クク……貴様は四天王の中でも最弱!
「クク……貴様は四天王の中でも最弱!」
大きな角に骨に覆われた大きな顔。
目元の大きなくぼみの奥では、ぎろりと大きな目玉が動きます。黒い大きなマントをはためかせ、悪の帝王ここにあり、とテーブルに足を乗せ啖呵を切るこの方こそが……
「魔王! 魔王! 魔王の中の魔王! 大魔王様だーっ!」
あがる歓声、打ち上げ花火。魔王城は暗い空とは裏腹に大騒ぎ。
一人だけ、魔王様の目の前の最弱四天王だけが青い顔でブルブル。なんと不敬な!
「い、偉大なる大魔王様、知っていますよ。ええ、でもそのコレは一体……?」
最弱四天王の手には紙キレ一枚。なになによく見てみると? そこには左遷の2文字が堂々と。最弱四天王は左遷が決定したようです。城勤めから左遷。左遷先は絶海の孤島だというではありませんか。降格も降格、下っ端だってこんなところにはいきません。
「コレ、実質の戦力外通告では!? 魔王様!?」
考えなおして! と最弱四天王は泣きつきます。涎と涙と鼻水をべったりこすりつけて。なんと不潔な!
「ええい、汚いわ! 離れろ離れろ。もう決まったコトだし、魔王、一度決めた事貫く主義だって最弱ちゃんも知ってんじゃん。ま、そういう事で。
魔王、昨日から超実力主義始めたから。弱者はみんないらない子。まとめて最弱ちゃんと島流しね」
「島流しって言っちゃってるよ! うわーん! 考え直してよ魔王ちゃーん!」
連行されていく最弱四天王。大きな船には弱い魔族がぎゅうぎゅう詰めです。魔王様はそれを城の塔から眺めながら、確かに、船がこの城から離れていくのを見届けました。水平線のその向こう、船が米粒より小さくなって、ついには見えなくなっても。
「良かったのん? 魔王ちゃんも乗って行っても良かったのに」
「クク……貴様は四天王の中でも最強……」
四天王最強。
赤いマントには最強の二文字。鋭く尖った爪と艶めく尻尾がチャームポイントです。
「魔王、魔王だもん。これから戦争始まるのに、逃げちゃダメっしょ」
「……魔王ちゃん。昔から責任感強いもんねん。知ってた、だから付き合ってあげる。
勝って、みんなの住む島に行こ」
四天王最強は拳を固く握りしめ、船があるであろう方向に視線を向けながら話します。
わかっていました。魔王も、四天王最強も、この国に住む、全ての魔族が。
戦争が起きたら、魔族に勝ち目はないと。
それ故の左遷でした。魔王は魔王。逃げることなどできません。だから託しました。未来ある魔族、心優しき最弱に。彼らが向かうのは絶海の孤島。魔族の超文明でやっとたどり着ける遠い島。
魔王はうなずき、固く目を閉じました。
そして勢いよく開け、塔の下、眼下に備える兵たちに号令をかけます。
「聞け! 魔王城に残ってくれた兵たち! 率直に言おう、此度の戦いに魔王軍に勝ち目などない! しかしわれわれは闘わなければ、勝たなければならないのだ! 何故か!? 敵の進行をここで食い止めねば、今見送ったわれわれの家族が、友が、愛する全てが蹂躙される! われわれはここで死ななければならない! だが、あえて言おう!
生きて、勝って、彼らを追いかけようと!」
「うおおおおおおお!!!! 魔王様!!!」
「その言葉を待ってました!!!」
「魔王軍に勝利を! 魔族に栄光を!」
「愛する家族のために!!」
歓声は鳴りやむことを知りません。魔王城にいる全員が雄叫びをあげます。どうか、また再び、見送った彼らと出会えますようにと……
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