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17 ギルドマスターの活躍1

 

 漆黒の鎧で全身を固めた魔王四天王守護のエントラスが姿を現した。背中には自分の背丈ほどある大きな剣を差している。己の身体を見せつけるようにゆっくりと堂々と一歩ずつ歩く、一歩歩くごとに地面が揺れ慣れない者であれば振動だけで体勢を崩されそうになる。


「分散態勢!!」


 ここにいる者達の中で一番体格が良いギルドマスターが真っ先に声を上げた。

 各パーティごとに分かれて魔王四天王守護のエントラスを囲むように布陣する。


 この隊形でエントラスと戦うのはギルドマスターと招集組のAランクパーティの双竜の牙そして後の勇者パーティの9人のみ、他のパーティは周囲を警戒しこの戦いに加わろうとするエントラス軍を押し留める為に3人1組で離散した。


 双竜の牙はダニエル達と同じく、魔法職と回復職、盾職そして攻め手の4人構成となっている。

 リーダーは健士のグラット 

 魔法職のリオーナ

 盾職グラジュエル

 回復職のアメジスト

 の4人である。


 基本的に戦い方はダニエルとほぼ同じであるが盾職のクラジュエルもタイミングを見て戦闘に参加する変則型のパーティである。


「人間共が、わざわざ数を減らすような真似をして我に勝てるのか?」


 自分の体格程ある大きな剣片手で軽々と持ち上げ自分の力の強さを見せつける。戦いは始まる前から始まっている。こう言う一つ一つの動作が後々に影響するのだ。


「聞く耳を持つな! 魔の物達はこうやって我々の精神を揺さぶってくる」


 戦いを熟知した物同士、敵の手の内など既に理解している。魔の物達は言葉を使い、敵の心に入り込む。『大丈夫か?』『勝てるか?』と言う僅かな疑いを生み出すだけで人間達は100%の力を出せなくなるたったそれだけでと思うかもしれないがそれだけで十分なのだ。それだけで連携は崩れて隙が生まれる。


 猜疑心が生まれるのをエントラスは待っているが歴戦のギルドマスターも馬鹿ではないこう言う時の対処法など分かりきっている。


「貴様、我らの手の内を理解しているようだな」

「魔王四天王に言われたくないな」


 両者笑みを漏らし余裕の表情を見せる。ここで焦る必要などない。焦って攻め込んでも本来の力は発揮できないと経験が言っている。


「攻めてこないのか?」


 指を二本立てかかってこいとアピールするがエントラスが挑発に乗ることは無い。余裕だと言う表情を絶やさず、剣を握る手にはしっかりと力を入れ、いつ敵が動いても対処できる構えを作っている。

 エントラスは魔王軍でも最古参に限りなく近い歴戦の将軍だ。今では後進の育成に力を注いでいるがその実力は未だ衰えていない。


 余裕の表情を見せているが隙を作るような愚かな真似はせず、全てに意識を張っている。それがエントラスが魔王軍四天王という地位を長年守り続けた最大の要因だろう。


「ふん、我を誘うとは、だが我はそんなことでは動かない。貴様もわかっているであろう、敵の挑発に乗る以上に愚かなことはないと。それと見えているぞ」


 エントラスはしっかりと自身の背後で少しずつ動いている双竜の牙を鋭い眼光だけで牽制した。


「こっちも見えているのか……背中に目でも付いているのか?」


 グラットが仲間にだけ聞こえるように呟く。


「見えているとも、聞こえているとも。我は耳も良いからな」


 答えが返ってこないと思っていたのに返ってきてた。本当に聞こえているか? グラットの心が揺らぐ。

 相手が魔王四天王ではないのならブラフとして無視してもさほど問題はないが目の前にいるのは守護のエントラス、無視することは出来ない。グラットは舌打ちすると指による指示に切り替えた。


「いい判断だ。だが最初から指で指示するんだったな。指で指示されたら我にはわからないからなそれだけで我より上に立てただろう」


「これだから玄人同士の戦いは嫌なんだよ、実力が物を言うからな」


 こんな極限状態なのになぜコイツは敵に塩を贈るような事をやるのか……ギルドマスターは考えるが答えが出ない。どうにか時間を稼いで今できる事を考えているがエントラスには隙がない。全員で一斉に斬りかかれば、何人か死ぬがエントラスを倒せる自信はある。だがここで死人を出しすぎてはこの先に残る魔王四天王達や魔王本人を倒せない。

