15 神鳥の物語
徐々に収穫祭会場には人が集まり始め熱気が悶々と溢れ始めてきた。あともう15分もすれば収穫祭が本格的に始まる。フライング気味に出店が営業を始めらが警備の為に派遣された兵士たちに見つかり、店を閉めさせられた。
そこら中から「まだかな?」と楽しそうな子ども達の笑い声や開店準備中真っ最中なのか美味しそうな煙が湧き上がり、すでに行列を作り始めた。
「神鳥の物語だよ!!」
収穫祭の会場入り口の一等地で毎年恒例の神鳥物語の紙芝居屋が今年も祭り開始を合図だと言わんばかりに声を張り上げた。
※紙芝居屋はちゃんと許可を取り先行営業を行なっている。
最初は紙芝居屋もアウトにしようとしていたが紙芝居屋が一番最初に声を上げないと祭りが始まらないと言う住民の声を受け、仕方なく先行営業を認めたと言う経緯がある。
「神鳥の物語とはなんだ?」
オグワはその紙芝居屋に惹かれたのか自分でも意識しない内に声が漏れ、引力に引っ張れるように歩き出した。
やれやれと思いながらもダニエルはその後を追う。がその顔は疲れたものではなく、明るい表情をしていた。
「昔の話だよ、丁度いいや後ろの邪魔にならない所で聞いてろよ」
「そうだな、我も昔話は好きだ」
ダニエルに勧めたれた魔王は我が一番前だなどと言うことはせず歩き出す。
「その昔我が叔父上が勇者に殺された話を叔母上から耳にタコが出来るほど聞かされたからな」
なんでこの魔王は返答しづらい質問のテイをなしていない事を言えるのか気になったダニエルだがその文句を言う相手であるオグワはすでに子ども達の後ろにワクワクした目で並んでいた。
600年に一度この世界には神鳥と呼ばれる神がこの世界に降り立つとされている。
神鳥はこの世界に降り立つと全世界を飛び回り周り各地の大地や海に栄養を運ぶとされている。そしてその時の最強の強さを誇る人のもとへ現れ、自分の尾羽を差し出すと伝えられている。その尾羽は死んだものを生き返らす事ができると伝承記には残され、過去に5人実際に生き返ったと言われているが事実を確認できる資料はすでに失われている。
神鳥の伝説が最初に記録されたのは今から6000年前。
古代王朝ディアズがこの世界を統一していた古き時代である。これより過去にも文献自体は遺されているが現代の言葉とは文法が違うらしく解読できていない。解読できた文献の中で一番古いものが古代王朝ディアズの文献である。
5代王朝王グラティムの前に神鳥が降り立ち、尾羽を抜き、グラティムに差し出したと石板に書き記されている。その中にはグラティムは尾羽を使う事なく生涯を終えた85年の生涯を全うしたと言う内容も記されていた。
その尾羽はグラティム亡きあと王朝内での権力を争いで消失したとされているが誰1人その真相を知るものはなく、グラティムのもとに飛んでいったのでは無いかという眉唾物の噂話が残っているがやはり確定するには証拠が弱いと歴史学者はそう結論づけた。
その後も約600年に一度、神鳥が現れたと言う伝承が残されている。そして今年は最後に神鳥が現れてから600年が経った。伝承通りであれば近い未来、神鳥が現れる可能性がある。
グラティムの生涯が描かれた石板には神鳥は金色に光輝きまるで太陽の化身と見間違うほどであったと記され同時に神鳥は言葉を発しだがグラティムには聞き取れない言語であったと記されている。
「そしてもし、今年神鳥がこの世界に現れるのであれば、勇者ダニエルが神鳥の尾羽を授かるのでは無いかと私は思う」
紙芝居屋がそう締めるとここにいる全員の視線が勇者ダニエルに向き、何か一言言ってくれと言った様子で見ている。
面倒なことになったと心の中では思っているがここに集まった子ども達の純粋無垢な視線の前ではそんな事を言えるはずもなく、この場が静かになるのを待ってから口を開いた。
「僕よりも強い人はいっぱいいるよ、僕は力が強いと言うわけでは無い、仲間達が居たから強いんだよ、力が強ければ表面的には強い人に見えるかもしれない、でも力が強いだけじゃそれは強い人とは言えない、適切な知識を持ち合わせ、教養があって、仲間を信頼できる人、そして困っている人を出来るだけ助けられる人、僕は勇者だけどその全ては持ち合わせて無い。全ては神鳥様が決めることさ、みんなに平等に神鳥様は現れる」
結局勇者自身何を言いたかったのかわからないが要約すると、全ては神鳥様が決めると言うことだ。
