~12歳の誕生日~
ボアの狩りを終えて村に戻ると
「あっ! おかえりエル!」
白いワンピースに黒く長い髪と黒い目をした可愛い女の子に話しかけられた。
「エミリア? こんな時間にどうしたの。」
彼女は僕の家の隣に住んでいる同い年の幼なじみで生まれた時からの付き合いだ。
「今日誕生日でしょ? だからプレゼントあげようと思って。」
はいっ!とラッピングされた小さな箱をもらう。
「ありがとう! 開けてもいいかな?」
「どうぞ!」
ラッピングを綺麗に剥がして中の箱を開ける。
中には黄色いひし形の宝石が入っていた。 宝石にはチェーンが付けられておりネックレスとして首からさげられるようになっている。
「宝石なんて高かったんじゃないの!?」
「それは私の手作りだから大丈夫だよ! お父さんと一緒に近くの採掘場に取りに行ったの。」
村から南に行くと小さな山がありそこに坑道がある。 あらかた掘り尽くされた今はほとんど使われていないが、管理はしっかりとされており小さな宝石くらいなら時々手に入る。
それにしても手作りだと言っていたが見事な加工で売り出されていてもおかしくない出来栄えだ。
「ありがとう、本当に嬉しいよ。」
「うん! よかった。 エルに合いそうな色を探すの大変だったんだよ。」
太陽の様に明るい笑顔を向けられ顔が火照るのを感じる。
でも、なぜ僕に似合う色が黄色なのだろうか。 エミリアと一緒で髪も瞳も黒いのに。
「ん? なぜ黄色かって? んー…何となくそんな気がしたの!」
まぁ、好きな色だから全然不満はないしむしろ黄色で良かったと思う。
「もうこんな時間だし良かったらエミリアもご飯食べていく? さっきボアがとれたんだ。」
丸太で作った台車に乗せて持って帰ってきたボアを見せてあげる。
「うわぁ! おっきなボアだね! 確かに美味しそうだけど……今日はやめとくね。 12歳の誕生日は大切な日だもん。 家族水入らずで過ごした方がいいよ。」
「そっか、そうだね。」
エミリアはばいばい手を振る。 名残惜しいが今日は仕方ない。
今日で12歳になる僕は1週間後に王都サンダリアにあるサンダリア第二学院に入学する。 全寮制で卒業までの6年間を王都で過ごす。 帰省は許されているもののサンダリアからここ、ホルン村までは馬車で3日ほどかかってしまう。 そのため帰省しようにもなかなか出来ない。
両親と離れて暮らすのは心配だが、エミリアも同じく第二学院に入学することが決まっておりそれだけが心のゆとりだ。
「ただいまー。」
「おかえりなさい。 あら、ボアをとってきてくれたのね! 今日は豪勢な料理が出来そう!」
アルルバおばあちゃんからもらった野菜をサラダにし、狩ってきたボアでステーキを焼き、森の片隅で採れたキノコをスープにした。 デザートには砂糖を使ったプリンという食べ物が出てきた。 初めて食べたがぷるんっとしていて甘くとても美味しかった。
「エル。」
「ん? どうしたの母さん?」
「あと1週間でお別れになってしまうけれど元気に過ごすのよ。 これを受け取ってちょうだい。」
母さんは黄色と緑色の糸を結んだミサンガという伝統的なお守りを作ってくれていた。 それを右の手首に結ぶ。
「ありがとう母さん。 最後のお別れって訳じゃないし、帰れることがあったら帰ってくるよ。」
「父さんからはこれを送ろう。」
父さんからは小さい皮で出来た袋をもらった。 一見ただの袋だがなんだろうか。
「それは魔法袋だ。 大抵の物は中に無制限に保管することができる。」
魔法袋なんて上級貴族か重役勤務のお偉い人しか手に入らないような物のはず。 どうしてこんな貴重な物を父さんが?
「父さんが王立騎士団の団長をしていたことは知っているだろ? そのコネを使って手に入れたものだ。 まぁちょっとしたズルだがこれくらいはいいだろ?」
「ありがとう父さん!」
「それを渡すのはエルには世界を回って欲しいと思っているからだ。」
「世界?」
「そうだ。 父さんはサンダリア領の団長になれたことを誇りに思っているが、1つ後悔がある。 それが世界を回って旅を出来なかったことだ。 この世界には悪い魔物が沢山いる。 殺戮を楽しむ者、奴隷にする者、おもちゃにする奴だっている。 父さんはそんな奴らに苦しめられている人を救いたいと思ったが怪我をしてしまった。 だから俺のやりたかったことをエル、お前に託したい。」
「世界を回って人々を助ける…」
「まぁ、それも学院後の話だ。 俺の跡を追うだけが道がじゃない。 それを知っていて欲しかっただけだ。」
「うん、覚えておくよ。」
「すまない、こんな暗い話をしてしまって。 とにもかくにも」
「「エル、誕生日おめでとう。」」
「うん! ありがとう!」
それから1週間はあっという間に過ぎ旅立ちの日が来た。
「それじゃあね。 たまに顔見せに帰ってきなさい。 」
「エル、しっかり勉強して特訓して強くなるんだぞ。」
「うん、父さんに教えてもらったこと忘れないよ。 行ってきます。」
手を振り別れを告げる。
乗合馬車に乗り込むと中には目元を腫らしたエミリアがいた。
「エミリア、大丈夫だよ。 何も一生会えないわけじゃない。」
「うん、分かってるよ。」
エミリアにそういったものの自然と涙が零れた。
新たな生活に希望と不安を抱えながらサンダリアへ向かう。