18 ギルドマスターの活躍2
腹部の鎧はギルドマスターの拳の形に凹んでいるが左手の部分には傷一つ付いていない。その代わりにグラットの剣が目に見える程欠けた。
「なんて硬さだ……1発で剣が欠けちまった」
欠けた刃とは逆向きの刃を構え、体勢を整える。盾役のグラジュエルがグラットの視界を遮らず、守りも疎かにならない位置で盾を構えタイミングを見計らっているが動ける隙が見当たらない。
「人間の剣は脆いな。そこのギルドマスターの拳の方が我には効いたぞ」
流石に拳は効いていたのかエントラスは腹部の拳の凹みを触った。よく見ると鎧には無数の傷跡あるがどれも鎧の表面を僅かに削ったのみ、その奥の皮膚には到達していない。
ダニエル達も隙を探りながら動いているが今の双竜の牙の攻撃を見て動くに動けなくなった。
普通であればあそこまで力を入れた攻撃であれば致命傷にならずとも鎧を割り皮膚を切り裂くぐらいのことはできるはずである。だがそれすら困難を極めた。無駄に攻め込んでも倒せないとダニエルは判断し自分たちのガードを固める事に尽力する事にした。
「ダニエル! お前達は動くな」
グラットが声を上げエントラスに攻めかかる。
仕方ないと言わんばかりに盾役のグラジュエルが走りだしその後ろをグラットが追走する。
これが双竜の牙の攻撃パターンだ。盾を全面に押し出し後ろを走るグラットの負担を減らし一気に決めに掛かる。だが致命的な弱点が存在する。
何も考えずに動き出したグラットを怒鳴りつけたくなったがこうなってしまっては見捨てる事はできないとギルドマスターがエントラスの死角に周り込み、拳を握りしめた。
「死角も見えている!」
エントラスは背後から迫るギルドマスターを無視してグラット達に突っ込みグラジュエルの盾を拳で殴りつけた、その岩のような衝撃で盾が手から弾き飛ばされる。
無防備になったグラジュエルをグラットが庇おうとしたが間に合わない。
グラジュエルは無謀だとわかっているが本能でエントラスの剣から身を守ろうと体の左側に咄嗟に手が出るがエントラスは振り下ろすと見せかけ剣ではなく左拳でグラジュエルの頭部を殴り飛ばした。
吹き飛ばされた頭部はまるでボールのように回転しながら飛ばされすぐ林の奥に消え見えなくなる。
林の奥でドンと言う鈍い音が聞こえ鳥たちが一斉に羽ばたき逃げ回る。
頭を失った遺体はエントラスに寄りかかるようにして倒れ、鎧を溢れ出した血で濡らす。
「血は滑るからあまり好きではない」
拳に付着した血をグラットの目に向かって払った。
仲間の遺体を呆然と見ている。
グラジュエルが死んだこのタイミングを逃さず背後から殴り込もうとするギルドマスターだがこの間もエントラスは警戒を怠ることをせず背後に神経を張っていた。
エントラスは振り返り、もう止まらないほどのスピードが出ているギルドマスターを切断しようと大剣を斬り上げる、回避しようと咄嗟に体を捻り大剣を躱すことに成功したがエントラスは振り切った左手を大剣離し裏拳が脇腹に捩じ込まれ、爆発的な威力でギルドマスターは20mほど離れた木に投げつけられた。木がミシミシと言う嫌な音を立て、倒れた。
「戦場で立ち尽くすとは……そこのギルドマスターとあいつらは合格点を与えられるが貴様らには与えられんな」
呆然と立ち尽くすグラットに拳が降り注ぐ。目の前に拳が迫り自分たちが置かれた状況を思い出すが時既に遅し、目の前にエントラスの拳があることを認識出来た時には仲間の敵討ちを仕掛ける前に盾役のグラジュエルと同じように頭部が吹き飛ばされた。回転する世界の中意識を失った。
回復職と魔法職の2人はグラジュエルが殺された後すぐに退避行動に入りダニエル達のもとに身を寄せた。くしくも2人の死が2人を助ける結果となった。
「ゴホッ、ゴホッ」
木に埋め込まれたギルドマスターがゆらゆらと起き上がった。
周囲を確認したギルドマスターは今の現状を悟った。
「こりゃ、ピンチって奴か」
首のない2人の遺体、ダニエルの下に身を寄せたリオーナとアメジスト。
その2人を守るように盾を構えるオーガスタ、
アネットとこそこそ次の動きを確認しているダニエル、何も出来ずに右往左往目が泳いでいる回復職のフィスリア。
フィスリアの腕であれば頭部さえ吹き飛ばされていなければ絶命した直後であれば2人を生き返らす事も可能だったかもしれないが2人はすでに絶命してから時間が経っている、生き返らすことは不可能だ。やってみる価値はあるかもしれないが、先にエントラスを倒さなければ何もできない。
「そこの女、フィスリアと言ったな」
2人の遺体を邪魔にならないところに片付けたエントラスがダニエルのパーティの回復職フィスリアに話しかける。
「え あ。あい……はい」
「貴様のパーティで一番厄介なのはダニエルでもなくアネットでもなく貴様だ。死んだ人間生き返らす事など反則だろう」
反則の権化とも言えるエントラスにそこまで言われたフィスリアだがその顔は戸惑いに満ち溢れている。自分がなぜ一番厄介などと言われているのか理解できない。このパーティで一番強いのはダニエルだ、自分なんて後ろをついて行っているだけなぜ自分が名指しされるのか、彼女の思考は大慌てである。
「な、なんで私が……」
どうにか思考をまとめられた彼女は口に出した。
ギルドマスターは気づいた。
コイツ、フィスリアの特異性に気付いていたから……いつからだ、いつから気づかれていた。
ギルドマスターもフィスリアの異常性には気づいていた、だが教会に囲まれるのをされるためにその事は一切言わなかった。普通の回復職であれば怪我を治すので精一杯それも10分ほどかけて治せるレベルである。
上位の冒険者パーティの回復職でも怪我の程度によるが深い傷だと回復するのに1分程は必要になる。
教会が囲むような回復魔法の使い手ならば後遺症を気にしなければ腕の一本繋げることはできるだろう
死んだ人間を生き返らす事は本来不可能なのだ。
フィスリアは死んだ直後であれば生き返らすことができる。それだけで彼女の特異性がわかるだろう。
「我は世界各国に情報網を張ってあるのだ。人間の回復職の使い手のレベルなど把握しているがそれでも貴様の回復魔法の腕は異質だ。貴様はここで始末しとかなければならない」
空気が変わる。
重く苦しい圧力がこの場を支配した。
「ダニエル! 貴様らは守りに徹しろ、私がコイツを倒す」
この空気に逆らうようにギルドマスターは覚悟を決めた表情で魔王四天王守護のエントラスに向き合った。




