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プロローグ

人々は恐れる、絶対的な「力」を、人智を超えた存在を……。

そう、彼は生まれた時から特別だった。そして、物心ついた頃には自分の内に存在する「力」を理解した。


 彼は最初、自分の力を他人の為に使おうと考えた。幼い頃に両親が読み聞かせてくれた物語の主人公は、例外なく自分の力を正義の為に使っていたからだ。しかし、彼はすぐに思い知ることになる。


 初めて人前で「力」を使い人を助けた時、彼に向けられたのは感謝の言葉では無く、悲鳴と罵詈雑言であった。彼の両親でさえ、彼の持つ異能を化け物呼ばわりして彼を殺そうとしたのだ。


 彼は悟った。自分は物語りの主人公にはなれないと。この「力」でどんなに善行を重ねようとも、その異常な力を恐れられるだけで感謝の言葉一つない。


彼は生まれ育った村を出た。ふらふらと当ても無く彷徨った幼い彼は、ある場所で一匹の魔物と出会う。

 それは、今までの価値観が根本から覆されるような体験だった。

 当然、魔物が襲い掛かってくると思い、それでもいいかと投げやりに魔物を見つめる。全身をビッシリと覆う黒い体毛、盛り上がった筋肉、鋭くギラつく二本の犬歯。二足歩行で、わずかに人型を留めているものの、この魔物が友好的であるとは考えにくかった。


 あと数秒後にはこの魔物の手にかかって死ぬのだろう。恐怖は無い。ただ悲しかった。自分が生まれてきた意味がわからない。自分は化け物と罵られる為だけに生まれてきたのか?それが、言いようも無く悲しかった。

 魔物が近寄ってくる。彼はぎゅっと目を閉じた。しかし、いつまでたっても身構えていた痛みが訪れない。恐る恐る目を開く。


魔物が、彼に跪いていた。

信じられないような幸福感が彼の全身を包む。

そう、彼は理解したのだ。

彼は異能者達の王となるべく生まれ

世界を統べる為に生きるのだと


 全てを理解した彼は透明な涙を流した。もう、彼は全てを許していた。彼を化け物呼ばわりした人間も、彼を殺そうとした両親も。

 彼は全てを許した上でこの世界を手に入れようと誓った。憎しみではない。欲でもない。そうする為に彼は生まれてきたのだ。


 彼は跪いた魔物を連れて歩き出す。異能者の総称である「魔物」。彼が「魔物」を統べる「王」、「魔王」と呼ばれるようになったのはそれから数年後の事である。





 魔物を敵として認識していた人間たちは、その実態をよく知りもせずに「魔王」を敵とした。しかし、力が遺脱している魔物達を殺すことは難しく、返り討ちに合うことはたびたびである。人々は考えた。魔物を殺す方法を。そして考え付いたのが、人型を保っている突然変異の異能者をたぶらかし、魔物を殺させる事だ。

 何らかの作用で人型を保っていたその異能者たちは「勇者」と呼ばれてもてはやされた。

 人々に誑かされた勇者の軍勢は魔物たちを蹴散らし、ついに魔王の拠点まで侵入する。魔王城。黒と赤で装飾されたこの壮大な城の最上階で今、最強の勇者と魔王による世界の運命を分ける戦いの幕が閉じようとしていた。





 眩く金色に輝く一振りの剣、を握り締め、満身創痍の勇者は立ち上がる。

「よお魔王、オレはもうそろそろ限界だ。お前もそうだろ?次の一撃で勝負を決めようぜ」


 無数の勇者を屠ってきた魔王、しかしその体は既に限界だった。ボロボロの体ながら威厳たっぷりに頷く。

「よかろう、貴様のくだらない提案に乗ってやろうではないか」


 王らしくなるために練習した言葉遣いは、今や自分の言葉としてスラスラと口から出てくる。しかしこれじゃあ本当に、小さい頃夢中だった物語のクライマックスみたいじゃないかと、わずかに口元が緩む。

 しかしこの場合、自分は正義の主人公に負けてしまう悪の親玉なのだろう。だからといって負けるつもりなど毛頭無いのだが。


 空気が張り詰める。一瞬の静寂、先に動いたのは勇者のほうだった。勇者は両足を大きく広げたスタンスでを構える。目を開けられないほどの強烈な光が勇者を包み込む。対して魔王は右手を前方に突き出して瞬間的に大量の魔力を練り上げた。双方の準備は整った。そしてついに決着の瞬間が訪れる。


「ディザスター(災害の魔弾)!」

「エクスカリバー(約束された勝利の剣)!」


 二人の攻撃はぶつかり合い、互いに喰らい合う。光と闇が混ざり合い、魔王城の天蓋を吹き飛ばした。重く冷たい銀色を放ち、夜空に君臨する満月が二人を照らし出す。そして、魔王の左胸にが突き立てられた。

 呆然と自身の左胸から突き出た金色の柄を見つめる魔王。そしてゆっくりと、悔しげに唇を歪める。


「ああ、またか」

 ポツリと呟いたその言葉は怒りと悲しみに震えていた。


「また貴様らはオレ様の邪魔をするのか。なぜだ?何が悪かった?今回はうまくいっていたのに・・・。いつも貴様らに邪魔をされる」


 貴様らが誰を指すのかはわからない。しかし、憤怒の表情で魔王は金色の柄を握り締め、荒々しく引き抜いた。


「オレ様はここに宣言する!今回はオレ様の負けだが決して諦めはしない!必ず世界を征服してやる!



                      オレ様は何度でも蘇る!」

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