第四話
「……聖女じゃなければなんだっていうんですか?」
「魔女という名称をお聞きになったことはありませんか?」
「まさか、クローディアがそれだと?」
「ひどいことを申し上げているのは分かっています。しかし神気に痛みを感じるというのは、やはり闇に近いものとしか思えないのです」
「しかし大神官は……」
「その大神官とやらは、信頼にたる人物なのですか?」
聖女イザベラの言葉に、フィリップは今まで信じていた世界がガラガラと崩れ落ちていくような感覚を覚えた。
そう大神官、すべて大神官だ。
神託だといってクローディアを連れてきたのも、周囲の不審をねじふせて聖女にまつりあげたのも、フィリップを婚約者に据えたのも。
聖騎士団を率いるフィリップは、王族の中でも魔獣討伐の総責任者的な立場にある。そのフィリップを魔女と番わせて、聖騎士団を内部から混乱させる――大神官が闇に属する者ならば、いかにも考えそうなことだった。
「しかしまさか、信じられない。クローディアが……」
「では確かめてみたらいかがでしょう。――これは光に守護された聖なる指輪で、闇の存在が身につけると、ついている水晶が黒く染まると言われています」
イザベラに差し出された指輪を、フィリップは震える指で受け取った。
「フィリップさま、魔性の存在にどうか惑わされないで。お心を強く持ってくださいませ」
指輪を握り絞めるフィリップの拳を、聖女イザベラの白い指が上からそっと包み込んだ。
「お心を強く持ってくださいませ。魔女を退治して、全てが終わったら、そのときは――」