20 魔王と勇者の物語
『勇者と魔王の決闘だ!』
『勇者と魔王四天王守護のエントラスとの死闘!!ここでしか見れないよ』
『勇者英雄譚!!』
『勇者、黒龍を殺る』
『勇者とその仲間達!』
これは全ては紙芝居や劇である。
そして一つ、これだけは絶対に書いておかなければならない。勇者ダニエルは黒龍と戦っていない。黒龍と遭遇したのは事実だが戦闘行為には発展していない。その他はかなり脚色されているがおおむね……事実である。
「我の話はあるか?」
「あるわけないだろ。あっても俺に殺される話だ」
収穫祭会場の入り口付近に集結した紙芝居屋や本物劇団員が再現する劇のトンネルを歩いているとオグワが何の前触れもなくボケる。
「そうか……ないなら作ればいいのだ」
「お前がか?」
ダニエルは面倒なことを言い出したと周囲の目を気にすることなく、いや気にする余裕もなく顔に出した。
「そうだ。我が作る」
オグワは楽しそうに計画を話し出した。
「我と勇者の物語などどうだ? 皆見たいと思うだろ」
「誰もそんな物語観ないよ、見たいのは魔王の首が飛ぶところだ」
「そんなに誰も見ないものか?」
「そうだ」
ダニエルがそう断言した直後、オグワが反応する前に紙芝居屋のトンネルが終わり、本格的に収穫祭会場内に足を踏み入れた。
収穫祭会場に足を踏み入れてからの魔王はうるさかった。
串焼き屋の出店を見つけると刹那の間もなく、ダニエルの腕を引き、買いに行こうとする。
「ダニエル、あの串焼き食べたい」
「自分で買え」
集るな、自分で買え。そのぐらい金持ってるだろ、この間散々自慢してたじゃねぇかよ、
オグワはすぐに違う出店を見つけ、
「ダニエル、あのパイが食べたい」
「自分で買え」
自分のポケットマネーで買え。チャラチャラ聞こえるぞ、落としてもスられても俺は知らん。
泣き喚いても俺にはどうすることもできないぞ。
………ちょっと待てよ、魔王なんだからスられても回収できるか……。
だがすぐに興味が移り。
「ダニエル、海鮮とはなんだ?」
「自分で買え」
俺も知らん、興味はあるが生ものは怖い。
沿岸部じゃ生もの食べる習慣があると聞いたことはあるが王都近辺には全くと言っていいほど魚類は見た事がない。時々見るのは川魚ぐらいだな、だけどそれも焼いて食べるぐらいだ。魔王討伐の時によく食べた。どうしても野営地は水を確保しないといけないから川の近辺が多かったからな、自然と川魚も多く食ってたな、あれは美味かった。
昔聞いた話だと魚は当たるって聞いたことがあるな。今はどうか知らんがどちらにせよ俺は食べない。
うるさくなったオグワに迷惑していたダニエルは
「あの焼き鳥美味そうだな買ってこい」
とイタズラ半分に言うとオグワは「あぁ、わかった」と、ここ最近では一番悪い笑みを浮かべスタスタとダニエルが指差した焼き鳥屋の列に並ぼうと歩いて行ったが、すぐにオグワの肩が何者かによって掴まれた。オグワが後ろを振り返るとそこには息が切れかかり肩で息を吸っているダニエルがいた。
「じょ、冗談だよ、一緒に並ぼう」
なんで俺が負けたような雰囲気に並んだよ。
心の中で悪態をついているが自業自得である。
そもそも別にオグワはお金を持ってないではない。下手をすれば国家クラスの金をそこら中に隠している。
魔王も色んなことに手を出している。
「どうした? そんなに我のことが好きなのか?」
「そ、そうだね」
引きつった顔をどうにかして元に戻そうと努力を見せているが、それが原因で更に見るに絶えない表情が出来上がった。
チラチラとそれを見ていたオグワは肩をプルプル震えさえ笑うのを我慢しているが頬の隙間からどうしても我慢できなくなったのか笑い声が漏れ始めた。
「……っ!……」
ダニエルはどうにかオグワの口撃を無視する。オグワからすれば攻撃している言う考えなど微塵も持っていないがこのタイミングで笑いを我慢するなど口撃していると同義にとられても仕方のない事だ。
