ショートカットぉぉおおお
階段を上る。
「ちょっと…まって……」
「ゼェゼェ…」
ここに来て意外な弱点が露見する。
マイとシン。
この二人は持久力がなさすぎるのである!
これが極振りの弱点か…
あっ、俺は鍛えてるんで。問題ないっす。
「ユウ…運んでくれないか?」
「やだね」
「友よぉぉおおおお!」
シン迫真の『裏切りの友よぉぉおおお』、である。
ここだと『ブルータスお前もか』の方が正しいだろう。
ちなみに俺も結構疲れている。
どうやら運動した時の疲れにくさは防御や筋力、素早さに関係しているらしく……
つまり、それらの値がほぼゼロのマイやシンはとんでもなく疲れやすい。
「ギブ……アップ……ふにゃぁ…」
マイが限界を迎えた。
マイは床にペッタリと張り付いている。
やれやれ、仕方ないな…
「ふぇあっ?!」
「拙者が運ぶでござる」
タローがマイをお姫様抱っこしていた。
しかもなぜか今は存在感が空気ではない。
眩しいっ!その王子様スマイルが眩しいっ!
元の顔がいいのになぜあんなに空気だったのか不思議だ。
「……ふぁ…ふぁ…ふぁぁあああっ!」
マイが顔を赤くして謎の奇声を上げている。
「ちょっ危ないでござるっ!足をそんなにバタバタさせたら見えるでござるっ!……いや、しかしそれならば役得か……?」
このゲーム、下着とかバッチリ見えるからなぁ…
無理やり見たらセクシャルハラスメントでログイン停止処分になるけど。
足をバタバタさせていたマイがピタッと動きを止めさらに顔を赤くする。
もう耳の先まで真っ赤だ。
「タロのバカ…」
「うっ、すまないでござる…」
このヤロー!リア充め!
「「ブー、ブー」」
心の底からのブーイングをアツアツカップルへ送る。どうやらリンも同じのようだ。
「え?俺は?誰か〜っ!」
シンの声が聞こえる。
どこだ?
「ここだよっ!」
「そこには足元にすがりつく哀れな錬金術師の成れの果ての姿が…」
「生きてるわっ!」
「ナイスツッコミ」
さて、行くか。
「おいぃ⁈置いて行くなよっ!」
全く…シン君は仕方ないなぁ
俺はシンの右足首を掴む。
「さぁ行こうか」
「「「おう」」」
ガンッガンッガンッガンッガンッガンッガンッガンッガンッガンッガンッガンッガンッガンッガンッガンッガンッガンッガンッガンッ
「イッテェェェェエエエエエ!!」
「うるさいなぁ」
「いやいや、普通人を運ぶ時って背負うか持ち上げるもんだろ?」
「そうか?」
「そうなんだよ!さっきから階段の角に頭が当たってマジで痛い」
「まぁ俺らは痛覚制御のリミッター外れてるからな」
これはマジでデメリットだと思う…
「とりあえず足離してくれ」
「オーケー」
足を離すとシンの体が少しずり落ちた。
「「「「「「あっ……」」」」」」
ガガガガガガガガガガンッ
「ゴフッ……」
シンよさらば…
「死んでねぇよっ!?というか今のでポーション一個無駄になったわぁ…あっ……」
疲労回復のポーションでも使えばよくね?
「じゃあ行こうか…」
そんなどうでもいいことがあり階段を登りきると
そこは15畳半ほどの小部屋だった。
そして真ん中に明らかに怪しげなボタンが一つ。
壁には絵画的なものが描かれており明らかに怪しげな感じがする。
謎解きか…
後ろを振り返ると階段は消えていた。
「ダンジョンって感じだよなぁ…」
ボソッとシンが呟く。
「このボタン……なんだろうね…」
まずいっ!リンのイタズラ心がっ!
カチッ
「何やってんだよぉぉおおお!」
「べ、別にいいじゃんっ!楽しそうだなぁって思ってやったんだし!」
いや、その理由じゃダメだろ…
すると前の壁が開きその先に道が出来た。
「ほらぁ!」
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……
何かとんでもない質量のものが動く音がする
「なぁリン?後ろ見てみようぜ?」
そこには通路の幅ぴったりの巨大な黄金の球があった
「き○たまか…」
「今ボケてる場合か!しっかりしろユウっ!」
「いや、全然ボケてないぞ?」
そして巨大なゴールデンボールはゆっくりと転がり始めた。
逃げるべきか?
ギリギリギリ…
「いっけぇぇえ!」
リンが矢を放つ。
カンッ……
『破壊不能オブジェクト』
なんだそりゃあ…
俺「にっげろー☆」
タロー「逃げるでござるよマイ殿!」
マイ「えっ?…うん」
ハナ「シン君っ!」
シン「え?あっ……俺が運ぶべきなんだろうけどなぁ…情けない…」
リン「このぉぉ…リア充どもがぁぁあああ……はぁはぁ……素早さのステが低いから辛い…ちょっとユウっ!」
俺「えっ何?」
リン「私も運んで欲しいなぁ…なんて」
俺「え?重……ゴフゥ」
俺は腹部への強烈なブローの感触を感じると共にHPバーがものすごい勢いでレッドゾーンまで減るのを見た。
女の人に『重い』は厳禁だな。
「いてて…かなり飛んだな…」
俺は地面と平行にしばらく飛んだはずだ。
人間って飛べるんだぜ?
初めて知りました。
そしてリンたちの方を見るとかなり下って来たことがわかった。
どうやら緩い下り坂になっているらしい。
そして目の前には幅15メートルくらいの大きな空洞が通路の地面に空いていた
底は…見えない。
多分リンのパンチで対岸まで飛ぶことができたのだろう。
するとゴールデンボールがものすごい勢いで転がってきた。
「ここで秘蔵のスピードアップポーションを使うとか思わなかったぁぁあああ」
「そんなのがあるならさっさと出しなさいよ!」
「大赤字だぁああ……くそぉう…」
シンとリンが言い合っている。
醜いなぁ…
「マイ殿安心なされよ…」
「はい…タロ君」
「ははっ」
「ふふっ」
爆発しろ!
こんな時もイチャイチャしやがって…
というかまだお姫様抱っこしてるのかよ!
そしてみんなが対岸にたどり着くとき
タローがいち早くマイを抱きかかえたまま走ってきた。
タローはそのまま走り続け途中で壁の方に向かい始めた。
「アーツ『壁走り』」
タロはそのまま壁を走り始め無事こちらに着地した。
そしてリン。
「アーツ『エンチャント、鎖』」
そして弓を天井に向けて放つと矢の後ろに光る鎖が繋がっていた。
そしてターザン。
リンも無事着地。
そしてシン。
渾身のジャンプ!!
が距離が足りず落下。
「「「「「…南無」」」」」
すると爆発音が聞こえると共に少し香ばしくなったシンが穴から煙を出しつつ飛び出してきた
と同時に転がって来たゴールデンボールにヒット。
回復ポーションを割りながらの見事な顔面スライディングを決めた。
「みんな、無事?」
リンがそんなことを言うが…
「お前のせいだからな?!」
なにせここの壁に正規ルートを通った人のための出口があるから…
「まぁ……ショートカットってことで!」
「はぁ…」
「鼻ついてる?顔面がヤバイ…」
「擦り下ろされてたからな」
そして奥を見るとまた上りの階段。
あとどれくらいでゴールなのだろう。