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サニツ波 花ごよみ  作者: 昼咲月見草


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真南風 ⑧

 翌朝、アタラの家の前に集落のものが大勢集まった。


 一番前に立つのはこの集落を担当する大島の下級役人だ。


 どういうことかと問うてみれば、この家の女は魔物であるので、捕らえて王府へ連れて行くという。


「そんな、マハエは魔物などではない」


 アタラはそう言ったが誰もアタラの言うことなど聞きはしない。

 アタラの家族も、どうしていいかわからず困ったようにしていた。


 その周囲では集落の若いものたちが、「ああやっぱり」「おかしいと思ってたんだ」「どこの誰とも知れない女を嫁にするから」とひそひそとやる。

 そしてアタラの家族に「あんた達は悪くないよ」「騙されてたんだ」「悪いのは全部あの女だ」と話しかける。


 アタラは怒りで怒鳴り声を上げそうになった。


 ちょうどそのとき、誰かが集まったものたちの背後で一喝した。



騒がしい(やがます)!!」



 アタラの家の前に集まっていたものの目が声を上げた人物に集まる。

 そしてその人物を通すように人の波が割れた。


 その中を杖をついてゆっくりと歩いてくるのは、この集落の巫女だ。


「朝から騒がしい。誰の仕業だね」


 不快げに周囲をじろりとにらむと、誰もが押し黙り、役人のほうへ目をやる。

 役人はほんの少しうろたえたが、自分は大島からの役人なのだ、自分の方が偉い、貴い身分なのだと胸を張った。


「わたしだ。昨日の夜、この家の女が海へ潜って姿を変えるのを見た。お前たちはみんな騙されているのだ。この女はわたしが連れ帰り、王府へ引き渡すその日まで見張っていよう」


 アタラは思わず拳を強く握ったが、それをマハエが優しく包む。


 集落の巫女は忌々しいと言いたげに顔を歪め、役人をにらみつけた。


「大島の王府はこの島の全てに権利があるわけではない。その事はわかっているんだろうね」


「何を言う。誰より何より貴いのは王府におわします我が(おおきみ)。そして王神女である。島の全てに権利があって当たり前ではないか。たかが離れ島の集落巫女が勝手な口をきくな!」


 これを聞いて怒りを露わにしたのは集落の年寄りと世代が上の女たちであった。


 朝から忙しいのに訳のわからない話で集められて、若い者たちはおかしな事を口にしている。

 それだけなら後でいさめてやろうとも思っていたが、自分たちの巫女のことをここまでバカにされて黙ってはいられなかった。


「何を言うんだい、役人様!」


「たかがというのはうちの巫女様のことかね!」


「ものを知らんにもほどがある! どこの筋の役人だ!」


「アタラの嫁はサニツに引っ張り出して何もなかったんだろう!」


「あんた達、こんな役人の肩を持つなら、もううちの人間じゃないからね!」


 次々に声を(あら)らげて責め立てられ、マハエを悪く言っていた者たちは男も女も身を小さくした。


「お前たち、よくも、よくもこの貴い身分のわたしに……」


 わなわなと震える役人は怒りのままに怒鳴り散らさんと目を剥いた。

 しかしそこへ集落外の人間が大勢やって来た。

 全員、武器を持って簡素な鎧を身につけている。離れ島全体をまとめる上級役人の部下たちだ。


 その後ろから現れたのは、その上役本人、離れ島の役人全てをまとめる上級役人と、島の巫女たちである。


「巫女たちに夜中に叩き起こされて連れて来られた。この騒ぎはお前のせいか?」


「はい、ですがそれには……」


「我ら、たかが離れ島の集落巫女にはわからぬ話だねえ。大島の役人様は人の妻を魔物といって無理やり奪ってもいいと言う。この島の全てのものは王府のもので、王に権利があると」


「なに?」


 上級役人のいつもは穏やかな目がぎらりと光る。


「この家の嫁は美しいから自分のものとして、賄い婦とともに家に置き、大島へ帰るその日には連れ帰って誰かに高く売りつけるつもりのようだよ。どう教えたらこんな阿呆(あほう)が出来上がるんだね」


 ぎりりと歯を食いしばり、拳を固く握りしめると、上級役人は集落を任せていた役人を殴り飛ばした。


「この馬鹿者が! おまえは王府に病をばら撒くつもりか!」












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