33 誕生日ケーキ
それまでの静かな空気が突如して崩された。
「ダニエル、朝食はまだか?」
やっと起きたオグワが眠い目を擦りながらヨタヨタとふらつきながら歩いてくる。
大きな欠伸をかいて、ドンと椅子に座るとすぐに船をうとうと漕ぎ始めた。
「何寝ぼけてるんだ? 俺は召使いじゃないぞ」
「なんだと!? 我の召使いはどこに消えた?」
本当この魔王は厄介だ。寝ぼけているせいでボケがいつも以上に酷くなっている。
ダニエルは決してオグワの召使いではない。共同生活をしているが決してオグワの召使いではない。
溜まった洗濯物から悪臭が放たれる前に洗っているが召使いではない。
「お前が食べちまったんじゃ無いか? それかそんなもん最初からいない。お前の想像の世界の召使いだろまだ夢でも見ているのか?」
「あぁ、そうかここは魔王城ではないのだな、魔王城に居た時は召使いがいたからな」
こんなわがまま魔王に使える召使いも大変だろうな……。見ず知らずの召使いに同情し、自分は召使いにはならないと誓った。
「ふぁ〜眠い、あれ? マスターか、いたのか」
欠伸を隠す様子もなくかくと、やっとダニエルの隣に座っていたマスターに気づく。
「おはようございます、オグワ様」
「あぁ、おはよう、アレ。出来てるか?」
アレ? アレって何のことだ?
ダニエルの全身が物凄いほどの嫌な予感を感じ取った。全身が警報を鳴らす。この魔王は危ないと。
「ええ、ご用意出来ております」
マスターはそそくさと立ち上がり店の裏のキッチンに姿を消した。
「何をだ?」
「気にするな」
「気になるのだが?」
「持ってまいりました」
マスターが何やらクローシュに隠された何かを台に乗せ運んできた。
「なんだそれ?」
マスターはオグワに何やら不自然な目線を送るとオグワはそわそわした感じの笑顔を溢れさせる。
「貴様が開けろ」
クローシュを開ける役目をダニエルに譲る。
満面の笑みでニヤニヤされると嫌な予感しかしないがマスターが一枚、間に入っているおかげが警戒心が少し和らぎ、ダニエルはクローシュをゆっくりと開けた。
そこにはお世辞にも綺麗とは程遠い少し崩れたケーキが置かれている。
真ん中から少しズレたところにオグワが今、happy birthdayと書かれたプレートが置かれた
「ケーキ……か」
開けたまま表情が固まるダニエルにオグワが「おめでとう!!」と音だけ中身なしのクラッカーをマスターと同時に鳴らした。
「どうした? 気に入らなかったか?」
「いや、そうじゃない……」
ダニエルの方には熱いものが流れ始める。
涙が流れたことに気づき目を閉じた。
「……嬉しいんだ。祝ってもらう事は初めてなんだ……いつも、収穫祭はみんなとだったから当日こんな形で祝われる事はなかったんだ……」
言葉を詰まらせながらもダニエルは一つ一つゆっくり紡いでいく。涙を堪えるように天井を見上げ目元を抑える。
「ありがとう、マスター、オグワ」
「いいとこをしたな」
「ええ、そうですね」
計画者2人が満足した様子でお互いに握手を交わす。手際良く蝋燭に火をつけ、オグワがお誕生日の歌を音痴な音色で歌い出だした。
歌が終わりダニエルが蝋燭の火を一息で消し去る。
マスターが持って来た皿取り分け、「貴様が今日の主役だ」と押し切られたダニエルは嬉しそうな笑みを浮かべながら渋々最初の一口を頬張った。
「どうだ? 美味いだろ」
「お前が作ったわけじゃないだろ」
子どものように嬉しそうに頬張るダニエル。それをみたオグワは満足そうに笑みをこぼす。
「そうだ。全てはマスターのおかげだ」
「いえ、私は作っただけですよ、それに仕上げをしたのはオグワ様ですよ」
「そうなのか?」
フォークの上に乗っていたケーキがポトリと皿の上に落下し、ダニエルは本当か? と言った目でオグワを見た。
「最後の仕上げだけだ。だが失敗した。すまない」
「初めてにしては上手ですよ、筋もありますし練習すれば店に出せるものも作れます」
「ありがとう」
照れくさそうに頬を描き、目線を合わせようともしない。
「昨夜はずっと頑張ってましたからね」
「だからか! だから今日は起きてこなかったのか」
「そうだ」
「見えないところで頑張ってるんだな」
「我は貴様が喜んでいるところを見てみたいと思ってたからなこのぐらいのことはしないと」
「ありがとうな」
「照れくさいではないか」
そんなことを言いつつも自分が一番照れくさそうに鼻の頭を触っている。




