01.おお賢者よ、死んでしまうとは情けない
この作品のほとんどは作者の混沌としたテンションでできています。
そしてシリアスがとても多いです。
例えば、そう。
RPGの中でハッピーエンドをいただけるのは、大体聖剣を手にした勇者で、恋愛小説の中でも恋人同士はやっぱり結ばれて終わって、どんな漫画でもやっぱり最後には綺麗な落とし所が待っていて。
そういうのを手にできる人間っていうのは、やっぱり選ばれた人間ってやつなのだろう。
聖剣を扱えたり、器量が良かったり、頭が良かったり、特別強かったりと、やっぱりそういう人には最初からそういう素質とでもいうべきものがあるものだ。
生まれながらに持っていたなんて、虫のいいことは言わないけれど、少なくとも、空っぽな器ではなく、主人公を形作る、型とでもいうものを、どこかに持っている。
諦めない心だったり、強靭な肉体だったり、明晰な頭脳だったり。
……選ばれた人というものが、そういう人たちを指す言葉なのだとしたら、俺は正に選ばれた人間だった。
勘違いしないでほしい。自惚れていたわけじゃない。
謂わば、俺には才能というべきものがあった。自分でも不思議なくらい容量が良く、物覚えがよく、人を追い抜く力があった。
……でも、俺の人生は驚くほど不幸と困難の連続だった。
仲のいい両親と兄弟。そこまではいい。
頭の良かった俺は早々に、学ぶ楽しさを覚えた。
貪欲に、年齢離れしたことを学んでいく俺の姿に、両親は正直不気味さを覚えずにはいられなかったらしい。
なぜ自分からこんなに頭のいい子が、と。
仲のよかった兄弟は、段々と俺と話してくれなくなった。あいつは俺たちと違うから、と。
小学校に行ってからは、頭が良いと最初はもてはやされた。仲間もいた。学校の先生、周りの人も良くしてくれた。
でもそれは最初だけだった。
ある日突然、事件が起きた。些細な事件だ。小学校内で起きる、長期的に見ればとても些細な事件が。
でも、誰にも解決できないことだった。
そして俺が、疑われた。絶対に俺じゃないのに。他の誰かのせいなのに。
疑いを晴らすため、俺はその事件を解決した。幸い、俺には解決できる力があった。
…それで終わりだと思った。解決した!よかった!と笑った。
終わりはこなかった。段々とやってくる困難と不幸が大きくなった。
ある日…誰かの物が盗まれた。
ある日…事故に巻き込まれた。
ある日…想定外の自然災害に襲われた。
ある日…恋人が死んだ。他殺だった。
絵本や映画に出てきた英雄は、どんな困難でも乗り越える。
でも俺は耐えきれなかった。
俺が不幸を、呼んでいるんじゃないか。
そう思えてならなかった。
俺のせいで周りが不幸になる。俺のせいだ。俺が解決しなきゃ。俺が皆を助けなきゃ。
そんな意識に駆られ、ひたすら走り続けた。
それからどんなに大きなことを成し遂げても、どんなに皆が助かったと言ってくれても、俺の幸せは見つからなかった。
御涙頂戴のハッピーエンドも、主人公の資格も、金も、地位も、名声も、欲望もいらないから、平凡に生きて、死にたい。
それが俺の願いだ。その筈だ。
今でも、その願いは変わっていない。それどころか増幅され腹の下にわだかまっている。
しかし不幸なことに、誰も俺の願いなど聞いてはくれないようだった。
予定調和としか思えない、逆に違和感のある人生。それにもううんざりしていた。
だから
人生に絶望して、というよりかやる気をなくして、俺は自殺した。
ごめんなさいお父さん、お母さん。友達や同僚はきっと迷惑してるだろう。
そんなわけで、俺の物語はここで終わっている。俺という主人公の物語は、もうないのだ。
段々暗くなっていく視界に、俺は大満足だった。
ここで蘇生されるなんてありがちな展開にならないように、親も友達も兄弟も傍にいなくなるように予定調整したのだ。
完璧な計画を立てられたこの頭脳に、今だけは感謝したい。
これできっと皆、幸せになるはずだ。
不幸を呼び込む俺がいなければ。
僕は早く死というものがどんなものか知りたかった。
ーーああ、段々視界が暗くなってきた。俺は多分最後に、笑っていたのだと思う。
**************
やっと死ねたーー
と思っていた時期が俺にもありました。
はい、なぜか長い間、俺はこの上も下もないこの暗い空間に閉じ込められている。
体がなくなって、ふわふわと浮遊する魂になったというのに、輪廻転生という輪の中に戻ることはできなかったのだ。
死後数年は天国に行くために修行しなければならないとか、何処かの誰かに聞いたことがある気がするけど、これはその修行の一環なのだろうか。
それともあれか?俺は親より先に死んだから、罰として賽の河原にでも送られるのか?
「どういうことだ!また予定が狂ってしまったじゃないか!」
?誰の声だ?
空からのしわがれた声。
予定とはなんのことなのだろう。狂ってしまったとは、気の毒だな。しかし俺には関係のないことだ。
「まさかまた賢者が早く死ぬとは…。神の創りたもうた奇跡だというのに…」
「彼の処遇はどうするのです?このまま記憶を消して転生させても、あやつは同じことを繰り返すでしょう」
「そうだな…」
他にも何人かの話し合う声が聞こえてくる。
賢者とかなんだとかうるさいな。
もう少し理解できるように話してくれないだろうか。
「ならここはひとつ、趣向を凝らしてみませんか?」
一際若そうな声が言った。
誰なのかはわからないが、今までの喧騒が彼の一言でしんと静まり返った。
「なにか考えがあるのかえ?」
「簡単です。一つの肉体に一つの魂。そんなこと、誰が決めたのです?」
ん?話が変な方向に進んだ気がするぞ。
若い声は続けて言った。
「要するに彼の死を止める役柄がいればいいのでしょう?彼の魂を、既に魂がある他の肉体に受肉させてしまえば良いのですよ」
「……本気で言っておるのか?」
「ふざけてなんていませんよ。主人格の意向に、流石の彼でも逆らうことは不可能でしょう。行動するには、彼は主人格と共存するしかなくなる。ーーどうです?」
「そんな法外なことが…」
「違法ではないか?神の規則に反するのでは…」
「多重人格者なんて珍しくありませんよ。彼の元いた世界にもきっといたはずです」
「それならば…」
「ううむ」
おい、なに言ってるんだお前らは。
俺をどうするつもりなんだ?
「突飛な案だがそれなら彼も従うしかあるまい。精々頑張ってもらうとしよう」
なんだか俺の知らないところでとんでもない案が採用された気がする。
「では、賢者よ。行くがよい。これが貴様の新たな生だ」
そして突然、思考する間も無く視界が開けた。
…そこは、今までとは違い、光にあふれた世界であった。
『****!』
『**、****、**⁉︎』
目の前に意味のわからない言語を話している人たちがいる。逆光で誰かはわからないが、知っている人たちには見えない。
(マジかよ…)
ーーという以上の工程を得て、俺は輪廻転生を果たし、第二の人生を歩み始めた。
要するに、普通の人生はまだ歩めない、ということだろう。
とりあえず俺は一言言いたい。
ふざけんな、と。
呼んでくださりありがとうございました。
作者の忙しさにより基本的に不定期の更新になります。