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24 魔王、土に埋まる

 

「ここは天国か?」


 オグワの視界が真っ白に染まり始め、一面を埋め尽くす直前、天使のようなくすくすと笑うような声が四方八方から聞こえた。


「オグワ、まだ居たのか? てっきり脱出したと思ってたけど」


 オグワは天に召されようとされていた時、美味しそうな串焼きとたまには贅沢したい自分のために買ってきたビールが両手に抱えられていた。

 ダニエルは普段酒は飲まないがコイツを躾けるためにはアルコールの力も借りなければないないと判断した。


「ダ、ダニエル!!」


 埋まった魔王は表情だけでその喜びを表す。


「帰ってきたのは失敗だったな」


 マグロと同じで動けなくなったら干からびて死んでいるはずと予想してオグワの様子を見にきたがその予想は大外れに終わった。

 ダニエルの姿を見つけたオグワは地中でバタバタを手足を動かし歓喜した。

 思ったよりも元気そうでなによりである。


 もう少し反省させればよかったか……まあこいつは反省って言葉を知らないか。


 腕も地中に埋まっているはずなのに何故か顔の前で両手を合わせ、泣き喚く。


「助けてくれ、済まなかった。もう嫌がらせはしない。朝のコーヒーも1人で飲んでくれて構わない。我は邪魔しないと約束する、だから、助けてくれ」


「別に出れるだろう自分で」

「まぁ出れるが……」


 何事なかったかのように「よっこいせ」と気合を入れて地面から埋もれた体を引き上げすぐさまダニエルが持っている串焼きを奪い取ろうとしたが逃げられた。

 そのままおっとっととケンケンして転んだ。


「我のために買ってきてくれたのではないのか?」

「………」

「ごめんなさい」


 ダニエルが拳を振り上げる動きを見せるとノータイムでオグワが謝る。

 謝るなら最初からそう言うことをやらなければいいのに。

 だが結局こいつに何言っても意味がないことをダニエルは知っている。だから言葉として口に出すことすらしなかった。こう言う奴に対しては力で上下関係を示すことが一番手っ取り早い解決法なのだ。


「我は土は好きではないのだ服が汚れるからな」


 浴衣に付いた土を払い落とし、明後日の方を向いて知らん顔をしてゆっくりとダニエルに近づく、いやダニエルが持っている串焼きに近づいた。

 あと3歩、このまま飛び掛かれば串焼きを盗める距離まで近づくと、ニコッと優しそうな笑みを浮かべたダニエルと目が合った。

 イタズラがバレたオグワはあはは、と枯れた笑い声を漏らし、えへへ、と何事もなかったかのような空気を醸し出しているが今更誤魔化しても何がとは言わないが無理である


「欲しいのか?」

「あぁ欲しい」


 貪欲なまでに自分に甘い回答に思わず舌打ちが出た。


「やらん。自分で買え」


 串焼きを喉の奥に突っ込み一気に口から串を抜き出した。噛むことなく一飲みで食べてダニエルはドヤ顔で「美味い!」と声を上げるが果たしてそれは本当に美味いのだろうか………。


 そもそもオグワが手を出したら串が喉に刺さり死んでいたかもしれないかもしれない。まあそのぐらいの分別はあのオグワであっても持っているのかもしれないが。


「酷いではないか!!! 我の串焼きを食べるなど!」

「お前の串焼きじゃないだろ」

「我が我の物だと言ったら我のものになるのだ」

「あっそ」


 ダニエルは付き合ってやるのが馬鹿馬鹿しくなったのか回れ右でその場を立ち去ろうとするがバサバサと言う足音らしきものが聞こえ突然肩を掴まれた。


「待て、待つのだ」

「なんだ?」


 心底嫌そうに返事をしたがダニエルは歩みを止めなかった。


「止まれ、止まれ、止まれ、止まれ」


 ダニエルの前に周り込み無理やり進路を妨害した魔王は「我はまだ祭りを楽しみ切っておらん!」とダニエルの肩を掴みながらそう声高に宣言した。


「オグワ、残念だが祭りはもう終わりだ」

「へ?」


 その瞬間、空砲がそこら中から放たれ祭りが終わったことを示した。


「こっからは大人たちの時間だ。ついでに言うとお前にアルコールを飲ませるわけにはいかない」

「え、は?」

「ほらよ、お前のために買っておいてやったよ」


 ダニエルは懐からもう一本串焼きを取り出し、オグワの宙に浮いたままの指に握らせ持たせたが動きがない。


「よし、帰るぞ明日はお前の本番だ」


 完全に魂が抜けた魔王を引きずるようにして連れて帰る。

 全身の力が抜け去りまるで死体のように全く動かず、生きているかすら見た目からでは判断できない。


 ダニエル達の周りには勇者を一目でも見たいと言う女の子達が集まりキャーキャー黄色い声援を絶え間なく送り続ける。

 ダニエルは声援を力に変えオグワを引きずる。

 時々子供達が引きずられるオグワの足を蹴り飛ばしたら飛び乗ったりして遊具のようして遊んでいた。


 酷い有様だがオグワはまだ現実を直視出来ないのか串焼きを片手に握りながら「嘘だ、嘘だと言ってくれ……」と譫言のように呟いている。


「自分の足で歩いてくれないか?」


 ダニエルが声をかけても「ぁー、ぁー」と言う何とも言えない反応しかしない。

 ここにコレを放置してもダニエルの心が痛むことはないが、50mほど離れたらオグワの全身に電流が流れオグワは死ぬ。そうなっては何故かわからないが目覚めが悪い。


 そもそもそこまで離れる前に身包み剥がされパンツ一枚になるかもしれない、そうなったら盗んだ奴らは生まれてこなければよかったと思うほどに後悔する羽目になるかもしれない。

 どちらにせよダニエルに罪はないがモヤモヤする結末になるのは目に見えている。

 オグワが仕出かしたことの尻拭いをするのはダニエルである。後々面倒なことになるなら今潰さなければならない。


 だからどんなに大変でもコイツを置いていくことは不可能だ。


 祭り1日目はこうして幕を閉じた。


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