この伝承記には一つ大きな誤りがある。それは死んだものを生き返らすことができるというところだ、正確に言えば死んだものを生き返らすのではなく願いを一つだけ叶えることが出来るのだ、だがこの尾羽を授けられた多くの者が戦争や病気、怪我で大切な人や仲間、恋人を失っている者であり、生き返らせて欲しいと願うからそういう伝承が残された。
別に、
億万長者になりたい
可愛い女の子と結婚したい
ハーレムを築きたい
世界の王になりたい
年老いたく無い
不老不死になりたい
この世界を滅ぼして欲しい
この世界の人を全て殺して欲しい
などと願うことも可能なのである。
可能ではあるが実際問題その願いが叶うかは誰もやったことがないのでわからないが試す価値はあるのかもしれない。
神鳥の物語が終わり紙芝居屋が後始末を始め、見ていた子供達も次の関心ごとに惹かれこの場をゾロゾロと立ち去り始めた。
魔王オグワは紙芝居屋が後片付けをしているのを名残惜しそうに見ていた。
「オグワ、行こうか。まだ奥には楽しいものがいっぱいあるさ」
オグワの肩を叩くように手を置き、そのままオグワの身体を押し出した。
「あぁそうだな。我は永い時を生きているが神鳥というものを見た事はない、だがらしき現象は見たことがある。過去にどうにかすれば人が住める程度の土地が人々が寝て起きると突然川が流れ、ハゲ山が再生し、植物が増え、動物が増えた、切り倒された木が再生した。そんな現象を我は見たことがある、一年すれば元通り人が住めない土地に戻ったがな」
「どういう事だ?」
「簡単だ。人間は生活を変えなかった。過去に一度自然を破壊し人が住めない土地を作り上げだ。今思えば神鳥が現れて土地を回復させたのだろう、人間達は懲りずに自然が荒れ果てる前と同じ生活をしたんだ。一年もしたらまた人が住めない土地となった」
魔王の瞳には涙は浮かばない。自分の記憶でさえ歴史書の1ページ程度としか思ってないのかもしれない、いやそれは違う。魔王は悠久の時を生きている。一時の感情で涙など流していたらとうの昔に魔王の精神が崩壊している、だから魔王オグワは悲しみという感情を消し去ることにしたのだ。しかしそれ自体魔王は忘れている。魔王と言えど記憶できる量は限りがある。だからオグワは知らない悲しみという感情を。
「いいんじゃ無いか? 俺がいうのもなんだが学習しない奴らをいくら救っても無駄だと思う。俺もそんな奴らをいっぱい見てきた。魔王討伐の時なんてそうだ、どっかの大貴族とやらが要らないって言えないのをわかって100人ぐらいの部隊を送ってきたんだよ、お前らのところの魔王四天王守護のエントラスと戦ったとき真っ先に逃げやがったよ、その後もその大貴族はちょくちょくちょくちょく役に立たない部隊を送り込んで、ひどい時じゃ俺たちのところに到着した時には10人も残ってなかったよ、皆魔王軍の襲撃に遭ったんだとさ」
あの時は酷かった。
百人兵を送る、役に立ててくれと手紙が送られてきてやってきた兵はたったの10人、残りの奴らは魔王軍四天王じゃなくて魔王領の警備隊にやられたそうだ。生き残った奴らが言うには。四方八方から弓矢で打たれ瞬く間に全滅したそうだ。どうにか生き残った隊長格とその部下数名が命からがら、俺たちのところに辿り着いたんだ。
そいつらも2日しないうちに死んだけどな。
だから量より質なんだって何回も言ってるのに、勇者に援助しているって言う称号が欲しいんだろうな
「であろうな守護のエントラスは我が魔王四天王の中でも1番の防御力を持っていた。そう簡単に死ぬやつではない。それでいて軍略の才もあり我の右腕だった奴だ。だが貴様らに討たれて死んでしもうた。思い出すだけでははらわたが煮え繰り返る」
報告によればエントラスの最後はギルドマスターの拳による一撃だったそうだ。
女が飛んできてエントラスが頭部を吹き飛ばしたはずのギルドマスターに触れた直後ギルドマスターの切断された頭がまるで時間を戻したように胴体に戻った、と報告が上がっていた。
「すまないな、必死だったんだ」
「わかっておる。過去の事だ気にはせん。今こうやって魔王と勇者が隣を歩いている。エントラスは怒るだろうな」
「俺だってそうだ、今のこの姿見ればあの3人が何言い出すことやら、問答無用でお前の首を刎ねようとするかもな」
「大丈夫だその時は我が勝つ。無論殺すようなことはしない、我は気付いたのだ気に食わないものを殺しても何も楽しく無いとな」
ダニエルは反論できなかった。
魔王を殺すと宣言し魔王軍を打ち破った。
魔王討伐と言う食べれない、触らない、この目に見えない栄誉は手に入れたが数少ない仲間を失った。




