21 勇者ファンクラブ
色々とありながらも祭りは最終盤に差し掛かる。
人の背丈を優にこえる巨大な太鼓が叩かれ、集まった人々が櫓の周りに集まりだし様々な楽器の音色と共に踊り出す。
音程も音色もバラバラ聞こえてくる音もさまざまだが何故か心地よいと感じられた。
老人も女も子供一切関係ない。みんな笑顔で楽しむ。男衆は太鼓叩いていたり酒飲んで潰れていたりして思い思いの1日を過ごし明日眠い目を擦りながら仕事に向かう。
そして明日は休みだと明日決めるのだり
そこでオグワの回想が終わった。
「なぁオグワ、お前のは回想は俺には見えないんだが」
「気にするな、見るな心で感じろ」
それらしい事をそれっぽい感じを醸し出しながら言っているがそれは不可能である。回想は見えない。
アニメのように回想が開けたらみんな話を理解できるなんて事はない。
「東洋の祭りも楽しかったが、収穫祭もまた楽しい甲乙付け難い」
「お前は美味しい食べ物さえあればどうでも良いんだろ」
隠していた本心が看破されたオグワは苦虫を噛み潰したかのような顔でぅ〜と低い唸り声を上げた。
それを敗北の証と勝手に受け取ったダニエルは久しぶりに満面の笑みを覗かせ、いつも揶揄われて笑われてばかりの魔王に笑い返し、背中丸め、臍を曲げている魔王の背中をどんどんと力加減を考えずに叩いた。心なしか普段の不満がたっぷりとその手のひらに乗っていたように見えた。
「もう少し腹芸を覚えないとな」
「我に腹芸は不要だ。我が腹芸をする姿など我には似合わん」
「だろうな、オグワに腹芸は不要だ」
「だが貴様には必要だな」
オグワは意味深に言うと後ろを振り返る。
そこには大勢の女の子達がぞろぞろと磁石のようについて来ていた。
その中の一部は勇者御用達の店の「俺が勇者だ」浴衣を羽織っていた。
あの店長……今度会ったら必ず搾り取ってやる。
知らず知らずのうちにダニエルは拳に力を込めていた。
「あはは! さすが勇者だな女の子達ときゃきゃうふふ」
集まった女の子達にオグワが手を振って応えていると勇者ダニエルが足を止め、オグワの踵付近を刈り上げる。
「あぁぁ!!」
前をよく見ていなかったオグワはそのまま背中から倒れ、動かなくなった。
「大丈夫かオグワ? 大丈夫か? 生きてるか? 死んだならそう言ってくれ」
「……死んだら答えられないだろ、貴様のせいだ、ダニエルお前が足引っ掛けたのだろ」
「そ、そんな!? 僕じゃないよ、ちゃんと前見ないから転ぶんだよ」
「嘘を吐くな」
「みんな僕のせいじゃないよね、この人が勝手に転んだところを見たよね」
ダニエルは勝手に勇者警護隊をしている女の子達に聞いた。この時点でダニエルが足を引っ掛けた事が有耶無耶になった。そしてみんなの声は一致した。
「「「そうよ! 勝手に倒れたのよ」」」
「みんなありがとう僕を信用してくれて」
「貴様民衆を味方にするとは、我よりよっぽど悪どいではないか!」
まだ地面に寝転んでいるオグワが何を言っても受け入れられる雰囲気ではなくなった事を察したのか、渋々立ち上がると背中についた埃を落とし、ダニエルを置いて歩き出した。
「ふん、いいですよ、我など誰も助けてくれないのだな、わかってましたよ!!!!」
その時、手首に嵌められたリングが光出す。
「な、何だこれは!」
「オグワ、それ以上離れたらお前死ぬぞ」
オグワはこのリングの事をすっかり忘れているがこのリングは国王がオグワのこの国への滞在を許可する代わりに見つけて置くように強制した物である。
これを付けた時はただのGPSとしか言っていなかったがこれの本来の役割は逃走防止用魔道具なのだ。
勇者ダニエルも同じ物を身に付けておりダニエルとオグワの身体的距離が50mを超えるとオグワの身体に電流が流れる、心臓をショック死させる効果があるとかないとか、まぁそもそもこの魔王に電流が効くのか不明な部分が多いが、これ以上に魔王に効果が期待できる魔道具はなくこれを装着させた。
ついでに言うと30m以上離れると警告として光出す。今回光ったのは警告である。これ以上離れるなと言う事だ。
「あと20m離れたらお前は死ぬぞ」
そのリングに魔法が仕掛けられていることは濁しながら、魔王オグワに忠告した。
「我にこのような魔道具など効果ない!!」
魔王が歩き出すとリングが放つ光がさらに眩しくなる。眩しくなりリングが付けられている腕とは逆の手で目元をおさえた。
「死んでもいいのか?」
「それはやだ」
オグワそそくさと帰ってきた。
これでわかったであろうか、魔王とダニエルが共同生活をしている意味が。
たとえダニエルがわざとオグワから距離を取っても魔道具の効果は発揮される。
なので2人は半径50m以内に居なければならないのである。まぁどちらにせよ死ぬのはオグワだけなのでダニエルには一切関係ない。
「みんなごめん。僕はこの人と一緒に収穫祭を回りたいんだ、みんなもみんなが大切にしている人と収穫祭を楽しんでほしいな」
本心からみんなに向かって言うと一部の女の子達はダニエルの心を理解しこの場から立ち去ったが猛烈なファン達は。
「私は勇者様が大事よ!」
「私の旦那様!」
「私も大切にしているわ!」
などなどせっかくダニエルがみんなに心置きなく収穫祭を回れるように配慮したのに目も当たらない状況に逆戻りした。
「ダニエル、逃げるぞ」
「え?」
勇者ダニエルの声が置き去りにされ、その場から2人の姿はまるで神隠しにあったように忽然と消え去った。
「勇者様?」
目の前から勇者が居なくなり、さっきまで勇者が立っていた場所をただ茫然と見ることしかできなかった。




