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エルフ騒動の裏で

携帯がブブと短くなりメッセージが届いた事を舞に知らせる。しかし舞は携帯を手に取らない。


「舞?いいのか?」

「ん?何が〜?」


舞は白色の薄手のパーカーにジーンズ、白いスニーカーという格好だ。これでも精一杯のお洒落だ。今日の舞はカッコイイ系を目指している。

それに対して太郎は白いTシャツの上に一枚黒いジャケット、それに加えてジーパンと黒いハイカットスニーカーを履いている。


太郎は舞の方を見ながら歩幅を合わせてゆっくり歩いている。舞は太郎の手を握ったまま満足気な表情だ。

メールがどうしても気になったのか太郎が口を開いた。


「メールかメッセージか知らないけど返信しなくて大丈夫?」


そう言われてからやっと舞は空いている方の手で携帯を取り出した。


「裕太からだね〜」


2人は手を恋人繋ぎにしながらゆっくり歩く。舞が左手でぽちぽち、と携帯端末を操作する。普段、両手で操作しているからか、片手だとその操作はぎこちない。親指が微妙に届かなくて苦戦しているのを見て太郎は笑いそうになるが堪えた。


笑ったら舞の右手が自分の左手から離れていくような気がしたから。笑いそうになるのを隠しながらメールの内容について太郎は聞いた。


「なんて?」

「一度みんなに相談したいことがあるんだけど、集合場所に私の家を使えないか〜?って感じ〜。しかも沙耶にはもう了承を得てるんだってさ〜。これで私が断ったら空気読めない感じになっちゃうよね〜」


舞は苦笑いしながら太郎の顔を見た。いつもより表情がとても柔らかい。でもなんだか真面目そうな雰囲気だ。何よりいつ見ても顔がいい。私の彼氏はカッコいいと舞は誇らしげに胸を張って歩き始めた。

舞はいつも少し猫背なので小さく見える、しかし背筋を伸ばせば……いや背筋を伸ばしてもやはり小さい。驚くほどに小さい。本当に高校生なのか?


