39 魔王の腹心
ヘソ曲げた魔王は「さっさと行くぞ、我も暇ではないのだ」とよくわからない事をほざくと足早に歩き出す。
オグワが目の前のドアの取っ手に手を伸ばすと先にドアが開き驚いたオグワが真上に飛び跳ねた。
「ギャ!」
入ってきたのはオグワより身長が、1メートル以上も大きい魔族であった。
その魔族は趣味なのか金色で縁取られた赤色のマントを羽織り、魔王城内に居るためか鎧ではなく普段着と思われる服装で飛び跳ねた魔王を受け止めた。
「魔王様、こちらでしたか」
「久しぶりの再会の挨拶はそれだけか?」
お姫様抱っこの様な状態でそんな魔王口調で話されても威厳が霞むだけだが、元から威厳など気にしない性格のオグワは気にしない。
「ご帰還、誠におめでとうございます」
「おぉ、ありがとう」
「そちらの方は敵……ですか?」
新たに出てきた魔族は魔王を下ろし腰に差した大剣の柄を握りいつでも振り抜ける体勢を取る。
「ちょっと待て!」
慌ててオグワが俺とその魔族の中間に慌てて割り込んだ。
「彼は勇者だ我の親友だ」
「アイリスが言っていた事は本当だったのですか?」
その魔族は面倒ごとになったと言わんばかりに深いため息をつき、目元を手で覆う。
「アイリス? あぁ彼女か戻ってきていたのか?」
「ええ、先日人間領の情報を持ってこちらに来ました。その際、魔王様と勇者が摩訶不思議な友人関係を結び。勇者に誑かされたと話していました」
すでにそのアイリスというオグワが人間領に送り込んでいる間者と思われる者の1人がダニエルの情報を持ち帰って来たのだろう。
「なんか話が歪曲されている、まぁいいや、でだこれが勇者ダニエル。何度も言っているが我の親友だ」
オグワは俺の方に意味深な視線を向けると握手しろと口パクで言う。
本当はそんなことしたくはないがオグワの目がマジの目をしているから仕方なく手を出したが生憎ダニエルは彼の名を知らない、、
「こんにちは。えっと」
「レイムズだ魔王四天王の1人レイムズだ」
「どうも、僕は勇者をやっているダニエル」
「レイムズ、こちらダニエル、ダニエルこちらうちの四天王レイムズ、仲良くしてくれ」
2人が握手しているその上に手を重ね「仲良くしてくれよな」と言うと同時に2人の視線が突き刺さる。
「「それは無理だ」」
「息ぴったり大丈夫そうだな」
「そうだアイリスはなんと言っていた?」
「愛しの魔王様にあんなことやこんな事をしている勇者をギタギタの八つ裂きにして生きたまま魔獣の餌にしてやりたいと」
「おぉ、それは……結構キツイな」
「夕食のステーキを貪り食べながら言っていました」
恥ずかし事でも言われたのかオグワは照れ臭さそうに鼻の頭をゴリゴリ掻いた。
「あはは、アイリスも可愛いところがあるじゃないか。彼女もあぁ見えて恥ずかしがり屋なのだ許してやってくれ」
「そう、なのか?……」
今の話のどこに可愛いところと恥ずかしがり屋なところがあったのか全くわからない。そもそもアイリスって誰?。
「私は失礼します。城の衛兵達に勇者殿を害さないよう連絡してきます、それと防護魔法も書き換えなくては、このままでは勇者殿専用トラップが発動しますので」
レイムズはまるで瞬間移動したかのようにこの場を去り、僅かに埃が舞う。
「なぁ専用トラップでなんだ?」
「気にするな」
「俺、死なないよな」
「…………」
「答えてくれよ〜」
勇者を手玉に取りルンルンなご様子のオグワは答える事なく次の部屋へ鼻歌混じりに歩いて行く。
だが実際のところ複数回対勇者用の防御装置が作動し知らない間にダニエルは死にかけていた。
ついでに言うと敵だと思い込んでいた勇者に攻撃を仕掛けようとした城の警備の兵達もオグワの魔法によって眠らされている。そろそろ魔法の効果も切れ生きていれば起きてくる頃だと信じたい。
オグワは防犯装置を使って自作自演でダニエルに恩を売ろうとも考えていたが思ったよりトラップの威力が強くそんなことをしている暇はなかった。
魔王城内をオグワの案内の元観光していると警備兵達がそこら中で
「魔王様」
「魔王様」
「魔王様」
「魔王様」
「魔王様」
と小声で話しているのがそこら中に反響しながらダニエル達の耳にも届いた。
「奴らめ、職務中は私語厳禁と言ってあるのに、まぁそんなに我が好きなのだろうな」
自惚れたオグワは視線を合わせない様にしている警備兵達に胡散臭い笑顔を向け手を振って応えた。
不味いと感じたのか警備兵達は一斉に何も喋らなくなる。
「うん、静かになったな、何故だろうか?」
「お前が怖いんだろ」
「我が怖い? なにを冗談を、こんなに心が広い我が怖がられるわけがないだろ」
そんな事はありえないと手振り身振りでアピールしているが怖いと言うより何故か詐欺師の様な胡散臭さが増大した。
「そうかよ、好きにしろ」
「なんだ? 投げやりな答えだな。さては貴様も我のことを好きなのか?」
「そうだよそうそう」
「嫌いな反対は好きだからな、貴様も我のことが好きなのだろう、ツンデレだな〜」
ダニエルの頬をツンツン突きその手を思っ切りはたき落とされた。別にこれだけではなんでこともないじゃれあいだが何故かオグワは自ら吹き飛び、床を四回転ほど転がる。
「サーカスのピエロだな……」
今の魔王の鼻に赤いボールでも接着すればそれはピエロに見えなくもない光景だ。
ついでにその口にもたっぷりと付けたい。
そこで転がっているオグワは指を抑え痛いではないか! と指をしゃぶり始めた。
「どうしてくれるんだ?」
「別に痛くないだろ」
「痛くはないが心が痛い」
「それこないだも聞いた」
「それとこれは別なのだ! 今、我は心が痛いと言っておる」
「そう、早く行こう、でだっち? 右左?」
ダニエルの前には左右に分かれた通路、左を見ると永遠と廊下が続き右を見ると少し進んだところで道が折れている。
「ふん、教えてやるもんか」
ヘソ曲げた魔王はダニエルとは反対向きに座り込み、「我のことなど誰も構ってくれないのか」と思春期丸出しでぶつぶつ呪文を唱え始めた。
案内役の魔王がこれではダニエルも埒が開かないとでも思ったのか、諦めた。
「悪かったよ、お前の家だろ案内してくれ」
お願いッと少しだけオグワを調子付かせる様なことを言った瞬間、オグワは飛び起きた。
「そうであろう! 我の案内は必要だからな、い、嫌であるなら貴様1人で行っても良いんだ、ぞ」
「さっきから俺の命を何回も救ってくれてるんだろ」
自作自演の罠でとは流石に口にしなかった。
そのおかげでやる気を取り戻したオグワは早く遊具で遊びたい子供の様な目でダニエルの背中を押し出した。
「気づいておったか、我は貴様を助けるために精一杯努力したのだ、感謝するのだぞ」
「ありがとな」
この魔王を変に調子付かせても面倒だし調子を削っても面倒だと言うことがよーくわかったダニエルは上手く乗りこなすしかないと考え始めた。




