35 魔王城
「そういえばお前この国から出れるのか?」
「知らん。別に特段禁止されてなかったはずだが?」
またこれである。
話を全く聞く気がなく、いざそのルールを確認しようとすると自分に有利な解釈をする。
この手の性格の奴は説教してもその説教自体聞き流す最悪な性格の持ち主なのだ。
こんなんだからダニエルのストレスが限界を大きく突破する事になる。少しはダニエルのことも考えてやれ。
「それにあの国王にとっては万々歳だろうな、我が自ら国外に出てくれるっていうのは。追い出したではなく出て行っただもんな」
あの時、聞いていた国王の声音を少し真似ているがあまり似ていない、がオグワは気にせず続ける。
「なぜ人間はそういうチンケなプライドを守りたがるのか我にはわからんな」と付け加えた。
聞いている聞いていないの話ではなかった。自分にとって都合のいいところだけ抜き取っていたようだ。
眉間の皺が寄り勇者が見せてはいけない顔をオグワに向けた。明後日の方を向きダニエルと目を合わせようともしないオグワぶつぶつ「何? 事実であろう」と口を曲げながら早口で呟く。
「と、いうわけで行こうではないか!」
「おい待て!」
ダニエルの腕がいきなり掴まれその瞬間世界は銀世界と化し、浮遊感を全身で感じる。身体が動いているのか風が頬を撫でる。
そしてすぐに頬を撫でた風が止まる。ダニエルが恐る恐る目を開けると目の前には白鷺城とも評されるほどの純白を身に纏った魔王城が目の前に聳え立つ。
今でも覚えている。ここで勇者パーティや冒険者ギルドからの招集組達は死んでいったのだ。
体感で僅か1秒も経っていない。
それのなのに距離に換算すると何千キロという途方もない距離を1秒足らずのうちに移動していた。
目の前にまるで壁のようにどっしりと構える魔王城。本丸自体の守りは弱そうに見えるがそこら中に悪辣な罠が張り巡らされている。
どう言う建築技術が使われたのかわからないが本丸の高さ200m 周囲を水堀や空堀に囲まれた難攻不落の要塞と化す。
とオグワが楽しそうに説明している。
備蓄倉庫は豊大で魔王軍の兵士たちを1年間2食食わせることができる備蓄を抱えて、有事の際の為に普段から魔王城内で農作物の栽培も行われている。
魔王城のみで国を運営できる規模の経済力を持つ。
この要塞が抜かれたのは歴史上3回のみである。
何千年にも渡る途方もないほど長い歴史の中で魔王城が人間に落されたのはたったの3回。初代勇者 6代勇者 そして今代15代勇者ダニエルの3人しかこの城の土地を踏んだことはない。その他の勇者達はその時代時代の魔王軍や魔王四天王達、魔王本人によって道半ばで生涯を閉じることとなった。
「久しぶりだな……」
自らの魔王城を5ヶ月ぶりにこの目で確かめた魔王の瞳にはうっすらとだが涙が浮かんでいる。
だがその涙も偽物のように思えてしまう。
「……俺は来たくなかった」
別にオグワなら1人でも好きなように帰ってこれたが名目上ダニエルの許可を取った事にするために半ば無理やり連れてこられたダニエルはかなり不機嫌なご様子だ。
無理もないだろう。ダニエルにとってここは忌々しき魔王城なのだから。
勇者と魔王は本来敵対関係でなければならない。それが過去から現在、未来永劫課される業なのだから。
さらにこの地には道半ばで死んでいった、仲間達も眠る。
フィスリア
オーガスタ
アネット
皆、ダニエルを支えてきた大事な大事なたった3人だけの仲間。ダニエルは3人にだけは心を開いていた。
だが仲間達はもうこの世にはいない。先日魔王城を訪れたアイリーンの話によればもうすでに魔物や肉食の腐肉食の鳥などに遺体を食い荒らされ骨を見つけることすら困難、何人かの骨らしきものは発見出来たが誰のものかも判断できない状態だと言っていた。
四年も経った。心の中では理解できていたがいざ目の当たりにすると言葉が出てこない。
その中でもアイリーンが辛うじて回収できたダニエルがフィスリアに送った子供の時の結婚指輪。今でもあの時の言葉は深く心に残っている。
ダニエルは周囲をゆっくりと見渡す。
ここでみんなは……僕のせいで……フィスリアは死んだんだ。
ダニエルがゆっくりと周囲を見渡すとその目には今の綺麗な森ではなく、敵と仲間達の血で出来た水溜りか脳裏に浮かぶ。