「空気読んでないのは裕太も同じだけどな」


背筋を無理に頑張って伸ばしている舞を見た太郎はついに澄ました顔をするのに限界が来たらしい。その顔は太郎自身でも自覚できるほど柔らかい表情になっていた。


舞は『別にいいよー、ところでいつ来るの?』とメッセージを送り返した。


「ところでさ〜、珍しいよね〜」

「何が珍しいの?」

「太郎が突然来るのもそうだし『デートに行かない?』なんてさ〜」


本当に珍しいよね、と舞は笑いながら太郎の方に少し近づいた。


「ダメだった?」

「来てくれるのは凄く嬉しいよ〜?でもいつもと違うからさ〜……何かあったんだよね?」


首が痛くなるような角度で太郎を見上げる舞を見て太郎はどうしても少し笑ってしまう。


「いや、お父さんから急にお小遣いもらっちゃってさ。『これで遊んでこい』って言われて家から追い出されちゃったんだよね」


太郎は自分の財布を軽く叩いた。


「今まで遊んでこなかったから、 何したらいいか分からなくてさ、気づいたら舞の家に来てた。」

「ふーん、じゃあ教えてあげよっかなぁ〜」


舞がそう言ってから太郎を連れていったのは……


さまざまな音楽が喧しく鳴り響きもはや音楽として認識できない音圧。

カチャカチャとスティックを操作する音やボタンを押す音。

銃のような音から金属のような音までさまざまなサウンドエフェクト。


そこはゲームセンター。VRではなくコントローラーで遊ぶゲームである。VRが開発されてからもそう言ったアーケードゲームは滅ぶことがなく一定の支持を集め続けている。


「うわっ……うるさいね」

「行くよ!こっちこっち」


太郎は思わず顔を(しか)めた。舞はウキウキとした表情で太郎の手を引っ張っていく。


そこにあったゲーム機は格ゲーと呼ばれるものだ。舞は太郎を有無を言わせずに席に座らせるとコインを投入した。選んだモードは店内対戦モード。


「えっ、これどうすればいいの?」

「ほら始まるよ。レバー後ろに倒してガードね」

「え?後ろに倒してたのに?」

「それ下段だから斜め下後ろ」

「攻撃どうしたらいいの?」

「スティックZとパンチ」

「Zって何?うわっちょ……あー負けた」


太郎は分からないなりに頑張るが上手くいかずサンドバックにされてしまう。

なぜ店内対戦モードにしてしまったのか。


「ラウンド2あるよ!」

「練習モードとかないの?」


舞はその言葉を待っていたらしい。


「私の家にあるからそれでやる?」


一番気に入っているのは家で太郎とゆっくりしている時間のようだ。太郎もゲームセンターは新鮮だったがうるさいのであまり好きではなかった。


「そうする。でラウンド2どうするの?」

「もちろん私がやるよ」


そうしてラウンド2が始まった。


「小足見てから余裕ですわ……はい詰めて、投げて、また投げて……オッケーその暴れは見切った!小足から繋げて……ウルトでお終い!」


瞬殺だった。流れるようにコンボが決まっていき敵には何もさせずにラウンド2を取った。

舞は最終ラウンドもさっさと終わらせようとレバーを握った。


「トリガー溜まってる。トリガーオン……攻撃したら危ないぞー。トリガー様が後ろについてるからね?いいよ、画面端。なにもできないねぇ?哀れだねぇ?攻撃する?する?危ないですよー!」


最終ラウンドはカウンター技を決めて舞は勝った。太郎ははしゃいでいる舞を後ろから見て微笑んでいる。

次第にはしゃいでいた舞は落ち着いてきた。


「えっと〜別のゲームやろ?」

「オッケー」


しかし連れて行く筐体全てが対戦ゲームばかりでありアーケードゲームに慣れ親しんだ猛者達の前に太郎は何もできなかった。


「うーん、難しいね」


太郎は困ったような表情で自販機で買ったお茶を舞に渡した。舞はお茶を受け取りながら太郎を励まそうとする


「初心者なら仕方ないけどね〜」


初心者を対戦オンリーの筐体に連れて行きながらも舞はそう言った。太郎は負けてはいるもののそれなりに楽しいようで自分から次のゲームを探していた。


「これやってみない?」

「いいね!」


言わずとも知れた太鼓のゲームの筐体の前に2人で立つ。


「どの曲にするー?」


舞が太鼓のフチを叩くために腕を伸ばしているのを見た太郎はなんとも言えない幸せな気持ちになっていた。


「舞の好きな曲でいいよ」

「じゃあこれで」


選んだ曲は恐ろしく難しめの曲。

舞はそこそこ音ゲーに自信があるようで時折ミスをしながらも連続でミスはしていない。


一部のゲーマーの悪いところで初心者にめちゃくちゃ難しいことをさせるというのがある。初心者があたふたしている状態を見て楽しむというやつだ。今の舞はまさにそれだった。


しかし何やら状況がおかしい。隣からめちゃくちゃ正確にリズムを刻む音がする。太郎は最高難易度の鬼を選んで普通にコンボを繋げていた。


『フルコンボだトーン!」


「これ、楽しいね!」

「えっと、そうだね!」


(言えない、太郎がミスってあたふたしてるところを見て喜んでいたなんて絶対言えない)


