40 押し売り商法
魔王城観光を終えたダニエルは何故かお土産として魔王様クッキーを手渡された。味は普通のクッキーだが表面にオグワ様と焼き印が入れられている。
裏を返せばただそれだけのクッキーだ。
もっと他にやれることあっただろ………でも無駄に美味い。
「どうだ? 我のクッキーは」
自分の商品の感想が聞きたくてうずうずしていた魔王は子供の様に目を光り輝せながらダニエルの顔を覗き込んだ。
ついでに言うとこのクッキー、缶の容器に入れられ、缶の表面には魔王の顔がプリントされていた。
そして開けると「あはは! 我のクッキーだ!」と気持ち悪い音声が流れた。
どう言う技術が使われているのか知らないが気持ち悪い。
「あぁ、無駄に美味い」
別に高級店の様に美味しいと言うわけではない。
だだ良い意味で普通に美味しい。
例えるならお母さんが作ったクッキーというところだろう。
ほろほろとクッキーが崩れ、唾液と共に欠片が溶けていく。涙は出ないがたまに食べたくなる様な味だった。
良い評価貰えた嬉しくなったオグワは言わなくても良いひどい情報をポロポロクッキーのように漏らした。
「だろ、奴ら最初、我の顔を作ろうと躍起になっていたが、我が我の顔のクッキーを食べて良いのか?と一言言ったら皆気分でも悪くなったのか青い顔して急いで逃げていったな」
聞きたくなかった……。
「そう……オグワの顔の、クッキー……」
美味そうな感じが全くしない。食べたら腹でも食い破られんじゃないか?
ダニエルは食べかけのクッキーと自分の腹を交互にに何回か見て、大丈夫、だよなと呟いた。
「そうなのだ我の顔のクッキーだ、一度試作に持って来た時など我そっくり、まるで我がクッキーの顔出しパネルから顔を出しているかの様に瓜二つであった」
「ふふ」
何それ面白そう! 声に決して出していないが、腹の中で今年一番笑っている。
「鼻で笑うな!」
「食べたのか?」
「あぁ食べたとも。自分の顔のクッキーをな」
自分の顔のクッキーを食べて何が面白い?
皆我のことを馬鹿にして。
「美味かったのか?」
「不味いとは言わない、だが自分の顔のクッキーを自分で食べてなにが面白い?」
「さぁ? 良いんじゃないか、俺も勇者饅頭やら勇者そっくり仮面を勝手に作られて勝手に売られてそれでいて俺には一切も金は入ってこないんだから、それに比べたらマシだろ」
程度と言う意味では全く違うと思うが……。
なんせ勇者饅頭は饅頭に『勇者』の焼印が入れられているだけ、普通に売っている饅頭と味は変わらず値段は倍。それでも飛ぶ様に売れる。
店一番の売れ筋商品なのだ。
やっている事は同じだな。
だが勇者には一切も金は入らない。
権利関係はどこにいったのやら、ダニエルは毎日ほざいているが誰も聞く耳を持たない。
「そうであるが……やはり何故か釈然とせんのだ」
「他にもなんか売っているのか?」
「何故か我の等身大パネルが売っていたな」
「で? それで」
そのパネルであんなことやそんなことをしているのかと少し期待したがオグワ等身大パネルはダニエルの想像以下のことに使われていた。
「それが学校に置いてあってな、こんなちゃらんぽらんになるなと我の等身大パネルの前で教師が生徒に叱っていた。なぜ我がそんな使われ方をされなければならないのだ?」
「あはは! ひっでぇ!」
「笑い事ではないぞ!」
そう言うが実力がものを言う魔族社会でも実力と態度が反比例する魔王は嫌われていると言うよりも芸人に近い扱い方をされている。
もしこれで実力もなければ何千年も前に魔王の座から引き摺り下ろさらているがこんなちゃらんぽらんでも引き摺り下ろされないと言うことは一般人とは隔絶した実力を隠し持っているのだろう。それか全部ハッタリの二択。
「その他にも。首だけの我のパネルが落ちていたこともあった、顔に落書きされてたな」
