サヤの職業
私は気づいてしまったのです。
とある重大な事実に。
「どうしよう…」
ユウからもらったお小遣い10000yenを握りしめたサヤは冒険者ギルドに暗い雰囲気を醸し出しながら歩いていた。
ゲーム内は快晴、春のうららかな陽気と時折吹く風が心地よい昼下がりのことだ。
サヤの装備は金属鎧ではあるが全身を包み込むようなプレートメイルではなく革鎧の上に薄い金属の板が貼ってあるような簡素なものでという種類であるためそこまで重くなくまた風も少しではあるが入るようになっている。
つまりそれなりに快適だということだ。
さて、そんな状態でトボトボ歩いている冒険者らしき人を見れば一般市民はどう思うだろうか?
情に脆く義に篤い、そして何より気のいい彼らはすぐ声をかける。
盛大な勘違いをしながら…
「おう、嬢ちゃん災難だったな…話したくないんなら詳しくは聞かねぇから、そんなしけた顔すんなや。ほら、焼き鳥一本やるから笑顔になりな?」
焼き鳥屋の店主がサヤに話しかける。
後ろでおっさん店主の奥さんが心配そうな顔でサヤを見つめている。
「辛かったでしょう…この辺りは普段は平和なんだけどねぇ…」
奥さんも何やら勘違いをしているらしい。
「ありがとうございます…代金はいくらですか?」
サヤは手に握りしめた10000yenを見ながら代金はいくらかと尋ねる。
サヤは焼き鳥をすでに食べ始めており返品は不可能だった。
「んなもんいらねぇよ。見事にやられたんだろ?そんな奴からこれ以上何を奪うってんだよ」
「そうよ?女の子なんだからこういう時は甘えたっていいのよ?心の傷は簡単には消えないんだから」
ちなみに
焼き鳥屋のおっさんは慣れない賭場で身ぐるみ剥がれるまで金を突っ込んでしまった新米ギャンブラーだと、
奥さんの方は騙されて金持ちの夜のお相手をさせられてしまった可哀想な駆け出し女性冒険者だと盛大に勘違いをしていた。
それもこれもサヤが無意識に色々と独り言を言っていたからである。
何を言っていたかはヤンキーを必死に演じているサヤさんへの冒涜になるためここでは伏せておくことにする。
「すいません…ありがとうございます。」
サヤは深い礼を焼き鳥屋の夫妻にする。
この通りサヤは礼儀正しい常識人である……ユウたちと比べれば。
「謝ったり感謝したり世話しない奴だな。これぐらいいいってことよ!次からはちゃんと気をつけるんだぞ!(カモられないようにな!)」
店主は胸を張って笑いながらそう言い
「しっかりと一つ一つ確認してから選択するのよ!(依頼内容はちゃんと見て違和感があったら受けちゃダメよ!)」
奥さんは『不謹慎な…』という目で夫を見ながらもサヤを心配する声色で言った。
「ありがとうございます!また来た時はたくさん買いますね!」
サヤは少し気分が晴れたのか少しだけ口角を上げていた。
「おうっ!待ってるぞ!」
「しっかり稼いでからにしなさいよ!」
そんなサヤを夫妻も笑顔で見送る。
「あの子大丈夫かしら?」
サヤが行った後、奥さんは夫にそう聞く。
「大丈夫だろ、なんせ『あの』ユウ達に保護してもらってんだからな!」
「まぁ!あのお人好しなユウさんが?!本当?」
「聞いた話じゃそうらしいぞ。ユウさんにゃうちも色々と助けてもらってるしよ、焼き鳥一本くらいサービスしてもいいよな?」
「そうね、次来たらこっそり一本サービスしておきましょうか」
そんな会話がされているとは知らず冒険者ギルドまでやってきたサヤ。
(ど、どうしよう…入っていいのかな?)
