30 自業自得 下編
顔を苦痛に歪ませダニエルの足を退かそうと全身を捩り、全力で逃げ出そうとしているが地中深くに存在する岩盤を持ち上げようとしているかのようにその足は全く動かない。
「た、助け、てぇ………もう。すいません」
長時間腹部を押さえつけられ呼吸ができなかったオグワは最後の息を振り絞り言葉を発する。
もう抵抗するだけの力もなくなりダニエルの足をどかそうと掴んでいた手が地面にバダっと言う音を立てながら落ちる。
踏んでいたことにやっと気づいたダニエルが少しだけ笑みを浮かべた。
『これは利用できる』オグワが見たダニエルの笑顔はそう言っていた。
「うん? どうした?」
「た、助けて、息が……い、き、が……」
「別に魔王って息しなくても生きれるよね」
「出来ますよ、それがなんだよ」
先ほどまで苦痛に歪んでいた顔がどこかに消え去った。
先ほどまで赤子のように泣き喚き死刑執行直前の死刑囚のような想像を絶するような叫び声をあげていたオグワは何事もなかったかのようにケロリと立ち上がり身体中に付着した砂やら土を払い落として、「さぁ! 店番でもするかな」と一際大きな独り言を言い、店に帰ろうとするがそれは問屋が許さない、許すはずもない。
「待てよ」
逃げようと必死に小走りで動き出そうとしたオグワの首がいきなり掴まれた。
蛇を捕まえるには少し恐怖心が湧くが首を掴むのがいいと昔、誰かが言っていた。今のオグワを見るとそれとほとんど同じような状態になっている。
だが今の状況では蛇に睨まれた蛙と表現した方が正しいだろう。
「な、何かな?」
「どこに行く?」
「わ、我は射的の店番をしなければならないのだ。無垢で純粋な子供達に夢と希望を与えて貪欲で汚れ切った大人達から金を巻き上げるという崇高な使命が我には課せられているのだ。早く子供達に笑顔と夢を届けなければならないのだ。だからこの手を離してくれないか? 我もな貴様と共に居たいが仕事とと言うものがあるのだ」
なんか真っ当な事を言っているようなことを言っているような気がするがこれは全て口から出たでまかせと言うやつである。店番をしなければならないのは事実だが別に子供達に夢や希望などを与えようとは一切考えてない。少なからず笑顔は見たいと思っていないこともないが、それはほんの少しだけにしか過ぎない。
「何、適当なことを言ってるんだ?」
「て、適当ではない! 我にしかできない仕事なのだ!」
「何が我にしかできない仕事だよ」
「そう言うことだから、我は仕事に戻らなければならない」
掴んでいるダニエルの手を無理やり剥がそうとするが剥がれない。
「なぜ動かないのだ?」
「なぜだろうな?」
「わ、我の話を聞いていなかったか? 我がいないと子供達は悲しむぞ、それでもいいのか? 大地と空の神……だっけ? あれが現れてこの国を荒廃させてしまうかもしれないぞ、我はそれを防がなければならないのだ。世界を救えるのは我しかいないそれでもいいのか?」
身振り手振り全身を使いダニエルに自分の射的の出店がいかに世界を救うかを力説しながら逃げようと無駄な努力をしている。その努力を違うことに使ってほしい。
急にしゃがんでみたり、ジャンプしてみたり、ぐるぐる回ってみたり頑張っている。でもダニエルがその手を離す事はない。絶対に。
「何、適当なことを……」
流石にここまですらすらと言い訳が量産されるとダニエルでさえため息を吐きたくなる。
何故こんなに言い訳が溢れ出てくるのか……問い詰めてもいいがやはりこの魔王にそんな時間をかけてやる義理も義務もない。
こう言う時は自分の目で確かめさせることが重要だとダニエルは考え、オグワの首を掴んだまま自分の出店まで引きずっていった。
「て、手を離してくれないか? 我は1人で歩けるのだが?」
「手を離してお前どこに行く?」
「そりゃ自分の店だろ、なんせ、我と貴様は一心同体、我が貴様から30m離れたら我と貴様は心中しなければならないのだろ?」
「死ぬのはお前だけだ。なんだ俺までお前と心中しないといけないんでだ? そんな不良品魔道具誰が付けるッ!」
「あはは、そう、そうだったのか、ではもし我が貴様が寝ている間に腕輪を交換したら?」
「お前、何やった?」
「なんでもない」
そのあとは酷い物だった。
雉も鳴かずば撃たれまいというのはまさに事である。
なんでこの魔王はいらないことをペラペラと言ってしまうのだろうか。
腕輪を交換したなど仄めかさなければ瀕死の重傷を負わなくて済んだはずなのに何故この魔王は……こうも口が軽いと言うのか馬鹿なだけなのか構ってほしいのかなんで要らないことを口に出してしまうのだろう。
腹を思っ切り殴られ
弁慶の泣き所を蹴りで撃ち抜かれ
顔面を殴られる
ふくらはぎを蹴り飛ばされ
倒れると膝裏にかかと落としを喰らい
ボロボロになりながら立ち上がると腹を蹴り上げられ、ロケットのように打ち上げあれ地面に激突すら。
ダニエルの気が済んだ時にはオグワは立つのがやっとの状態に成り果てたが何故か身体には血の跡が一切ない。普通ここまで痛み付けられたら血の一滴付かないと言う事はありえない。
顔面や腕は元の状態がわからないほどに腫れ上がっているのにどこからも血液が流れてだ痕跡が全くない。
「よし、このぐらいでいいだろ反省したよな」
「……はんぺいしましゅた もうしまぺん」
「うんうん、で、腕輪交換したのは本当かな?」
「ごめんなはい、うそです、おもしろちょうだからいいぱした」
「少し30m離れてみようか」
動ける状態じゃないオグワに変わりダニエルが歩き出す。
そして30mほど離れるとオグワの腕輪が光出した。
「うん大丈夫だね、今度から嘘つかないように」
オグワは命が助かったこと安心したのか気力が尽き果て倒れた。




