~12歳の誕生日~
「エル! 起きなさい! 朝よ!」
母さんが部屋のカーテンを開ける。
心地いい陽射しで目を覚ます。
「んー、おはよう。」
めいいっぱい伸びをして身体を解す。
僕の名前はエルフォード・ラインハルト。 皆からはエルと呼ばれている。
田舎のちょっとした下級貴族の家に生まれ、今日で12歳になる。
「ご飯を食べたら父さんと剣術の特訓なんでしょ? 早く起きなさい。」
僕は毎日の日課で父さんに剣術の稽古をつけてもらっている。 面倒だと思う時もあるけれど、父さんに稽古をつけてもらえるのは嬉しく思う。
歯を磨き、顔を洗い、ご飯を食べる。 パンに目玉焼き、ベーコンと至って普通の朝ごはんだ。
ぱぱっと食べたら支度をして家の庭に向かう。
「おっ、来たか。」
「おはよう、父さん。」
「ああ、おはよう。」
上半身裸で汗をかきながら木刀を振るっているのは僕の父、ギルフォード・ラインハルトである。元は平民の生まれだったが剣術を認められて王国の騎士団長をしていた。 任務で怪我をしてからは引退し下級貴族の位をもらい田舎でのんびりと過ごしている。
僕も父さんの横で素振りを始める。
「もっと踏み込みを意識しろ。」
「はいっ。」
父さんにアドバイスを貰いながら特訓しているとあっという間に時間が過ぎた。
「そろそろお昼だけどどうする?」
母さんが僕たちの様子を見に来た。
「もうそんな時間か。 よし、飯にしよう。」
「今日のお昼ご飯は近くの川でとれたお魚です! 名前は分かりません。」
「それは食っても大丈夫な魚なのか?」
「きっと大丈夫よ。 焼けば何とかなるわ!」
紹介が遅れたけど、母さんの名はメラルダ・ラインハルト。 決して料理が下手なわけではなないし、むしろ美味しい方だと思う。 けれどよく分からない魚やキノコなど本当に食べれるのか分からない物をとってきたりするお茶目な母さんだ。
前にも1度家族全員で食あたりにあったこともあるけどあの時は大変だった。
「それじゃあ、いただきます。」
うん、匂いに問題はない。 身も白身で油がのっている。
「うん、美味しいな。」
「でしょ! エルはどう?」
「うん、美味しいと思うよ。」
本当に美味しい。 若干不安だったが何の問題もなく食べれそうである。
母さんが食べ終わった食器を洗っている時コンコンと扉を叩く音が聞こえた。
「はい? どなたですか?」
「近所のアルルバです。 お野菜のおすそ分けなんだけどね。 お母さんいらっしゃる?」
扉を開けるとアフロヘアーのおばあちゃんが食材を抱えて立っていた。
「アルルバのおばあちゃんいつもありがとう。」
「いいのよ。 こんなに採れても1人じゃ食べきれないからね。 また採れたら持ってくるから。」
僕の住んでいる村では母さんがよく分からない物を使った料理をしていることが知られていて時々こんな風にご近所さんが食材をくれたりする。
「母さん、アルルバのおばあちゃんがまた野菜くれたよ。」
「あら、いつもありがたいわね。 もう帰られた?」
「うん。」
「そう。 またお礼しなきゃいけないわね。 それはそうと午後はどうするの? また特訓?」
「そうだね。 父さんと一緒に森に入ることになってるよ。」
村の西側には広大な森が広がっている。 その森には様々な魔物が住んでいて特訓の場所にはうってつけになっている。 最奥部にはとてつもなく強い魔物がいるらしいが危ないため行ったことがない。
大抵は外側にいる弱い魔物を倒して特訓している。
「気をつけないとダメよ。 弱い魔物でも油断するとやられるからね。」
「うん。 分かってるよ。」
父さんと一緒に森に向かう。 森までは歩いて20分程で着いた。
「よし、今日の標的はあのボアだな。」
ボアとはほぼイノシシのことである。 違いとしては強靭な牙を2つ持っていて少し大きい。
「まずは父さんが気を引くからとどめはエルが決めるんだ。 いいな?」
「うん!」
父さんが指笛を吹いてボアの気を引く。
するとドドドドっと音を立ててこちらへ突っ込んでくる。
「ふんっ!」
刀を一振してボアの牙を2本とも折る。 それに怯んだボアは僕の方へと標的を変えた。
しかし牙をおられた影響か先程までの速度は出ていない。
「しっかり引き付けてから回避するんだぞ!」
ボアがあと1歩というところで右へ一躍し突進を躱しボアの左脇腹へ刀を突き立てる。
「せやっ!」
「ブモォォォオオ!」
雄叫びをあげ足が止まるとズシンと地面に突っ伏した。
「よくやった。 今日は豪勢な獅子料理だな!」
仕留めたボアをその場でサッと血抜きをした。
誕生日のメインディッシュとしては申し分ない!
僕たちはウキウキした気持ちで帰路に着いた。