 そもそもそいつらの膝元にすら辿り着けなくなる。

 残りの魔王四天王達は各国との戦争の為に前線に駆り出されているが魔王がどんな魔法を隠し持っているか見当もつかない。もしかしたら前線の軍をタイムラグなしでここに投入されるかもしれない。


いや、我らには最初から勝ち筋なんてものはない。

魔王はなんでもありだ、人間の知能では到底敵わない。だから勇者がいる。

ギルドマスターはタイミングを探っているダニエルたちの様子を確認する。


「我も同感だな、玄人同士になるとどうしても決着が付きにくくなる。最後は体力が尽きるか精神で負けるか相手が何かミスしないと勝負が終わらないからな」

「貴様はそんな相手ではないな、そう易々と隙を見せてくれないからな」


 鎧の下でエントラスは笑みを浮かべた。


「あぁ、敵に隙を見せるような奴は四天王にはなれない。戦場は先に隙を見せた者から死んでゆく世界だ。その点においては貴様らは合格点だな。我も攻め手が見つからない、特攻でも仕掛ければ貴様らを半壊以上には出来るがそれ以上は見込めない」


 言ってくれるぜ、それじゃなんの意味もないんだよ! こっちは精鋭1人欠けるだけで魔王の膝下にすら辿り着かない。外を任せた奴らが死んでもさほど影響はないが、双竜の牙もダニエルのパーティ、どちらか一つ、いや1人でもかけたらこの先がキツくなる。


「どうする?」

「何をだ?」

「攻めかかってこないのか? なら我から攻めかかるが? 我がここで負けようとこの先、貴様らは必ず負ける。貴様が考えている通り、魔王様は我が軍をどこからでも呼ぶことができる、魔王様は『戦いがつまらなくなる』と言ってあまりその魔法を使いたがらないが必要とあれば容赦なく使う方だ。我は時間を稼ぐだけで良いのだ」


 魔王様が決断する時間を作りなおかつ、この場なるべく多くの敵を殺せば我の役目は果たせる。

 エントラスは自分の死を覚悟しているのかその声に揺らぎがない。


「それで良いのか? 貴様、死ぬんだぞ」


 再度揺さぶろうとするがエントラスの表情が変わることはなく、それどころか鎧の奥に隠された瞳の色が変化しその瞬間、辺りを覆っていた空気が重くなった。


「魔王様のために死ねるなら本望だ、我はこの命一度魔王様に救われている。魔王様のためならばいくらでも捨てられる」


 エントラスは大剣を構え直し、ギルドマスターに突進した。


 その勢いは凄まじく、常人の目ではエントラスの動きは追えないほどのスピードがあった。


 距離にして10メートルを一気に詰めるとギルドマスターに向かって大剣を無造作に振り下ろす、

 ギルドマスターは後方に跳ね、剣を躱し着地の力を最大限利用し反転攻勢をかけた。


 足の力を存分に活かし、動きに隙が生まれたエントラスの胴に拳を捩じ込み空へ打ち上げる。

 身体一つ分浮き上がり、身体が頂点で止まり重力によって地面に引き戻され、地面に激突する前にギルドマスターの第二の拳が脇腹を抉り、ギルドマスターはエントラスから距離を取った。


 地面に押し倒されたエントラスは空を見ていた。

 久しぶりだな。我が倒されるなど。少し敵を甘く見ていたかもしれない。隙を見せるなと言っておいて我が隙を見せていたとは。


 ゆっくりと何事となかったかのように立ち上がり、打ち上げ上げられた時に手放した大剣を地面から抜きギルドマスターと再度対峙する。


「貴様達を侮っていたようだ」


 その直後エントラスは左手で首を守った。

 刹那 ギャイィんという鈍い音が辺り一体に響く。

 双竜の牙グラットの剣がエントラスの首を狙おう刃を立てたが硬い鎧に阻まれた。


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