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10 我も有名人だな

 

 収穫祭は2日にわたって行われる。

 初日と2日目では出店が入れ替わり、2日間通して飽きることがないようにそして効率的にお金が落ちるように設計されている。


 初日はお昼から午後9時、2日目は朝の9時から午後10時まで開催され、子供達の楽しい笑い声と賭けに負けた汚い大人達の泣き顔が見られる。


 両日共に午後7時を過ぎると子供は帰る時間とされどんな理由があれど強制的に帰らされる、そのあとは数少ない大人達の楽しみの時間となる。賭け麻雀や日中は提供禁止にされているビールなどを浴びるように飲み、闘技場での力自慢大会や、死刑囚達による殺し合い、夜の帰り道で眠りこけると追い剥ぎに遭う。毎年パンツ一丁になった中年おっさんが大量発生し、軍隊のお世話になる。そして家に帰ってお袋に怒やされ、家から閉め出されるのが毎年恒例のことなっている。



 魔王オグマの出店(でみせ)はダニエルがいろいろとコネを回したおかげで2日目に開店するため、収穫祭1日目は勇者ダニエルと観光することとなった。


 普通であれば魔王討伐を成した勇者である、それこそ国王の娘を嫁に貰い、一緒に観光して、『あ〜ん』やら『私は、大丈夫ですよ』と顔を真っ赤に染めて意味深なこと言われたり、収穫祭が終わってダニエルが借りているアパートに2人で帰って風呂に入っていると突然扉が開き、タオル一枚で『お身体流しますよ』とか言われ鼻の下を伸ばすところだがダニエルはそんな汚い性格は持ち合わせていない。たとえそんな事が無くてもダニエルの周りにはいっぱい可愛い女の子がじゃぶじゃぶ集まってくるはずであった……。ダニエルのことだ外面の良さで人を判断することはないだろうがそれでもかなりの人数が集まるはずであった。


 今、隣で楽しそうに祭りの飾りを見ているのは美少女達ではなく、魔王。魔王オグワだ。


 先日服屋に頼んだ東洋の服、浴衣と言うものが仕上がったと連絡が入り、収穫祭当日の今日取りに来たのである。


 ペアルックの2人が並んで街中を歩いていると指を咥えた何百人もの女の子達が魔王オグワを射殺すほどの凶悪な視線を向けているが魔王には一切効かない。


「我も有名人だな」


 周囲の観客に手を振り応えると、女の子達の視線がさらにキツいものになった。


「皆から視線を集めるのは我は得意だからな、だがそれにしても表情が硬いな、もっと笑顔を見せろ、そんなしかめっつらしていると本当に勇者に嫌われるぞ」


 女の子達の視線が自分に向いていないことにやっと気づいたオグワを勇者を引け合いにだし、観衆に呼びかけた。

 勇者の名前が彼女達の耳に届くと、すぐにかわいい笑顔を振りまき、きゃー!きゃー! 黄色い声援を上げ始めた。


「良かったなダニエル、モテモテではないか、あれなら嫁を選び放題取り換え放題、使い捨てにも使えるぞ、子を孕ませ子孫も残る。ハーレムと言うやつもありだな全員を一つの屋敷に入れ、毎日交代でうふふ。

それに結婚しよう。でもお金がないと言えばすぐにかき集め貢いでくれるだろうな」


 オグマは自分には一切関係ないと言うようにゲラゲラと笑い、面白おかしくなったのかお腹を抑え、「息が、できない」と言いながらさらに吹き出す。


 収集が付かなくなったとダニエルは思ったのか誰にも聞こえないように少しだけため息を吐き、普段公の場でよく見せる営業スマイルを見せ全方向に手を振る、勇者ダニエルと目が合ったのか失神する者がチラホラ現れた。


「おぉ、倒れた……勇者恐るべし」


 失神した者の数が両手両足では効かなくなるとずっと笑い転けていたオグワの唖然とした声が漏れた。


「笑顔で人を殺すとは……我よりも凶悪ではないか?」

「死んでない。倒れただけだ」


 立っている女の子の数が倒れている女の子よりも少なくなった。

 残りの女の子達は自分だけを見て欲しいと言わんばかりに黄色い声援がそこら中から溢れる。

 このままでは本当に暴徒化しそうな気配が肌で感じられた。


 そんな気配を人一倍感じたオグマがダニエルの前に出てきて、優しく、諭すようにダニエルに問いかける。


「勇者よ、全員倒してしまった方が良いのではないか? このまま彼女達を放置してしまったら彼女達の心には『勇者が目の前に居て、笑顔で手を振ってくれたのに自分は倒れられなかった』と言う猜疑心(さいぎしん)が生まれてしまい、ダニエルのファンが減ってしまうぞ、それでも良いのか?」


 何故こいつに諭されなければいけないのかと心の底から思ったが反論しても叱っても自分のせいとは一切考えない能天気魔王に何を言っても無駄だ、これが本当の魔王の囁きだと考え魔王の言葉をを脳内で切り捨てた。


 勇者ダニエルがそんなことを考えているとは露知らず、オグワはさらに続ける。


「女の子達が悲しむ顔は見たくないだろ」


 ダニエルの表情が突如として変わった。

 そんなもの見たくないに決まってるいる。そう声を大にして出して叫びたいが衆人環視の中そんな恥ずかしいことはできないし、魔王に唆されて叫んだとなっては勇者の箔に傷が付いてしまう。


「お前は少し黙ってろ」


 勇者の正確無比な拳が魔王の鳩尾を捉えた。オグワがダニエルの動きを視認した時にはすでに、拳が鳩尾にめり込んでいた。


「グブッ………」


 ガードも何もする余裕もなく鳩尾を貫かれた魔王は肺から空気が逆流し、腹に手を当てる時間もなく地面に崩れ落ちた。


 ダニエルは地面とキスして倒れているオグワを尻目に勇者を待つ彼女達一人一人の元へ駆け寄るとセクハラをしようなどと言う邪な考えは一切持たず、髪の毛をポンッと撫でて、「僕のためにありがとう」と笑顔(はかいこうせん)を乱射した。


 女の子達は声にならない声を漏らしながら、皆一様に地面に吸い込まれた。


 立っているものが1人もいなくなり、この場が落ち着くと、オグワが何事もなかったかのように起き上がり、またゲラゲラと笑い始めた。


「皆、殺してしまったのか勇者……」


 またもや演技派魔王の実力を如何なく発揮したオグワは倒れている女の子達を魔法で浮かせ顔や服に付いた土埃は綺麗に叩きその下にビニールシートが敷かれた。

 そして変な輩が彼女達の綺麗な身体を触られないように彼女たちの周囲に内側からは好きに出れる時間式の侵入防止結界とめくれたスカートの為に視認妨害の魔法を掛け、優しく降ろした。


「オグワ、なかなか良いところがあるじゃないか」

「なに、貴様、このまま彼女達が起きるまで一緒に居るつもりだったのだろう」


 勇者の行動を読んでいたのかオグワはドヤ顔で説明するがダニエルはそんなことなさいと言い、その場を後にした。


「置いていくなよ」

「置いていかれるのが悪い」


 オグワが追っかけてくるとダニエルは少し歩く速さを抑え自然と2人が横に並んだ。


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