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14 賞味期限

 

 まず最初にオグワが更衣室から不敵な笑みを浮かべてるんるんと出てきた。


 オグワの浴衣は背中に『俺は勇者だと』書かれている以外は至って普通の浴衣である。


 薄い青を何色も重ねた色合いの浴衣に闇のように真っ黒な帯、そこには白い扇子がオグワの希望なのか左右に一本ずつ差し込まれている。首元には私物の金のネックレスと言うよくわからない組み合わせの装飾品が付けられている。


 鏡で自分の姿を見るとうっとりした声を漏らし自分の美しさに惚れている。


「やはり我は何を着ても似合うな」


 顔の角度を微妙に調整したり、腕の位置や体の位置、腰の位置を何回も調整しその度に笑みが漏れる。


 腕を組んでみたり、足を伸ばしてみたり、歩いてみたり、楽しそうだ。


 鏡の前で自分の姿にうっとりしていると勇者ダニエルが更衣室から出てきた。


 ダニエルはシンプルな浴衣で現れた。更衣室でもオグワが選ばなかった『俺は魔王だ』バージョンをかなり押されたがそれを無表情で断り二つ目のシンプルデザインの物を選んだ。


 単黒の中でもグラデーションが違う黒が何枚にも折り重なった黒の浴衣に、真っ白でシミ一つない帯、この帯は勇者の清潔さを表している。勇者が黒星つまり負けた事がないと言う意味である。


 帯にはオグワとは色違いの蒼い扇子が一本収まられている。

 ダニエルはその扇子を抜くと、自分の顔を仰いだ。風が発生し、勇者のサラサラヘアが風に靡く。


 オグワも真似して同じことをやってみるが勇者のようには靡かなかった。


「勇者様、オグワ様、一応お洋服はこちらで預かります、祭りが終わった取りに来てください、で明日もこちらで着付けしますか?」

「あぁ、明日も頼む、俺たちじゃ手に負えない」


 着付けの最中にも言っていたがこの浴衣という服は慣れてないものであれば1人で着ることは困難だと思われる。羽織る程度であれば一人でも着られるが帯を回そうとするとすぐに解けてしまう。

 慣れてくれば1人でも出来ると着付けの担当者は言っていた。


「浴衣がズレたりして直せなくなったらこちらに戻ってきてもらえれば直します」

「わかった」


 バックヤードから店内に戻ると勇者の服を見ようとまだ女の子達が集まっていた。


 こっぴどく叱られたのか勇者が目の前に出てきても誰一人歓声を上げることはせず皆同様に口を押さえ、叫ぶのを我慢していた。


 その想い伝わったのかダニエルが手を振ると最前列にいた子達が腰が抜けたのか倒れ込んだ、前の女の子たちが倒れ込み

 勇者を直視できるようになった女の子たちも同様に座り込んだ。


「勇者恐るべし、なんで手振るだけで死体が量産されるのだ? 我でもあんな芸当は不可能だ。手を振って人を殺せるなら魔法など必要無くなるではないか」


 ドミノのように倒れた女の子達に唖然として様子で見ていた魔王が呟くと同時にバックヤードから大量の箱を持った店長とその部下2人が出てきた。


「お客様!! 今なら勇者殿と同じ浴衣をご購入する事ができます!」


 またあんたか! ここに女の子たちがいなければダニエルはこの店長を殴っていたであろう。

 出てきた店長はなんとも商魂逞しい事を言うと一番上の箱を開け店内の客に見せるように置いた。

 勇者が手を振ったのを見せ失神していた女の子たちは『勇者殿と同じ』と言う言葉が聞こえた瞬間にゾンビのように起き上がり、レジに殺到した。


「私が買うわよ!!」

「あんたは邪魔‼︎」

「勇者様のお揃い!! 何としても手に入れるわ!!」


 我先に掴もうとする女の子たちがお互いの髪の毛を引っ張り合い頬を叩き、前進する。倒れても、他人の足を引っ張り自分が前に行こうとしている。


「全員分あります!! しかしながら本日又明日にお渡しすることはできませんそれでもよろしいですか? 理由は簡単です、この浴衣という服は一人ひとりの体を採寸して制作する一点ものとなります、なのでお時間がかかります。再度申し上げますが、収穫祭の間にお渡しすることは不可能です、それでも宜しいですか?」


「「「良いわよ!!!!!!」」」


 クソ店長、またやりやがった。ダニエルはこの騒乱に声をかき消された。誰の耳にも届いていなかった事は幸いと言えるかもしれない。


 店長はなんら嘘はついていない。あの箱の中身は浴衣の生地である。勇者が今着ている浴衣とは色などが少し違うがなんら嘘はついていない。嘘はついていない。

 ただ少し脚色しているだけである。

 それにちゃんと収穫祭中には出来上がらないと言っている。

 だがこの女の子たちはそんな事は気にしないのだ。勇者と同じものを身につけるだけで昇天する連中なのである。

 買えれば届く日付など関係ないのだ。


 勇者と同じものを持つそれが彼女たちの生きる原理である。

 もしそれを失えば彼女たちは生きる気力をなくすことになるだろう。

 それをわかってる店長はあんな事を言い出し、それをわかっているからこそ勇者は口を挟まめない。

 半ば騙されているのはわかっているが女の子たちはそれをわかって購入する。それが勇者ファンの証となっている節がある。

 別にダニエルは自分と同じものを購入しろとは一切言っていない、それどころかやめてくれとまで言っているがやはりファンの中でのマウントの取り合いと言うものがどうしても存在しているのである。


 言ってしまえば誰も不幸になってない。店長もウハウハ、女の子たちもウハウハ、勇者は……別に被害者ではない。なんら騙されているわけでもないし何か被害があったかと言えば無いし、ただ、勇者ブランドと言う触ることも見ることもできない幻や蜃気楼に近い何かを利用されただけである。


「オグワ、行こうか」

「勇者ブランド恐るべしだな、少し頭を回転させれば詐欺では無いがそれに近い悪徳商法だとわかるが、どうしてもお熱な奴らは頭の回路が単調になってしまうのだな」


 我もやってみるか……。   

 収穫祭で出す出店の商品はダニエルに頼み込み手配済みだが、この騒動を見て、オグワは何を思ったのか、何やら不穏な考えが浮かんだ。


 店から出ると女の子達の姿が消えた。皆店の奥で商品の取り合いをしているのだろう。罵声や怒号、何かを壊したのか色々な破壊音が漏れてきた。


 今も噂話を聞きつけたのか大勢の女の子たちが目の前にいる勇者を無視して店の方向に走っていく。何故がダニエルは心が重くなった。いつしか自分はこの世にはいらない存在として扱われるのかもしれないと。


 この魔王と勇者という時代はそう遠く無い未来終わるのだろう。勇者とはそれまでの栄誉なのかもしれない。


「無視されてるな。なくなって初めて悲しさに気づくものだな」

「俺は悲しんでなど無い。逆に清々したよ、追いかけ回されないで済むしな」

「またまた〜、そんなこと言ってさ強がらなくていいと我は思うぞ。もっとどっしり構えて待つのもありだと思うが」

「お前はそんな事をやられた事がないからわからないんだ。一回やられてみろ結構疲れるぞ」


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