43 魔王と勇者の逃避行
「オグワ、すまん」
ぐっすり眠りやっと起きてきたオグワ。
まだ眠り目を擦りながら朝食を食べに下の喫茶店に入ると、オグワの姿を見つけたダニエルが唐突に両手を合わせ謝ってきた。
別にオグワは謝られる事はしてない。逆に謝らないといけない事はいっぱい溜まっているが別に謝る理由もない。
謝るのは嫌だが謝られるのは好きだ、そんなオグワは「どうしたんだ?」と上から目線で言った。少しカチンと来たがここは下手に。
「すっかり伝えるの忘れてた」
「だから何を?」
早く要件を言えと言わんばかりに少し強めの口調で続きを促す。
「今日は登城の日だ。行きたくないがな」
「なら、我と逃避行でもするか?」
ここでダニエルがオグワの手を取り、「あぁ! 行こう」と言い急いで荷物をまとめて夜逃げ同然、逃げ出し、安息の地を求めすぐに発車する馬車に行き先も確認せず飛び乗り、2人を追いかけ迫り来る騎士団や軍、国から送り込まれる暗殺者達の追跡を命からがら躱し続け、王国の目が届かないところにまで逃げ出し、たどり着いた都市とはかけ離れた農村で2人気ままに畑仕事や獣狩りに精を出して余生を送るはずだったーーーあの時までは。
軍の追跡はこれでもかと言うほど執拗でーーー
ある日、山から帰ると町全体が火の海に包まれ、それを物陰から見ていた2人は獲物を捨てさらに北に逃亡する。
だが2人の姿はすでに発見され、何万という兵士が2人の背中を追いかけてーー
『オグワ……行ってくれ』
背中に何本もの矢が刺さり、口の端から血を流すダニエル。
いつもなら力強い口調も、弱音が漏れる。
『何を言ってる! 貴様を置いていけるわけないだろ!!』
ダニエルを包み込むように抱くオグワが叫ぶ。
周囲の兵士たちにもその声は聞こえ刻一刻と包囲網は狭まる。
『早く、行け!……』
『だ、ダニエル……』
ダニエルは最後の力を振り絞り立ち上がるとオグワの背中を押し出す。
『行け! 俺の分も生きろ』
『ダニエル!!』
背中を押さえたオグワは振り返ることなく走り出すと同時に敵兵士が叫ぶ
『魔王を探せ!!!! まだ近くにいるぞ!!』
『発見次第殺せ!!』
「「オゥ!!」」
『ダニエル、必ず我が迎えにくる』
なんてするわけもない。
オグワが差し出した手は遠慮なくおもっきり叩かれた。
「痛いっ!! た! 何をするんだ?」
油断していたところをおもっきり叩かれたオグワは右手を押さえつけ痛い!痛い!痛い!と叫びながら転がる。
すぐに痛みが引いて落ち着きを取り戻したオグワには冗談を言う余裕さえ出来た。
「我と共に軍の追手を躱しながら国外へ脱出するのではなかったのか? 天井から垂れてくる地下水を2人で分け合い、雷の閃光と音が洞窟を揺らし、お互いの体温でお互いを温めながら一晩を明かし、夜が明ける直前、疲れが取れてない身体を酷使し新天地へ向かうのではないのか?」
気持ち悪い冗談に思わず胃の中のコーヒーが戻りそうになったがそこは勇者、どうにか押し留めた。
「嫌だ、なんでお前と抱き合わないといけないんだ? たとえ、たとえだ、そんなことになってもお前と抱き合うのは嫌だ。なら俺は死を選ぶ」
「冷たいな、死んでるのか?」
頬をペタペタ触ろうと手を出してきたオグワを半身になり避ける。
「生きてる。触るな」
「今日はいつになく当たりがきついような気がするな、どうしたのだ? 悩み事なら我が相談に乗ってやろう、我はこう見えても相談のエキスパートだ」
オグワの言う通り何故か今日のダニエルは機嫌が悪い。もしやオグワに謝るのがそんなに苦痛だったのか? それが王城に行くのが憂鬱なのか、どちらかと言えば前者だと思いたい。いや前者であって欲しい。
「どうせ武力だろ」
「あはは。訳ないであろう、武力では何も解決せん、少しお話しするだけだ」
「もっとひでぇやつじゃんそれ」
「で、相談とはなんだ?」
誰も何も相談していないが相談された気分のオグワはそんな事無視して話を進めようとした。
「誰もお前に相談なんてしない」
「本当か?」
「あぁそうだ」
うるうるした悲しそうな瞳でダニエルを見つめるなそんな小動物じみた目で見られてもダニエルの意思はそう易々とは変わらない。
「魔王が相談に乗るなどもう二度ないかもしれないぞ、超プラチナチケットだぞ、それをみすみすドブに捨てるのか?」
「そう言ってる」
魔王の相談が超レア物だと言うありもしない価値を上乗せして相談させようするがその謳い文句は一切信用できない。例えるなら『一生のお願い』とかと同じ部類だ。
「もう二度と入手困難なチケットだ、それでもか?」
「そうだ」
今度は希少性を売りにして騙そうとするが同じような希少性を持つダニエルには効かない。
そしてやっとオグワは相談されるのを諦めたのか、ダニエルから一歩離れた。
「わかった。時に他人に相談するよりも1人で悩むのも解決法だな」
「てめぇ!」
「あはは、だから言ったろ、我は相談のエキスパートだ。我に相談しておけばまず間違い無いのだ」
間違いありすぎる。
別に何を相談したのか、相談されたのか、わからないが「今日も良い事をしたな」とオグワは呟き1人悦に入る。
一方のダニエルは損はしていないがストレスが溜まる結果となった。
「わかったそれでいいよ、じゃあ行こうか」
「どこに?」




