国は地図から消えていたかもしれない。
そう考えれば国王の判断は決して不正解ではなかったのだ。ただ、正解でもない。
だが時に正解は不正解になる。
その逆も然り。
時代により正解は異なるのだ。
「無礼ではないか?」
「何が? 事実であろう。」
別に助け舟を出した訳ではないシシリーを一蹴した。
「私は発言を禁止した訳ではありませんのでご注意を。一時の感情に押されて叫ぶのをやめていただきたいと言っているのです、ちゃんと理論立てた話であれば発言はご自由にして下さい」
「レイピードか言っている通りだ。理論立てた話をしていこう。まず皆も知っての通りこの後ワシは魔王と会談することとなっておる」
言葉を切り、部下達一人一人の顔を見渡す。
皆色々としているようだな。この座を狙ってなのか、一人一人の目がメラメラと湧き立っておる。
だが、誰がこの玉座に座ろうとこの国は滅びる運命だ。魔王と言う人智を超えた存在によって。
対をなしていたはずの勇者が魔王に付いた時点て我らの運命は決まったのだ。
我らはゆっくりと滅びに向かっておる。
だがその流れは弱すぎる。だから皆気づいておらぬのだ。
「手っ取り早く言うなら魔王をこの国から追い出す手段はない。この国に来た魔王はなんら違法行為はしておらん。尾行を何人か殺したが、表に出せる話ではない。出したら世界情勢が変わる。どうすることもできん」
ワシの手には負えないと言わんばかりに全てを放り投げた国王は安堵の表情を浮かべる。
責任の放棄と言われればそれまでだが、国王1人に託すには重すぎる。
「責任放棄では?」
「ならどうしろと? 我々には手段が残されておらんのだ。勇者は魔王に付き、ほかの2カ国とは足並みが揃わない」
「それとも我が国だけで魔王領に戦争でも仕掛けるか? 現時点で膠着状態、もし本気で魔王軍が動いたら蟻を踏み潰すように我らは踏み潰されるだけだ。それが嫌なら魔王領と正式に国交でも開くか? そうすればショコラシアもダラマも黙っておらんぞ」
自分には選択の余地は残されておらず選択をしようとしまいとどのみち破滅という運命を免れないことが理解できてしまった国王はまるで傍観者のような口調で説明した。
歯がキリキリと擦れる音が、僅かに聞こえた。
「……ではどうするのが正解だと?」
「このまま滞在を認めるほかあるまい。先送りに過ぎないが、これ以外の方法がないのだ」
説明されなくてもわかってんだ!!!
レイピードが心の中で叫ぶ。
「では魔王の滞在を認めると言うことでよろしいのですか?」
「追い返すか? 戦争になるぞ」
もう避けられない現実に国王は安らかな表情で凄まじい発言を口に出す。もう自分には関係ない、だからその声音は軽い。
「わかりました、魔王の滞在延長を認めましょう。しかしもう一つ問題がーー」
レイピードが近衛騎士団長の失踪事件と魔王の関係性ですと言おうとしたその時、締め切られたドアがゆっくりと開く。
「申し訳ありません。遅くなりました」
一番最初に視線を向けたレイピードの目が見開かれたまま止まる。
「……ガイル」
僅かならかに口からその一言だけが漏れでた。
ガイルは僅かに視線を向けたがすぐに頭を下げる。
「申し訳ありません陛下。ここに来る途中、盗賊崩れ者に行く手を塞がれ、その始末に手間取りました。連絡できず申し訳ございません」
「気にするな」
「ありがたき御言葉。感謝します」
そしてガイルは何事もなかったかのように一つだけ空いた席に座る。
「貴様、本物か?」
思考を纏めるのに時間が掛かったレイピードは考えながら口を開く。
盗賊崩れに襲われた? 王都で、そんなことはあり得ない。これが街道沿いであればまだ可能性はあるが王都でそれも目抜通りでか?。
騎士団の本部からここまで裏街を通る可能性は一切ない。
王都ど真ん中、そんなところで盗賊崩れの輩が近衛騎士団長を襲うか? 万に一つ、近衛騎士団だと分からなくて襲ったと言うのか?。
どちらにせよあり得ない。何かがおかしい。
レイピードは得体の知れない違和感を覚えた。
「それを証明する手段を俺は持ってない」
この発言はいつものガイルの物だ。普段からガイルは証明できないものを嫌う性格だ。これだけを見たならば本物と思って問題はないがやはり何か引っかかる。
「ガイル、どこで盗賊崩れに襲われた?」
「今日は裏道を通ったんだ。騎士団本部を出て少ししたら道路工事をしていてな、迂回しろ言われた。今思えば俺のところに道路工事の予定など回ってこなかった」
この発言も疑うところはない。
騎士団は王都の自治も活動の一つに入っている。
道路工事があるならば騎士団に情報が回るはず……だがそれが回ってこなかった、いやするはずのない道路工事だったと言うことか?。
「で、どこで襲われた?」
「見たことない街だ」
「どう言うことだ?」
「そのまんまの意味だ。作られた街だ」
「どう言うことだ! はっきりと説明しろ!」
レイピードがテーブルに拳を叩きつけた。幸いテーブルは割れなかったがコップが倒れ粉々に割れた。
「仕組まれたんだ。俺は近衛騎士団長だからな、仕事柄、王都の地図は頭に入っている。だが、あんな街は見たとこがなかった。あれは作られた街だったんだ」
「まさか……」
その言葉の意味に気付いたレイピードは青ざめた。
そんな事が……可能、なのか?
街を作る? 誰にもバレる事なく偽の街を作ることなどできる訳ない、一体誰が何のために……。まさか魔王。
「レイピード、貴様が俺のことを疑う理由はよくわかる。これも魔王の策略と言いたいのだろ、証拠がないのは好きじゃなが、魔王ならなんでもありえる。確か魔王は勇者から離れられないようになっていたはずだが、まぁいい」
ガイルは「このまま俺がここにいたら会議は進まないな」と言いレイピードの返答を聞く前に立ち上がり「終わったら資料を持ってきてくれ、あぁそれと今現場を押さえて捜索中だ」と言い残しその場を後にした。




