4 王冠が示す意味
会議を終えた大臣達が先に玉座の間に戻ってきた後、国王がその威厳をたっぷりと見せつけるようにゆっくりと歩いてくる。
国王の手元には先ほどの会議で決まった内容が書かれたカンペを持っている。
玉座の前に辿り着くと、疲れたのかゆっくりと座った。
「決定を下す。魔王、お前のこの国への滞在を認める。期限は1ヶ月のみ、それ以降は随時更新をする。尚この決定には条件がある。
1つ、24時間勇者殿の監視の下で生活してもらう。トイレの時は除くがそれ以外は勇者殿の監視下に置かしてもらう。勇者殿には1日一回魔王の行動を報告する義務を負ってもらう。
1つ、月に2回魔王は勇者殿と共にし王城に出向いてもらう。
1つ、魔王はこの国で人を殺傷する目的での魔法の行使を禁止する。」
1つ、魔王はこの国に滞在する間魔王軍に対して全面侵攻停止を確約する事。
1つ、その他全ての行動に対してこの国を攻め込むような素振り見せる事を禁じる。」
「そろそろ収穫祭の時期であるな」
魔王と勇者を城から追い出すような形で返した後、国王と国防大臣レイシアと、外務大臣レイピード、そして近衛騎士団団長ガイルの3人と詰めの会議を開催していた。
その中で国防大臣レイシアがつぶやくように発言した。
「そういえばもうそんな時期か」
「来月か、あの魔王絶対に参加するぞ」
レイピード、ガイル2人がほとんど同じタイミングで同意した。
「参加するだけであれば問題はなかろう、例えあったとしても我々には止めることすらできないだろう」
「陛下、であれば何故魔王の滞在をお認めに?」
国防を担うレイシアは改めて国王に向かって問いかける。国王ははぁ、と大きく、わざとらしいため息をつき話し出した。
「この国では国王と勇者、存在としてはどちらが上か?」
「……」
「……」
国王の質問に答えられる程の肝を持った人物はここには居なかった。しかし心の内では皆が勇者と答えていた。
「だろ。同等、または勇者の方が上かもしれないな。お前達でさえそんな状況だ、国民ならどうだ? 魔王を討ち取ったのは勇者だ、わしは安全地帯から命令してただけ。さて、この状況国民は誰を信じる? 勇者だ」
自分よりも勇者ダニエルが上だと断言してなんか楽になった国王はそれを暴露された方の気持ちなど考えずに窓の外を窺う。
暴露した方は気持ちが楽になり良いが暴露された方の気持ちも考えてほしい。
これがまだ一般人の発言ならどうでも良いとか好きなこと言えるが、仮にもこの国の王様の発言である、変に否定しようならば自分の首が飛ぶのは目に見えている。だからそう言う事を言うのはやめてほしいと言うのがこの場にいる全員の意見であったがそんなこと言えるはずもなく時間は進む。
いつの間にか国王は持ち運び入れられた玉座から立ち上がり窓に張り付いていた。
「それにだシシリーが持ってきたあの記事だあれも厄介事だな内容の真偽はどうであれ、あの記事が国民に与える影響は計り知れん」
国王はいつの間にか、先ほどシシリー陸軍総司令官が持ってきた記事を紙飛行機にしていた。
「ついでに言うとあの記事を書いた新聞社は我が国最大手の新聞社だそれだけで信憑性が増す、それに加えて勇者の太鼓判付きもう疑う余地がない」
窓を開けてその紙飛行機を外に飛ばした。
風に流された紙飛行機は適度な距離まで飛行すると下降気流に押され失速して、植えられている樹木に引っかかった。
「そう言うことだ。国民の認識としては勇者の方がわしよりも上位に位置している。わしが何を言ったところで国民は信じてくれるだろうか、何度も言っているが魔王を倒したのは勇者だ、わしらたただ後ろからぬくぬくと暖かいところからあれこれ指示してただけだ」
外を見ていた国王は自分や敗北を悟ったのか、ゆっくりと玉座に座り各々座る大臣たちの顔を見渡した。皆同様に顔を合わせようとはせず下を向いていたり、爪の手入れをしていたり、新聞を読んでいたり弛んでいる。近衛騎士団長ガイルのみが礼を尽くしていた。
「そろそろ国王の時代は終わりを迎えるのかもしれないな。自らこの王冠を下ろす時が来たのかもしれない、か」
誰にも聞こえないように国王は小さく呟いた。