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魔王と勇者は案外仲が良い  作者: 雄太
勇者と魔王
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1 邂逅

 

 勇者と魔王は案外仲が良い。それがこの世界の常識であった。


 冥王暦596年勇者ダニエルが魔王討伐を成功させ王城に帰還する。だが勇者と共に帰ってきたのはアネット、フィスリア、オーガスタ勇者パーティーのメンバーではなく魔王本人であった。



 王城に連れて来られた魔王は全身が赤黒く腫れ上がり片腕片足が欠損した状態であった。欠損した手足からは今も緑色の血液らしき液体がポタポタと垂れ、何故この状態で生きていられるか不思議なほどであったが『腐っても魔王』手足の欠損ぐらいでは殺せない、死ぬわけがない、そのぐらいタフと言う謎の認識が王城内の兵士達を支配した。なので誰も気を抜いてなどおらず、今も魔王を取り囲むように槍が突きつけられている。一歩でも動いたら串刺しに出来なくもないがそれは厳しいだろう、手負いでも魔王である、まともに魔王軍と戦ったことすらない王城騎士など相手にならないだろう。


 魔王からかなり離れた玉座に座るのは王様のみその周囲には大勢の騎士達が警戒心むき出しで槍を構えている。

 国王の王妃と子供たちはこの玉座の間から一番遠い部屋魔王がいつ暴れ出しても良いように国王の手勢100と共に待機し事と次第によっては王城から脱出するよう言いつけている。




 魔王が王城に連れて来られた時は阿鼻叫喚の嵐であった。

 ここで待機していた兵士たちは魔王の首を勇者達が持ってくるものだと思い込んでいたからである。


 それがなんと帰ってきた勇者は『パーティは俺を残して全滅した』『魔王は殺せなかった』といい生きたままの魔王と並んで談笑していたり、まるで友達と思うほど親しげに肩を組んでいた。出発前の勇者の姿を見ているものからすればそれはあり得ない光景であった。


 今ここにいる騎士たちでさえ第一報を聞いた時、驚きのあまり言葉を失っていたが一応は騎士である訓練や鍛錬を積みこの場にいる者たちであるすぐに立ち直り、この場の護衛を務めている。


 だが最初に魔王を直視した者達はいまだに倒れていて使い物にならないそうだ。


 魔の物に耐性がない市民が魔王を直視すると全身の穴という穴から血が溢れ死ぬと言う眉唾物の噂がいまだにこの国には強く根付いている。この光景を見た物ならこう言うだろ『あながち嘘じゃなかった』となぜなら魔の物、魔物に耐性があるとされる騎士達が油断していたとはいえ魔王の姿を見ただけで動けなくなるほどであるからだ。


 魔物への耐性は生まれつきではなく後天的な物と一般的には言われている。

 最初から強い魔の物と相いれればたとえ耐性がある者と言えどその命を大きく削る事となる。なのでこの国では幼い頃から魔の物への耐性をつける為の教育が行われている。





「勇者殿! これは一体どう言うことだ!」


 玉座に座って魔王の動きを注視していた小太りの国王が激昂した。握りしめられた拳が振り下ろされ玉座の肘掛けにヒビを入れた。


「勇者殿には魔王討伐を依頼したはず、なのになぜ其方は魔王を殺さず友達のように接している? 魔王に誑かされたか? 金でも積まれたのか? いくらだ? いくら積まれたのだ?」


「陛下失礼ですが私と魔王、いえ、オグワは金で買った友達などではありません、」


「オグワ……だと」

「今、勇者殿はなんと言った?」

「名前で呼んだのか」


 魔王を取り囲んでいた騎士達の声がポロポロと漏れる。



「其方、今なんと言った?」


 思わず立ち上がった国王は額に手を当て貧血の症状が出たのかふらふらと足元がふらつき倒れそうになったが御付きのもの達によって両脇を抱えられ玉座に座らされた。


「だから、オグワは友達です」

「勇者殿、何を言っておる? 友達? 魔王が?」

「えぇ友達です唯一無二の。なぜ魔王が敵なのかその理由を考えた事がありますか陛下」

「その質問に答える義理はない」

「答えてくれないと……では私が勝手に答えるしましょう」


「陛下、そしてオグワを取り囲んでいる騎士の皆さんに質問です。『魔王は悪』それは誰から教えられましたか? 家族や街の伝承記色々あるでしょう、ではその家族は誰から教えられましたか?、ならそのまた家族は? 結局誰も出どころを知らないのですよ。しかし誰もが魔王は悪という認識を持っています。私も魔王討伐に行く前までは父や母が毎晩のように話してくれた伝承記を信じておりました」


 勇者はそこで話を切り周囲を見渡した、そこにはフルフェイスの騎士ばかりで表情など何も見えないが勇者には動揺している顔がよく見えた。


「そのあとはみなさんご存知の通り私は魔王討伐へ向かいました、ちょうどこの城で陛下の御言葉を授かり、白塗りの豪華な馬車に迎えられ、城下町に集まった市民達に手を振りながら出立しました。


 私が見た魔王城は皆さんが想像している魔王城とは全く違うものでありました、みなさんのご想像では真っ暗で血に塗れた感じでそこら中に何の生物かもわからない骨やらが散乱しているそんなイメージを持ってる人が大半だと思います、しかし私の目に飛び込んできた魔王城は、真っ白で清潔で清掃が行き届いていました、そこには血の一滴すら感じず、ここがあの魔王城かと疑うほどでした」


 その日勇者ダニエルが見た魔王城は半裸の魔物達が血走った目で警備して、そこら中で殺し合いの喧嘩が起きているなどなく。清潔にされた鎧や服を身に纏い、規律ある魔王兵達が城を警備していた。敵対関係である勇者が現れた際も見つけた瞬間に切り掛かる事などなく紳士的に対応された。先に手を出したのはどちらかといえば勇者パーティの方であった。紳士的に対応してきた魔王兵に対してアネット、フィスリア、オーガストの3人は攻撃を仕掛けその魔王兵を殺していた。


 だが他の魔王兵達は仲間が殺されたというのに剣を握ることもせず静観していた。


 3人の一過性の衝動が治まり冷静に周りを見渡した次に襲いかかってくる敵がいないか確認する為にだ。だがそんな敵はいなかった。そして自分たちがどんな行動をしたのか理解した。


 3人無意識のうちに自分たちの武器を落としていた。


 それを見て魔王兵の1人この地区の責任者だと思う兵士が武器を下ろして歩いてきた。


「俺の仲間がすまないことをした。申し訳ない」


 3人を尻目に勇者ダニエルはその責任者に向かって頭を下げた。このダニエルの普段であればあり得ない行動に3人は言葉が出なかった。


「気にするな。誰にでも間違いはある。俺たちが魔物でよかったな。人間が思っている通り魔物には協調性が無い。仲間が死んでも俺たちはなんとも思わない」


 ダニエルが顔を上げると既に先ほどの魔の物の死体はそこにはなかった。血の一滴すら残されてなかった。


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