なぜ首だけしか残ってなかったから不思議だかなと付け加え、そりゃ折られたんだろうな……とは思ったが流石に可哀想に見えてきたから言葉にはせず胸に閉まった。
「お前相当嫌わらているんだな」
「力ある者敵も多くなるからな仕方ないだろう」
貴様も同じ様な物であろうと意味深に視線を送る。
どう言う視線なのか、判断しきれなかったダニエルはそれらしい事を言う。
「まぁな9人の知らない奴より1人の友人を選ぶな」
「我の事か?」
「そう思っておけ」
キラッと効果音が出そうなほど目を輝かせたオグワを切り捨てた。
切り捨てられたとかに気づいたのか気づかないのかそんなことか気にするそぶりもなく自惚れる。
「やはりな! 我と貴様は心からの友だ、お礼にこれをやろう」
オグワはなにもない空間に手を突っ込み何かを取り出した。
「なんだこれ?」
取り出しのは御守りと呼ばれる物だろう、だが表に 魔王 と書かれ黒いオーラが溢れ出て来ている。
「我の加護を詰め込んだ御守りだ。貴様にかかる厄災を全て跳ね除けてくれる優れものだ、一つ200万だ買うか?」
「押し売りかよ!!! 要らねぇよ!」
たとえタダでもそんな禍々しいオーラ全開の御守りなんて欲しくねぇよ!。
差し出された御守りを押し返すがオグワはどうにか買わせようと必死に食い下がる
「そうか? でも今買えばもう一つおまけするぞ」
「だからどっちも要らない」
断固拒否し買わないと言っているがそれでもオグワは買わせようと必死に交渉する。
「であれば、半額に負けようどうだ? 欲しくなっただろ」
「半額でも欲しくねぇよ!」
色々人間たちから聞きかじった商売術を使い、あの手この手を駆使してダニエルを騙そうと必死に言葉を紡ぐ。
だがオグワはダニエルが値切り交渉をしているのだと変な勘違いをしている。
イラついた様子で舌打ちをし、わかったよ、と声を少し低くしてニヤリと笑う。そしてヤクザが入っている露店の店主のように声を潜めた。
「値引きはこれ以上出来ねぇぞ、50万で譲ってやる。これを逃したらもう2度と手に入らない超プレミア品だ、どうだ? 家庭に一つ、一家に一つ」
「要らない」
そんな売り文句で買うわけないのだがオグワはそんなこと一切気にせずさらに売り文句を増やしていく。
「本当か?」
「あぁ」
「勿体無いことをしたな、これさえあれば全ての厄災を防げると言うのに」
失って初めてそれの大切さに気づく、昔オグワが自由に旅をしていた時に商人が話していた話を思い出しながらダニエルに御守りを買わせようと必死になる。
しぶとくうるさい魔王。もう仕方ないから値切りに値切って買ってやろうと思い始めたが一番重要なことに気づいた
「その厄災ってどこまでを厄災って言うんだ? いや待て! 厄災ってどこからが厄災になるんだ?」
その答えは蜂の巣ばりに穴だらけのひどいものであった。
「さぁ? 試してみてのお楽しみだな」
「粗悪品じゃねぇかよ」
「多分だが道で転んだ時にこの御守りがクッション代わりとなって貴様の身を救ってくれるだろう」
何となく買っても良いかもと思わせるような発言だが考えてみろ、最初オグワはこれを200万で売りつけようとしたのだ、やはり何でも安いからと飛びついて買ってはいけない。
「もしかして、一回で終わり?」
「それも試した事はないな、昔、部下に渡して試してみたが反応しなかった。多分転ぶ程度じゃ厄災にはならないのだろうな」
「じゃどこからが厄災だよ」
死ぬとかじゃないだろうな。
ダニエルの想像は見事的中した。
何も賞品は出ない。
「死ぬとか?」
「…………死んだら意味ねぇだろ」
死んだら御守りもクソもねぇだろ。
「死んでも意識不明ぐらいには回復されるか怪我が軽減されるんじゃないか?」
「性能は凄いのに扱いづらい!」
何でそんなピンキリなんだ。
効果的には死を回避できるのだから物凄いが結局意識不明、あとは自分の回復力かよ。
「仕方ないだろ我は全知全能の神ではないのだ」