舞はそんなことを思っているが太郎は音ゲーが気に入ったようで別の音ゲーのところへスタスタと足を運んでいく。

その後、太郎は舞のあたふたしている姿を見て楽しんでいた。


それと同じ頃、真也はセカンドワールドオンラインにダイブしていた。シンが今いる場所は家の中の農場だ。

害獣被害(サヤのペットによる仕業)を受けながらもしっかりと実った野菜達を見たシンは特に何も思わなかった。シンは無表情のまま育てた野菜や果物、薬草を収穫して行く。


野菜を保管室に入れ、薬草を調合室に持っていくシン。いざ調合を始めようかという時にメールが届いた。


無表情のままメールの差出人だけ確認するシンであるがそれが麗華から送られたものであるとその表情が綻んだ。


メールには『今日遊べる?』というような内容が書かれていた。勝手に上がる口角を抑えることなくシンはどんな内容でメールを返すか少し悩む。


勿論遊べると答えるのは確定事項なのだがなんとかしてイケてる返答をしたいと悩んでいた。

しばらく悩んだ末にやはり良い文が思いつかずに『遊べるよ』という短い文を送って膝をついた。


「自分の文才の無さをこれほどに呪ったことはないぞ……」


膝をついて項垂れているシンの目の前のドアが空いた。そこにユウがいることを認識したシンはログアウトする動作を行なっていた。


「シン、手伝って欲しいんだけど……」


ユウのログにシンがログアウトしたと書かれた。シンのアバターは残ったままで勝手に調薬を始めた。NPCと入れ替わるとそんなことになるのかとユウは納得しながら帰って行く。


「いや、なんでもない。そのまま調薬続けて」

「わかった」



真也はログアウトするなりクローゼットを開く。クローゼットの中は同じデザインのシャツや同じ様なズボンばかりである。その中で2着だけ周りと違う服がある。

麗華とのデートで買った服だ。真也は迷わずその服を手に取った。


普段気にしない髪型も妙に気になる。慣れない手つきながらもワックスを使って髪型を整える。

それからも真也はそわそわしていた。

携帯を片手に部屋の中を意味もなく歩き回ってみたり、メールボックスを何度も確認したりした。


そしてメールが来た。真也は秒でメールを読む。

その内容は今こちらに向かっているという内容だった。ここに来て真也は歯磨きを始めた。

歯磨きを終えると何度も確認した自分の持ち物をもう一度確認し始める。

そしてインターホンがなると真也はドアを開けた。


「今日はよろしくお願いします」

「こちらこそ宜しくお願い致します」


本日の運転手は渋い男性の瀬川さんではなく若い女性であった。

車に乗り込んだ真也は隣に座っている麗華を見てどうしても口角が上がってしまう。


「綾野、出して」

「かしこまりました」

「……真也、どうかしましたか?」


ニヤニヤしている様子が気になったのか麗華はそう尋ねた。


「いえ……その可愛いなと」

「そう?ありがとう」


勇気を振り絞って真也が言った一言も麗華には刺さらず軽い微笑みで返されるだけだ。真也はこんなことばかりで少なからずダメージを受けている。


麗華は麗華で少しばかり盛り上がっていた。顔にも声にも全く出さないが少し嬉しいような照れ臭いような気持ちになっていた。そして少し返事が素っ気なかったかな、と心配にもなっていた。


「今日はカラオケにいってからこの料亭に行こうと思うのですがどうですか?」


麗華は料亭のホームページを携帯の画面に映して真也に見せた。

ちなみにカラオケは麗華の自宅なので麗華の家で遊んでから料亭に行くことになる。


「いいけど……この料亭って」


真也はその料亭を見て少しめんどくさそうな表情を浮かべた。麗華はその表情を見て何か失敗したかと心配になる。


「何か気に障ることでもありましたか?」

「いや、そんなことは全然ないんだけど……裕太のアルバイト先だったなぁと」


真也は自分の携帯を取り出すとぽちぽちとなにかを調べ始め、何やら納得して携帯をしまった。


「そうなんですか。世の中は狭いですね」


それからは話すこともなくのんびりとした空気が流れる。車の中にはムーディな感じの曲が流れている。


無言の時間が気まずくなったのかどちらからともなく口を開いた。


「……あの」「すいません」

「あっどうぞ先に」「先にどうぞ」

「「じゃあ……」」


声が被り何故か面白くなってしまった2人はクスっと笑った。


「ごめんごめん、じゃあ俺から」

「はい、どうぞ」


と言って真也が話し始めたのは経済の話。それからの2人は先程の無音の時間が嘘のように話が盛り上がった。

運転手の綾野の頭の中はクエスチョンマークでいっぱいになっていた。この綾野、他人の恋路イチャイチャを見たいが為に瀬川に頼んで本日の運転手になったのだが……早くも後悔していた。


それからのカラオケでは落ち着いた感じではあるものの仲良くしているのを見て綾野は満足気であった。しかしやはりというべきか料亭に向かう途中では今度は政治の話で盛り上がり始めうんざりしていた。

