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22 空中散歩

 

 一瞬、目を閉じてしまった恐る恐るダニエルが目を開けるとオグワの横顔が超至近距離にあった。膝裏とお尻に誰かの手のような感触がある。首を横に向けると出店がないことに気づいた。それどころか地面すら無かった。雲がいつも以上に近い。


 ここは空だ。


 ダニエルはオグワにお姫様抱っこされるような形で抱えられている。



「お、降ろしてくれ」



 誰も見てない、いや見れない場所ではあるがこの格好が無性に恥ずかしくなったダニエルは降りようと体を動かすがガッチリと固定され身動きが取れない。


「死ぬぞ」


 オグワはそう言いながらもダニエルを掴んでいた手をゆっくりと放し、宙に放り出す、だがダニエルは落ちることなく、まるで地面があるかのようにその場に立つ事が出来た。


 思わず自分の足元を確かめるように爪先でコンコンと叩くと硬い鉄板のような感触がそこにはあった。


「な、なんだこれ!? な、なんで空に? おれ、落ちないの?」


 完全にパニック状態のダニエルは座り込んでしまった。それでも地上に真っ逆さまと言うことはない。

 その元凶であろうと思わられるオグワを見ると何もないところにまるで空気椅子のように座り、宙に浮いた飲み物を飲んでいる。

 ダニエルはオグワの尻の下に手を入れるとそこには何もない。そのまま手を上に上げるとまた鉄板のような硬い感触があった。


「これは我の魔法だ。今、我らは透明な箱の中にいる。だから歩いても落ちることはない。サイズの制限はあるが、2人ぐらいなら快適に暮らせる広さはあるぞ」


 徐々にこの光景に慣れたのかダニエルは恐る恐る立ち上がり、左手で何にもないか探り一歩ずつ慎重に足元を確かめながら勇者のへっぴり腰で20歩ほど歩くと手が壁に触れた。


「どうだ? 空の旅は。女の子達に邪魔されない楽しい空間の出来上がりだ」


 そう言ってオグワは指を鳴らす、そうするとダニエル用にわかりやすくしたのか普通の椅子とテーブルそして暖かいコーヒーが突然目の前に現れた。


「我は空の旅だからな透明が好きだが、貴様はまだ慣れてないみたいだからこの方が良いだろ」


 まだ足元を信用していないダニエルはさっきより少しだけ歩幅が伸びた。それでも一歩一歩警戒しながら歩きやっとの思いで椅子に座った、ここまでの疲れが一気に出てきたのか椅子に沈み込んだ。


「なんだよ、先に言ってくれよ」


 ダニエルはほっと一息ついて。コーヒーの味わった。


 なんでこのコーヒー暖かいの? それになんでこの味のコーヒーが空の上で出てくるんだよ。おかしいだろ。


 このコーヒー、朝のトレーニング後に足繁くな通っている店のものであった。


 どこからこれを調達………したんだ?……。


 はんの僅か思考した瞬間ダニエルの脳裏に嫌な想像が浮かんだ。


「おい。まさか盗んだのか?」

「我がそんなことするわけなかろう、これも我の魔法だ。我が一度飲み食いしたものは全て再現できるんだ。我にも原理はわからないがな。何故0から1が出来るか不思議でたまらんが、別に今のところ被害は出ていない。魔法とは不思議なものだな、長く生きている我でさえ知らない事がある、だが我はこの魔法は好きではない。やはり現地に行って味わいたいからな。普段であれば城のコックに頼んで作ってもらうが今回は特別だ。それに我が城のコックは先日死んだ。貴様らのせいでな」


 もうあの味が2度と食べれないとは……惜しい事をした。我が魔法で再現できるとはいえ、あれとそれは全く違う物だ、心が詰まっていない。


 魔王オグワの本心から漏れた言葉にダニエルは無意識のうちに目を伏せていた。


 非戦闘員は殺さないそれがダニエルの散々汚れた汚い手で決めたたった一つの信条であった。だが、ダニエルも気づいていた。自分が殺していった魔の物の中に非戦闘員が多く含まれていた事に。


 半ば強制的に徴兵され戦場に出ざるおえなくなった者達を乱戦の中切り殺した。

 殺さなければ殺される極限状態だったと言い訳はいくらでもできる。逃げる理由ならいくらでも思い浮かぶ。だがダニエルはそれを是とはしない。

 今もダニエルの心の中には自分が殺したすべての魔の物達の顔を覚えている。


 悲しい目をしている者

 怒りの目をしている者

 目を合わせようともしない者

 背中を向けている者


「すまん。見分けなどつかなかった、いやこれは言い訳だな」

「気にするな、我だって人手不足だからと非戦闘員を戦場に駆り出したのだ。我が旗を振って彼らを死地に送り込んだ。本来であれば避難させるべき人材達であった」


「そうか……そのコックの飯食べてみたかったな」

「あぁ、腹が裂けるまで食わせてやりたかった」


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