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34 魔王は時空を好きに超えれる

 

 少しだけオグワが仕上げたケーキを食べたあとマスターは新たに来店したお客の相手をするために先ほどカウンターに戻って行った。

 視界に少し入ったそのお客はダニエルも知らない新顔だ。


 まぁ、客なんて毎日変わるし。

 初めて来る客もいるだろう、だが何かわからないが違和感を感じたがそれ以上考えることはしなかった。


 チラッとカウンターの方を見るとマスターは慣れた手つきでコーヒーを淹れるところだった。


 マスターが居なくなったのを見計らってかオグワが何やら悪巧みでも考えているような笑顔を漏らしてる。


「なぁダニエル、魔王城に来てみたくはないか?」

「……何でお前は唐突にそんなことを言い出すんだ?」


 珍しく真剣な表情で現れるや否やクソみたいなボケをかまして、ダニエルを困らせている。

 だがその瞳は真剣そのものだ。ボケている雰囲気がない。

 だからダニエルも話だけは聞くとこにした。話だけは。


「何があったんだ?」

「たまには魔王城に帰りたいと思ってな、我の仲間達も心配しているであろう、突然我がいなくなり、人間達との友好を宣言しているのだから、だから我が一度、魔王城へ帰還し今後のことを四天王達と詰めようと思うのだ。ただの里帰りだ何ら問題なかろう」


 オグワが言っている内容は理にかなっていると言えばかなっている。

 だがそれを言い出すタイミングが問題だ。もう数日もすればダニエル達は月2の国王との謁見をしなければならないのだ。今から魔王城に向かうとすれば最短でも片道半月はかかる。魔族の行軍速度であれば10日もかからないがそれでも行って帰ってくるだけで一月は余裕でかかる。


 だからそんなこと認められるわけがない、とダニエルはそう言った感じで駄目だと言うとした前にオグワの策略が炸裂した。


「駄目だーー」

「我の魔法なら時空すら越えれる」


 反論に被せるように言った一言にダニエルは頭を抱え。


「時空?」

「我は瞬間移動も使える」


 そんなものがもし存在するならば。なぜ自分は魔王に勝てたのか……という疑問が吹き出した。

 何事も完全な魔法は存在しない。瞬間移動の魔法にも重大な欠点が存在するが、それは使い方次第では欠点とは言いがいものである。

 そもそもこの世界にそんな魔法が存在したと言う記録すら残っていない。

 もし残っていれば世界中の魔術師が血眼になって再現を試みているであろう。


「まぁ欠点もあるがな、連れて行けるのは我と2人が限界だ。それ以上連れて行ったら時空の狭間に置いてきぼりにしてしまうからな」

「置いていかれたら……どうなるんだ?」

「さぁ? 我は体感したことがないからわからない」


 つまり、誰か落としたことがある……。

 肩をすくめ我はわからないと楽しそうに言い出す魔王。

 誰がこんな説明でついて行くんだ、と言いたくなったが何度も言っているがこの魔王にそんなこと言うだけ無駄。

 この魔王が話を聞く時といえばスイーツか何かで釣っている時ぐらいだろ。

 そう考えれば安いような……。


「その言い草。落としたことがあるのか?」

「この魔法を開発した時に実験したら何人か消えた」


 魔法の開発は崇高なる犠牲の元に立っているのだ。

 犠牲者が出ない魔法などこの世に存在しない。

 どんな魔法だろうと必ず犠牲がつき物なのだ。

 回復魔法もそうだ。回復魔法を使いすぎると体自体の免疫力が低下して風邪などが治りにくくなる性質を持つ。

 つまり回復魔法に慣れ切ると自然治癒力自体が落ち、その他の疫病に罹りやすくなる。


 回復魔法は主に外傷性の傷にしか効果がないのだ。風邪やガンなど内臓系の病気や呼吸器、消化器系の病気には一切効果がない。


 その昔、回復魔法も風邪に効果があるとされ使用されていた時期もあったが風邪治らず死んだ人が後を絶たず、調べた結果、回復魔法は一切効果がないことが判明したという歴史がある。


 だがこれにも抜け道はある。例えば体を切ってガンなどか罹患した部位を取り除き、再度回復魔法をかければその傷は外傷として回復魔法が効果を発揮するという荒技が存在するがそもそもガンの位置が特定出来なければ宝の持ち腐れと言っても過言ではないだろう。