閑古鳥が鳴いているギルドの入り口でウロウロするサヤに見かねたギルド職員が中から出てきた。
なんせ始まりの街のギルドである。
普通のプレイヤーならばすぐに次の街に行ける、というかまずそちらに行くことが推奨されている。
実は外から2番目の街の方が敵のレベルは低いのだ。
そして中に行くほど敵は強くなって行くのだが2番目の街から外側へ行けば行くほど敵の強さは乗算的に強くなるのだ。
そして一番外側ということは一番流通的にも弱く武器や防具もたいして強いわけではない。
そして何よりダンジョンが周りにないため冒険者はこの街にはあまりいないのだ。
そんなわけで暇を持て余した職員がサヤに聞く。
「依頼ですか?それとも冒険者志願者ですか?とりあえず中に入りませんか?」
職員は久しぶりの新規冒険者のために張り切っていた。そんな彼女は常連を相手ばかりしていたために錆びついた営業スマイルを発揮する。
がやはり錆びついているものは錆びついているもので少しだけ頬がピクピクしているのがその証拠だ。
しかし想像してほしい。
例えば他人様の家の庭に落し物をしてしまって玄関前を右往左往している時に家主が頬をピクピクさせながら満面の笑顔で『中に入らない?』などと言われたらどんな気分だろうか?
黒い笑顔に見えるはずだ。
「ひっ…すいません!すいません!」
サヤは首ふり人形の如く高速で頭を下げながら『すいません』を連呼する。
「謝らなくてもいいから。早く中に入って。用事があるんでしょう?お話し聞きますよ?」
職員は突然謝り始めた女性に困惑しながらもとりあえず何か重大な事態が彼女の身に起きて今は混乱しているのだろうと予想を付けた。
確かにサヤは危機を感じていました。
主に職員さんの笑顔によって。
「お……O・HA・NA・SHI…?」
なぜかサヤは片言になっていた。
「そうです。中でO・HA・NA・SHIしませんか?」
当然職員さんはこの世界の住人なのでそんなネタは知らないがガチトーンでそのネタはネタにならないのだ。
それが黒い満面の笑みなら尚更。
「ヒッ…」
サヤは無意識に半歩後ずさる。
ちなみに職員さんの外見は一言で言うと美女。
それも氷のような雰囲気を持つ美女だ。
「中にどうぞ?」
「はい…」
サヤにはもはや脅しにしか聞こえなかったが職員さんはそんな気はさらさらなくただただ怯える可愛らしい女性を見て守りたいという気持ちになっていた。
そんな職員さんのレベルは実は70。
ステータスは魔法寄りの魔法剣士である。
ちなみにギルマスのドラコさんのレベルは90だがステータスを下げる魔道具を自らの両手両足にいつも装着している生粋のマゾ野郎のため常時はレベル50程度の強さである。
そんなことはさておきサヤはギルドのカウンターの前に立っていた。
(どうしよう、どうしよう!…うぅおねぇちゃん…この人めっちゃ怖いしどうしよう…)
「お名前は?」
「っ……サヤです」
「ご用件はなんでしょうか?」
(ここはどうするべきなの?!普通に冒険者になりにきました?それでいいのかな?間違えたら死ぬぞ私っ!考えろ!)
自体は全く深刻でないことに気づかない二人。
「ご用件は?」
若干イライラしているのではないかと思うような声で職員さんは言う。
がそれは職員さんが心配している時の癖であり本当に怒っている時は周りが凍りつくほど平坦な低めの声で喋るらしい。
らしいと言うのはその声を聞いた人はその時の記憶をどういうわけか失うから…というもの。
その理由?聞かない方が身のためですよ?
さてそんなわけで職員さんの癖など知るはずもないサヤはというと
(やばい……やばいよぉ……ずっとグズグズしてたら怒らせたっぽい……何か!何か言わないとっ!)
「冒険者になりにきましたっ!」
「あっはい。じゃあこの水晶に触れてくださいね」
「え?」
「聞こえませんでした?水晶に…」
「聞こえてました!さわればいいんですよね!」
「はい、そうですね」
サヤはここで自分が空回りしていたことに気づくのだった。
サヤが水晶に触れると水晶が光を放った。
その後職員さんが持っていた白い紙をサヤに渡す。
「その紙にあなたのなれる職業が書いてあります。
その中のなりたい職業をタップして職業を変更してください。
また転職の際はその紙をタップすることでできます。ご利用ありがとうございました。
良い冒険を」
そういうと職員さんはカウンターの少し奥の椅子に腰掛け読書を始めた。
表紙には『この春の男を落とす必殺コーデ特集』となっている。
そんなものを見て3秒ほど思考停止していたサヤは手に持った白い紙を見る。
(私のなれる職業は何かな?)
