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26 魔王と少女と少年とダニエルそしてアイリーン

 

 前日の熱気が残ったまま祭り2日目が始まった。昨日の熱気を残した街はさらに盛り上がりを見せる。


 紫芋のように真紫に腫れていたオグワの顔は元通りに修復され、殴られた痕跡すらなかった、いや顔がまだ怯えていた。それほどまでにオグワの心に刻まれたのだろう、これで多少は静かになることを祈りたい。


 この射的の店のオーナーは名目上オグワということになっているがその後ろで椅子に座るダニエルの顔色を伺いながらオグワは仕事をしている。

 変なことをしようとしたらすぐにダニエルが飛んでくる。


「残念、また来てくれや」


 10発撃って一つも当たらなかった女の子にテーブルの下からお菓子を取り出し「持ってけと」恥ずかしそうに手渡した。その子は良いの? と聞いてきたがオグワは答えず次の客の準備をした。


「気にするな」


 虫の居どころが悪そうに小さく答えるとその子はパッと花が咲いたような笑顔で嬉しそうに帰っていく。


 景品はほとんどがダニエルが仕入れたお菓子類である。

 なぜオグワがやり出したいと言ったのにダニエルがその全てをしているのか、ツッコミどころは多いが言い始めたら終わらない。


 上の段に置く予定の少しお高めのチョコレートをオグワはボンドを使って貼り付けようとしていたがダニエルにバレ懲らしめられていた。

 その言い訳がまた酷かった「我も食べたいのだ!」と欲丸出しもう呆れる言い訳を大声で言っていた。


 上から2段目には少し安めの箱に詰められたお菓子原価は安く射的一回の値段よりも安いものである。

 ダニエルが仕入れ、客から見えないところに箱に入れておいたがこのクソ魔王が何個か盗み食いし殴られていた。


 下から2番目の段にはハンカチなどの日用品、少し原価はお高めだがこのぐらい奉仕してやっても良いだろうとダニエルに丸め込まれオグワは渋々引き下がった。


 一番下には子供向けのお菓子、原価は安いがうまく当てることができれば元がとれるぐらいの設定にしてある。大体2回に一回当てれば元がとれるかな。


 まぁ取れなくても大丈夫、オグワは嫌そうだったが、一つも取れなかったら先ほどの女の子のように残念賞が設けられている。(子供限定)大人には隣の店で金出して買ってもらう事にした。(ちゃんと利益込みの金額で)

 コレが大人の狡賢さだ! 

 大人とは金なのだ!

 我も商売なのだ。利益は欲しい。


 そしてなんと言っても一番上の棚の真ん中には5センチ角もないサイズの的が用意されている。

 絶対に当たることはないとオグワは高笑いしていた。このぐらいならダニエルも諦めたのか認めたのか何も言ってこなかった。だが今考えればダニエルはこれの景品を聞くのを失念していた……その事にまだ気づいていない。



 次に来たのは8歳ぐらいの男の子、まだ背も低く、銃の重さで振り回されている。


「手で持つな、足と腰で待て」


 5発目を外し、悲しそうな目でオグワのことを見上げてきたその子に耐えきれなくなりボソッと声をかけた。


 オグワの指示通り持つと、体のブレが抑えられたがまだ銃の重さと戦っているのか二の腕が震えている。こういう時の為に銃を置く台は用意したが何か理由があるのかオグワはそれを出そうとはしない。

 ただ忘れているだけかもしれない。  


 6発、7発目はかなり近くまで弾が的に寄ったがそれでも当たらない。

 オグワが何か喋ったがダニエルがいる位置からでは祭りの騒音にかき消され聴こえない。


 その子が8発目を撃つ、弾は的に向かって飛んで行くがその弾道では的を射抜くことは出来ないと思いもう少し弾を増やしてやろうとダニエルが立ち上がると、耳元を自然の風ではなく人工の風が吹いていった。


「オグワ……!」


 風に乗せられたコルク弾は的に向かって流されて見事、青いハンカチが入った箱を落とした。


「よくやった」


 オグワは落ちた箱を取り上げ、テーブルの下からお菓子を取り出しそれと一緒に「持ってけ」と頬を擦りながら自分の柄じゃないからか気恥ずかしそうに渡した。  


「ありがとう!」


 オグワはその笑顔を見ていなかったがそれは最高の笑顔であったことは間違いない。


「おい、あと2発残っているぞ」


 嬉しそうに立ち去ろうとする子どもの背中に声がかかった。


「ダニエル」

「まだ、残ってるぞ」


 テテテと足音を立て戻ってきた少年は銃に弾を込め、撃つが2発とも当たらなかった。


「残念、そう悲しい顔するな」


 ここからは僕の仕事だと言わんばかりにダニエルは少年の頭をゴシゴシと乱雑に撫でると、後ろで指を咥えて見ていた奥様連中やi LOVE勇者の女の子たちの視線がずるい! と叫んでいた。


「で、オグワ何故魔法を?」

「我ではない。我は魔法など使っておらん、あの少年が自らの力で勝ち取ったものだ。それにケチを付けるなど不粋ではないか?」

「答えてくれない、いや答える気もないと」

「我はちゃんと答えた。あの少年が努力したから景品が取れたとな」


 答える気のないオグワは次の客の相手をするために戻っていった。


 そう言う事ね、あいつも変わったって事……か?。

 この話は終わっと言った感じでダニエルも定位置に戻ると背中側から声がかけられた。


「ダニエル、今時間ある?」


 声をかけてきたのはギルドの受付嬢ランキング堂々の5年連続一位を獲得し史上初の殿堂入りを果たした、人気No.1受付嬢アイリーンである。

 絶賛恋人募集中。


 彼女も今日ばかりは祭りを楽しんでいるのか、おめかしをしていた自慢の黒髪ロングを最大限目立せるような赤を基調とした浴衣に身を包んでいる。

 手元には白色の見るからに高そうなバッグを持ち、もうすでに色々と散財したのか手首のブレスレットがどっかの先住民のような状態になっている。

 そのバックの中を覗くとアクセサリー類が見えた。

 陶器のように白く細い指には木の指輪がはめられていたがダニエルは気づかなかった。


「なんでアイリーンがそれ着てるの?」


 アイリーンの浴衣を見てダニエルは一目で気づいた。アイリーンが来ている浴衣はダニエル御用達の服屋の商品である事に。


「あの店長の口車に乗せられたからよ」

「まぁ良いや、ちょっと待ってろ」


 バッタリ店で会ったことはないが、話し方から察するに両者共にあの店の常連のようだ。

 ダニエルは立ち上がると射線に入らないように歩きオグワの背中を叩く。


「俺少しここを離れるけど、変なことするなよ」

「わかっているとも、我が変なことをしたことが一回でもあったか?」


「我を信じろ」ととても不安が残る返事であったがこれ以上問い詰めてもダニエルが納得する答えが出てくるはずもなく、変なことするなよ絶対にと念を押し、アイリーンと裏路地に向かった。


 それを目撃した勇者ファンクラブの女の子は心臓発作で搬送されたとかされないとか。




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