男の子
ある静かな秋の日のことでした。かおりは一人でお留守番をしていました。その日、お父さんは仕事へ、お母さんは用事で隣町へ出かけていきました。そして妹は、友達のさっちゃんの家に遊びに行っています。普段、留守番をする時は、妹と一緒なので、かおりは少し新鮮な気持ちでした。
かおりは、はやいうちに宿題をすませることにしました。四年生になって、宿題の量が増えたからです。リビングで一人、漢字の練習をしていると、
「トン、トン、トン」
玄関のドアをノックする音が聞こえました。かおりは顔を上げ、首をかしげました。
(誰だろう?インターホンを鳴らせばいいのに。)
かおりはそう思いながら、ドアをあけました。するとそこには、知らない小さな男の子が立っていました。一年生か二年生くらいでしょうか。グレーの短パンに鮮やかなオレンジ色のシャツを着ています。
(だれだろう、この子?知らないな。)
かおりが誰か聞こうとする前に、その子が口をひらきました。
「これ、きみのでしょ?」
そう言って差し出してきた手の中には、つつのような物がにぎられていました。そのつつは、少し古びていましたが、きれいな花柄の模様でした。
かえおりはそれを見て、はっとしました。つつのはじの方に『かおり』と、小さくひらがなで書いてあります。それは、かおりのまんげきょうでした。 かおりは男の子からそっとまんげきょうを受けとりました。もう、ずっと前になくしたものです。