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閑話 開発班 長閑な日常

いつも通り開発と運営と宣伝と対応を並行処理し続けるおっさんやお姉さん共は、珍しくのんびりしていた。


「サーバーもここまで大きくなれば誰も手出しできんだろう」


森田はそう言いつつも画面と睨み合いをつづけている。

なんと、ある時を境にクレームやらのGM案件が激減したのだ。そのため彼らは非常にゆるりとした時間を過ごせていた。


しかし、忙しい毎日に慣れすぎたのか皆そわそわしていた。

何せここ1ヶ月ほどシアだけで殆どの対応が済まされている。つまりシアだけで対応できる問題しか起こっておらず彼らには嵐の前の静かさにしか感じられなかった。


そして少し後、とうとう恐行に走った人物がいた。

無論チーフである。


「そうか!お前ら(害悪プレイヤー)が何か企んでいるなら先にこちらが問題を起こせばいいんだ!」


事案を増やしてどうするんだ。

ちなみに今ツッコミ役はここにいない。


「ここのところ暇だし、イベントもやってないよねー」

「なんか、モンスでもばらまく?」

「ばら撒くのはどうなの?」


こんな会話を皮切りに話題はヒートアップ。

くだらない話を肴に酒が進めば計画も進む。

時折、ストッパーである森田がプラモデルを仕入れに行くのだが今回は数量限定のレアプラモ。

森田は溜まりに溜まった有給を消化する意気込みで遠くへ旅立っていった。尚、旅の期間は13時間であった。意気込みだけで全然消化できていないのである。


しかし、13時間も有ればやる気のある変人共は大体のことができる。杜撰な計画を綿密に隠して、いや妨害に合わないようにしていく。どうやらバレるのは前提らしい。そしてばら撒いたものが……例の触手である。


ちなみに今回作ったものは旧支配者イベントというらしい。森田が温め続けていた(もはや趣味と化していた)旧支配者世界線なるものを13時間でイベント用に仕上げてしまう変人共。


森田としては公開はまだ先の予定であり(公開するつもりなんてない)そもそもセカンドワールドオンラインの一般フィールドとしてこっそり作っていたのに(一応の言い訳である)一回きりのイベントで使っておしまいというのは色々と納得が行かなかったようで(お気に入りのジオラマを捨てたくない)……


「俺のをおっ!危うくぶっ壊しそうにしてくれがって!」

「言語しっかりしてくれ」

「俺は、怒っているよ、モーレツに、今」


イベントのキーは例の触手。ばら撒いてしまったものを消去するのは膨大すぎるログを辿らなければならない上、森田対策として触手は位置のログを残さないという仕掛けまでしているときた。

努力の方向が明後日に向かっているが、なまじ技量が高いせいで厄介である。


「頼むぞー、見つかってくれー」


森田が血眼になって触手を探している間、変人達は騒ぎが起こったことに安心して眠りについた。

暴動や物騒な状態こそ彼らにとっての平穏な日常。


彼らはじっと出来ないのである。

やりたい事をやりたいだけやって疲れたら寝る。

子供である。


「イベントの発生条件はこちらの息のかかっていないプレイヤーと触手が交戦状態に入ること。

つまりそれさえ潰せばイベントは開始しない。このイベントを潰すくらいどうってことはない。俺の腕の見せd」その10時間後。


森田は両手両足と額を床に擦り付け、寝ていた。


タローやNPC達が触手をほぼ全て撃破していたことへの感謝の気持ちが寝るときの姿勢となって現れ出たのだろう。そうであってくれ。

背中にうっすら完全敗北の文字が見えるのは疲れからだろうか。

違う、シャツの下に着ている漢字プリントTシャツの文字が透けて見えているだけだ。ちなみにお腹側には『ハラキリ』とカタカナで書かれている。縁起が悪い。


で結局のところ、啖呵を切っておきながら森田は触手を1匹も発見できていない。


そんな絶望に暮れていたところへシアから連絡が入ったのだ。森田、ダサイ。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