「消えた……」

「その当時の魔王四天王がな皆行きたいと騒ぎ出して仕方ないからみんな乗せたら。2人行方不明になった。もしかしたらまだ時空の狭間を漂っているのかもしれないな」


 魔王は散歩の途中にはぐれた言った感じで他人事のようにくすくす笑う。

 そんな笑ってる場合じゃない、とダニエルは思ったが同時にこの魔王にはそういう倫理観を著しく持っていないのだと思い出した。


「まぁ彼らは大丈夫だろう、もしかしたら違う世界で我が魔王軍の勢力拡大を目指し日夜奮闘しているかもしれぬ、あやつらは我の1番の腹心だからな我の命令がなくても自分達がやるべきことをわかっている奴らだ」


 今日この日も我が勢力は拡大し続けているのだ! とドヤ顔で豪語し嬉しそうに笑う。

 どこに勢力拡大しているという確証があるのかわからないが、勝手にやっててくれとダニエルは思う。


「俺は異世界は知らないぞ」

「どうって事ない。貴様がこの世に居なくともこの世界は我がちゃんと管理してやる、だから異世界にでも好きに行ってこい」

「違う、違う、違う! 何で俺が異世界に行くんだよ、異世界の事までは俺は面倒見きれないって話だよ、何で異世界のケツまで拭かないといけなんだよ。そもそもお前のところの四天王だろ飼い犬だろならお前がいけよ、監督責任って奴だよ。この世界が平和になって万々歳だよ」

「悲しいなダニエル。我を邪魔者扱いするではない。我と貴様の仲ではないか、我が異世界に行くなら貴様も道連れだ」


 嬉しくねぇんだよ! オグワ襟元を掴み上げ距離を詰める。


「心中はお前だけにしろ。人を巻き込むな」


 そう言葉を吐き捨てると同時にオグワをちょん押すように離した。

 鬼の形相で怒鳴られた魔王だが全く気にする様子もなく、魔王節をさらに炸裂させた。


「連れないやつだな、まぁ良いや、でだ我が城に貴様を招待したい来るか?」


 正式な招待であれば……いや正式な招待であっても招待先が魔王城ということであれば断れるかもしれない。


「それは正式な招待か?」

「あぁ、正式な招待だ、今なら国賓待遇で迎えてやるぞ、豪華な食事と可愛い女の子達をふんだんに用意しよう、皆貴様の伴侶にしても構わぬぞ」


 女の子達の後に絶対に続くことがない単語を言ったオグワ。だが残念ダニエルには色仕掛けはもう通用しないのだ。そもそも伴侶になるはずだった女がいる。その子をなかったことにして他の子を跨げるわけがない。


「女の子はもういらない」

「う〜ぅわぉ! さすが女の子達を侍らす男は違うな」

「そういう意味で言ったわけじゃない」

「じゃいるのか?」

「要らない」

「女の子達は皆貴様を好き好んでいるぞ、その好意を無碍にするつもりか?」


 そう言われてしまえば無碍には出来ない。

 いつものダニエはであれば。

 だがこれを言っているのは他でもない魔王本人である。口からのでまかせだ。一切信用できない。

 そもそもダニエルは街中で出会った見ず知らずの女の子をいきなりナンパして持ち帰ろうと思うような性格はしていない。まずは犬か何かを飼い出し、犬の散歩やらで偶然出会ったように装って、何か食べませんか? と誘い。

 いつしか犬がいなくなり、2人っきりのデートになる。

 どちらかといえば恋愛に奥手な性格だ。

 発情期の動物のような性格はしていない。


「会ったこともない女の子が何で俺のことを好き好むんだ?」

「会ったことがあるかないは、その人の好きという気持ちを踏み躙って良いのか?」


 言っていることは間違ってない。だが根本が大きく間違った結論をオグワが言い出した。

 別に間違ってはいないが。それを本当の好きと言えるのだろうか……。

 見えない神様を信仰するようなことではないだろうか。

 隣にいる家族よりも見えない神様好き好む。愛すべき存在はどちらなのか。


 それはさておき。この魔王を一番大切なことを忘れている。

 オグワはこの国から出れるのか問題である。

 どの道オグワの事だ、あの時の国王の偉〜〜いクソ長い話など右から左いや耳に入る前にシャットアウトしていたのだろう。

 まともに話を聞いていたとは到底思えない。たとえ話を聞いていたとしても自分なりの解釈をしてルールをいい方に捻じ曲げよとしてている決まっている。それが魔王だ。


 そのことに気づいたダニエルが問いかけるとニヤッと魔王のような黒い笑みを浮かべふふふと漏らした。


「そういえばお前この国から出れるのか?」

「知らん。別に特段禁止されてなかったはずだが?」


 またこれである。

 話を全く聞く気がなく、いざそのルールを確認しようとすると自分に有利な解釈をする。

 この手の性格の奴は説教してもその説教自体聞き流す最悪な正確な持ち主なのだ。

 こんなんだからダニエルのストレスが限界を大きく突破する事になるのだ。少しはダニエルのことも考えてやれ。


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