確かに盛り上がって笑ってはいるものの話の内容が全然ときめかない。


料亭で美味しいものでも食べれば年代通りのイチャイチャが見れるだろうと期待していた綾野であったがその期待は裏切られる。


「で、最近はどう?」

「まぁまぁと言ったところかしら。セカンドワールド……アフターでしたっけ?」

「あぁ、銃撃つやつね」

「あれ結構人気らしくてゲームの開発部門がまた何かやってるらしいわ。次はロボットだ、とか言ってね。株主の中にもロボ大好きな人沢山いましたし反対はしませんけど」

「ふーんロボは好きだよ。でも人数足りるの?」

「宇宙なんて大きすぎる場所をプログラムしようとしてますから足りませんね。チーフ達も宇宙は無理だと匙投げてますし」


ゲームに関係していそうな話題で盛り上がっていた2人を内心ニコニコしながら見ていた綾野であったが突然話の方向が怪しい方へと変わっていく。


「ところで海外から撤退するの?」

「またお得意の情報収集(ハッキング)?」

「ただのネットサーフィンだよ。でどうするの、俺としては販路だけ残して工場とかはさっさと撤退したほうが良さそうだけど」

「ふーん……続けて」

「ちょっと西側がきな臭いんだよねぇ。また内戦が起きないとも限らないって感じよ」


綾野はとうとう諦めた。傍観するのを諦めた。これは何が何でも甘い空気にせねばと決意した。


食事が終わり料亭から出て行く時、綾野は麗華を先に車に押し込むと真也を捕まえた。


「真也君。もっと甘い空気を出しませんと!」

「へ?」

「麗華様にキスでもしてみなさいよ」

「は?え?ちょっと待って?」

「積極性が足りませんよ。麗華様も待っておられます」

「……そうなんですか?」

「パイの一つや二つでも揉みなさい!ほら乗った!」

「それは難易度高いっ?!」


綾野は真也を車に乱暴に押し込む。勢いよく車の中には押し込まれた真也は麗華に密着することになった。


「……」

「その……綾野がすいません」

「聞こえてました?」

「こちらの窓は空いたままでしたから」


沈黙が流れる。運転席のドアが空き綾野が乗り込んできた。

ルームミラー越しに『やってしまいなさい』と言わんばかりのサムズアップを真也に送る綾野だったが、それへの返答は麗華と真也が揃ってサムズダウンすることだった。


綾野はバッと振り返り麗華のいる席の窓が空いていることを視認した。綾野の顔がみるみると青くなって行く。


「綾野」


麗華の低い声が静かに響く。


「はい!何でしょう!」

「馬に蹴られてしまえ」

「申し訳ございません!でもイチャイチャみたいんですよ!」


顔を青くしながらも欲望に忠実な綾野に真也は笑った。ちょっと怒っていた麗華も真也が笑ったことでなんだか可笑しくなって笑った。


「まぁいいわ。綾野出して」

「かしこまりました」


綾野がアクセルを踏み車を発進させてしばらくすると真也は肩に重みを感じた。真也も段々と眠くなってきたのか瞼を閉じた。



暫くして綾野がルームミラーを見ると互いにもたれ掛かって寝ている2人の姿を見ることができた。

イケメンと美少女が寝ている姿は非常に絵になった。


「眼福……」


そう呟いて綾野はカメラのシャッターを切り藤堂社長にデータを送った。



同じ頃、沙耶はセカンドワールドオンラインにダイブしていた。熊の上に乗って移動する金太郎スタイルで森の中を爆走しネコを探し求めていた。


しかし未だにネコが見つかることはない。

熊が爆走しているのだ、それは猫も姿を隠すというものである。それに気づかないサヤは未だに熊のクマコーを走らせ続ける。


「ねこちゃーん!出ておいでー!ほらクマコーとマフモも」

「が、がうー!」

「きゅ、きゅいー」


おそらく彼女がネコを見つけることはできない。

そろそろ終わらせたいけど終わらせ方が分からない。

次回作にご期待ください、とでも書けばええんか?


ユウ達って4月頃にゲームを購入してこの話くらいでは大体10月か11月くらいを想定して書いてるのですが、まだ1年経っていないという事実。

ユウ達が1周年くらいを迎える頃に終われるようにしたいなぁ。

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