オグワの笑い声が漏れるごとにダニエルの拳に込められている力が増える。もしここで手を開けたら手のひらには爪の痕が深く刻まれているだろう。
「どうしたのが? 表情が硬いぞ、トイレでも行きたいのか、なら我がこの列に並んで置いてやる、ゆっくり行ってこい」
「いや、大丈夫」
「そうか? なら良いが、あまり我慢するのは良くないぞ」
「お気遣いどうもありがとう」
感謝されたオグワは優越感に浸っている。
世界広しといえども勇者ダニエルにここまでイライラを与えることができるのはオグワだけかもしれない。
もしこれが貴族連中であればある種貴族よりも上位者とされる勇者が断る事は造作もない。だがあまりそれをやり過ぎると必要な時にまた面倒になるでダニエルはできる限り断らないようにしている。まぁ持ちつ持たれつと言うやつである。そして断る時は適当な理由を付けるのではなく相手が納得出来る理由をそれらしく貼り付けることが必要なのである。その時に絶対にツギハギだらけにはしてはいけない。化けの皮が剥がれる可憐性もあるし、見破られる可能性もある。やるならちゃんと筋を通した形で断ることが重要である。
焼き鳥を適当に購入し、食べ歩きを始めたオグワは左右をキョロキョロ見渡し、「美味そうだな」「美味しそうだな」「美味だろうな」と口に入った串を忘れたかのように次の店を物色している。
「オグワ、早く食っちまえ。刺さって死ぬぞ」
「我は魔王だ死なない」
良くわからないことを言い出しせっかくの厚意を無碍にしたオグワだがぶつぶつ言いながらも口に咥えた串を抜き出した。
「うん、これも美味い」
「だろうな、祭りの味は何でも美味いんだよ。不思議だな。普通に食べると普通の味しかしないのに、こう言う場所で食べると特別な味がする」
「我もわかるぞその気持ち」
珍しくそんなことを言っているがオグワ視線はその先の出店に向いている。
「そう言えば、射的の出店やりたいなんてどっから出てきたんだ?」
オグワが最初に射的の店をやりたいと言い出してきた時からダニエルはそのことを不思議に思っていた。
この国には射的という文化は存在しない。あるとすれば射撃である。
射的と射撃、言葉は似ているが全く違うものだ。
射撃はダミー人形の的に書かれた急所をいかに早く、正確に打ち抜けるかを競い合うという物である。それ自体は陸軍や弓兵を中心に存在しているが、おもちゃの銃で景品を撃ち落とすようなゲームはこの国ではなく東洋の国で盛んに行われている。
そもそもこの収穫祭がここまで盛大化したのも東洋の文化が流入しているからだ。
その昔嵐で船が壊れて潮に流された流れ着いた東洋人が時の収穫祭を見て、「静かだな」と発言したのが今の収穫祭の始まりとされている。それまでの収穫祭はどちらかと言えば農民の冬籠りに近いものであった。
冬は野菜も果物は一部品種を除いてほとんど取れず魚も獲れにくくなるこの時期に書く農家などが作った保存食を農村内で交換するしていたのが起源とされている。それと同時に空の神と大地の神への一年の感謝伝えて来年の豊作を祈っていた物が、いつしかお金を出して買うように変化し、今の派手な収穫祭へ変貌を遂げた。
「我は昔、東洋の国にも居たことがあって、そこで祭りというものを知ったんだ」
昔を思い出し、懐かしそうに回想しているがそれは誰にも見えないのだ。オグワの思い出は口ではいくら言えても記憶は誰にも見えないのだ。
「お前どこでも行ってんだな」
「そうだ。我は物好きだからな、北の氷と雪しか無い極寒土地、灼熱の溶岩が流れ出す山、絶対に消えることがない火、色々と見てきたが、東洋の祭りが1番楽しかった。我がいくら言葉を使い貴様に教えようとあの時の感動を共有できはしない、あの思い出は我だけのものだ、それでも聞きたいか?」
誰も聞きたいとなど言っていないが、オグワにはそんなことは一切関係ない。
そこからはオグワの回想タイムの始まりである。