ー森田が両手両足と額を床に擦り付ける30分前ー



『報告です。例の触手を殲滅完了しました。それとプラモ有難うございます。大事に使います』


この報告が彼を救った。森田がシアに渡したのはプラモのデータなので大切に使うも何もないと思うのだが森田には後半部分が重要だった。

こういう時に救われるならばプラモをわざわざ買っている甲斐があるというものだ。


「マジ?」

『はい、マジです。次はこのプラモが欲しいのですが」


シアが別のモニターに欲しいものリストを投影する。

リストの上のほうにある某○○国の国家サーバーなどの項目には既に『済』のスタンプが打ってある。

おもちゃの安全が確保できた森田は上機嫌だった。


「いいよっ!おじさんなんでも買ってあげる」


森田、舞い上がる。埃も舞い上がる。

埃舞い散る汚部屋で中年親父が、なんやかんやで舞っている。


『なんと!それは本当ですか』


シアも舞い上がる。画面の中の紙吹雪も舞い上がる。

画面を隔てるだけで舞うものが違うのだから『画面の中の世界に行きたい』という輩が一定数いるのだろうな、とチーフは思った。

チーフはズズズっと音を立ててコーヒーを飲もうとしたがマグカップの取手が取れた。

コーヒー(オリジナルブレンドのブラック)がぶち撒けられる。

なお、そのコーヒーの社内での評価は低い。


「熱っ!?あっつい!」


「あ、でもあまり高いものは……」

『ならそうですね、これも……いえ、こちらの限定版の方も捨てがたいですね。もちろん数は1つだけですよね?』


森田、フリーズ。


「ところで昼飯どうする?」

「焼きそばかな?」

「お寿司……」

「……待て、まだ鼻にワサビを突っ込んだ奴を見つけてない。あとマグカップの取手を取れるように改造したの誰だ」


森田、解凍。


「あ、うん。そうだね」

『でしたらこれを』

「……勘弁してください」


もしかしたら森田が両手両足に加え額まで床に擦り付けていたのは思わぬ出費のせいかもしれない。

64分の1スケールの金のプラモ。それはプラモと呼んでいいものなのだろうか。もはや金細工レベルである。メッキではいけなかったのだろうか。どこの業界にも変人はいるようである。


そこへ守衛から連絡が入る。どうやら配達物のようだ。


「白猫配達でーす。コンテナ外に置いておきますね!」

「あ、どうも〜。毎回ありがとうございます」


コンテナを中に置いたことがあるような言い草である。

そして配達をめんどくさがって、トラックの後ろを切り離して宅配の兄ちゃんは帰っていった。


すぐにコンテナの中が精査される。

そして問題ないと判断された荷物が開発室に送り届けられる。

変人ではあるが彼らはなんやかんやで結構な機密情報を抱えているのだ。


「おい待て!誰だピザ頼んだ奴!蜂蜜ピザ10枚って!」

「寿司も届いんてるんですけどウニしか頼んでないってどういうこと?エンガワ頼みなさいよ!」

「地酒8本セット買ったの誰?飲んじゃうよ!」

「経費で落ちませんか、社長?」

「ん?いいよ」


社長、にこやか。

今なら殴っても札束の山で殴り返す(ジュラルミン合金製アタッシュケース)くらいで許してくれそうである。


「即答?!」

「ダメだろ!?」

「え?だって娘に回復の予兆があるってよく当たる占い師が」

「「「「社長の金を守れ!金蔓が居なくなる!」」」」


結局よく当たると噂の占い師は防犯カメラのログを辿っても見つけることは出来なかった。

しかし法外な金額を要求されていたわけでも洗脳をされたわけでもないと知って彼ら(脛齧りの変人達)は安心したのだった


「「ん?これって……」」


しかし、それも些細なことに気づいたチーフと森田を除いてのことである。

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