・守護者 ・召喚騎士
・従魔騎士 ・従喚士
ここで説明しよう!
守護者とはとにかく守ることに専念する特化型職業である!
運営がネタで作ったはいいものの地味すぎて運営の中ですら話題に上がらなかった本物のダメジョブだ!
召喚騎士とはいわゆるサモナーと言われるものと騎士のいいとこ取りをしようとして失敗したジョブだ!
騎士より劣る物理型ステータスで召喚など使えば
すぐにMPが底をつき動かなくなり、かといって強化ポイントを魔法系統に振るならそれって召喚士の下位互換じゃね?というなんとも言えないジョブだ!ただし短期決戦なら使う見込みはあると言われているこちらはきちんとしたネタジョブだ。
従魔騎士とはいわゆるテイマーと騎士のいいとこ取りをしようとした結果思わぬシナジーを生んだあたり職だ!
テイマーには魔法系統の能力は必要なくただモンスターに気に入られればいいので騎士としてのステータスはそのままに俊敏性を補ったり火力を補うこともできるという優れた職業であるが食費が若干かさむのと従魔は死ぬと12時間以内に復活アイテム(高額)を使用しなければ消滅するためペットロスを経験する可能性があるという悲しい職でもある。
ちなみに従魔は死ぬ間際どれだけ愛情を注がれたかによってする行動が違うとのこと。
最後に従喚士だがこれははっきりいって未確認職である。
『本来存在しない』いや『元々は存在していなかった』職業だ。
これは召喚士と従魔士のいいとこ取りをしたわけでもなくただただ無理矢理合わせたような職業。
召喚もできるしテイムもできる。
テイムした従魔を召喚獣としても扱え、また召喚獣をテイムすることもできるという謎仕様である。
しかしそれはまるで“一人では絶対に戦えない人のため”の職業。
そしてなぜか付いているおススメの文字。
「まっよくわかんないしこれでいっか」
サヤはよくわからないままに従喚士を選択した。
そう、なぜかそれを押してしまったのだ。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
サヤ
種族:ヒューマLV1
職業:見習い従喚士LV1
HP10+2 MP10+2 〔+40〕スタミナ10+2
筋力1+1〔+20〕防御101+2〔+109〕
素早さ1〔+10〕 器用さ1
知力1 精神1+2 〔+10〕
スキル
盾LV1
・盾装備時、防御力が10%上昇する
・『防御』に+15
・『筋力』に+15
鎧LV1
・革鎧又は金属鎧を装備時、防御力が10%上昇する。
・金属鎧による素早さへのマイナスボーナスが軽減される
・『防御』に+20
護衛LV1
・『防御』に+15
・『素早さ』に+10
硬化LV1
・物理ダメージを受けづらくなる
・『防御』に+20
魔法耐性LV1
・魔法ダメージを受けづらくなる
・『防御』に+20
従喚術LV1
・召喚ができる
・テイムが使える
・『MP』に+40
・『筋力』に+5
・『防御』に+5
・『精神』に+10
称号
・
装備
・武器
メイン 見習いの大盾タワーシールド
サブ 見習いの軽盾バックラー
見習いのナイフ
・頭 なし
・胴 見習いの金属鎧・上
・足 見習いの金属鎧・下
・靴 見習いの金属グリーヴ
・装飾品
綺麗なペンダント
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
そう、もふもふが足りないということにっ!
はい、サヤさんは私のモフ欲の犠牲になったのです。
元々は守護戦士で行こうと思ってたんですけど、よくよく考えてみれば圧倒的に『筋力』の値がサヤさんには足りないのです!(こじつけ)
私は猫とか好きなんですよ?
でもアレルギーなんですよ!
わかりますこの気持ち?
ねぇ?わかります?(2度目)【重要】
クソがぁぁぁあああ!!(魂の叫び)
はぁ……ねこ、ねこさわりたいよ…
え?犬?
もうペットロスはいやだよ……
柴犬の可愛い子でした…確か18歳でした。




